発チの申立書テンプレを育てる(WordPressのコメント欄)

2023.08.17

設問

 WordPressで作ったブログのコメント欄に侵害情報があるとき、サーバー会社に対し、提供命令でサイト管理者を開示してもらうことはできるか。

問題の所在

 まず、WordPressで作ったブログが侵害情報であれば、サーバー会社に対してサイト管理者、つまりサーバー契約者を開示請求すれば良い。

書式17-4 発信者情報開示命令申立書(サーバー用、契約者情報)

 では、WordPressで作ったブログの「コメント欄」に侵害情報があるときは、どのようにしてコメント投稿者を特定するのか。WordPressで作られたブログでは、コメントはWordPressの機能によって投稿されるため、サーバー会社はコメントの投稿についてIPアドレス等の情報を保有していない。

 そのため、サーバー会社にコメント投稿者のIPアドレス等を開示請求しても、「当社は保有していない」との回答が戻るだけだ。ゆえに、第1段階としてサイト管理者(サーバー契約者)を開示請求し、第2段階として、開示されたサイト管理者に対しコメント投稿者のIPアドレスを開示請求するのが順当である。

 しかし、これでは審理が二重になってしまい、改正法の趣旨にもとる。そこで、サーバー会社に対し、サイト管理者(サーバー契約者)を提供命令により提供してもらうことはできないか? が問題となる。

法施行前の予習について

 この問題について私は、法施行前の予習でも結論を出せずにいた。サーバー会社に対する提供命令申立は、できないのではないか? とのニュアンスで検討されている。

 なぜ、当時結論を出せに出せずにいたか? その原因は、15条1項2号に該当する情報がない点にある。
 この問題が MNO-MVNOの事例に似ていることは疑いがない。しかし、MNOはMVNOに対し、15条1項2号の情報として「利用管理符号」(施行規則2条14号)を渡せるのに対し、サーバー会社はサイト契約者に対して渡せる情報がない(サーバー会社はコメント欄投稿者の情報を持っていない)。つまり、15条1項1号の提供命令は発令できるが、15条1項2号の提供命令は発令できない。そのような、15条1項2号のない1項1号だけの提供命令(「1号限定型」とでもいうのか)を発令してよいのか、というところが問題だと考えていた。
  ただ、 条文に明確に反している「2号限定型」でさえ既にいくつか発令されている現状、「1号限定型」が発令できないことはないだろう。

(2023/09/13追記)「1号限定型は条文に反し発令できない」と言っている裁判官がいましたが、条文は、必ずしも1号限定型を否定していないように見えます。(9/18追記)考え直したといわれ、1号限定型提供命令、発令されました(↓)。

現在わかっている問題点

 もっとも、提供命令の理解が進んだ現時点では、別の問題があることも判明している。これは、改正法施行直後(2022年10月ころ)に散々悩まされた問題である。15条1項1号イは次のような条文になっている。

「当該開示関係役務提供者がその保有する発信者情報(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。以下この項において同じ。)により当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者(当該侵害情報の発信者であると認めるものを除く。ロにおいて同じ。)の氏名又は名称及び住所(以下この項及び第三項において「他の開示関係役務提供者の氏名等情報」という。)の特定をすることができる場合」

 問題の原因は太字にした部分「当該発信者情報開示命令の申立てにかかるものに限る」の部分にある。つまり、発信者情報目録に記載して、発信者情報開示請求している情報のみによって、他の開示関係役務提供者を特定できなければならないのだ。

  例えば、サイト管理者に対する発信者情報開示命令では、サイト管理者に対してはIPアドレスを開示請求するが、このIPアドレスによって特定される接続プロバイダを提供命令により提供してもらう。また、例えばMNOであれば、MNOに対しては利用管理符号(施行規則2条14号)を開示請求し、この利用管理符号によって特定されるMVNOを提供命令により提供してもらう。
 いずれの例でも、開示請求している発信者情報によって、他の開示関係役務提供者を特定しなければならないことになっている。

 WordPressで作られたサイトの場合、サーバー会社はコメント投稿者のIPアドレスを知らない。保有している発信者情報は、サーバー契約者の情報(住所、氏名、電話番号、メアド)に限られる。そうすると、15条1項1号の「当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る」との関係では、サーバー契約者の情報によってサーバー契約者を特定することになってしまい、IPアドレスにより接続プロバイダを特定するとか、利用管理符号によりMVNOを特定するといったケースと本質的に違う。また、発信者情報目録にサーバー契約者の情報(住所、氏名、電話番号、メアド)を列記したうえで、 提供命令によりサーバー契約者の情報(住所、氏名)を求めることになると、本案の開示命令により求める情報が提供命令により得られる結果になってしまい、この点でも制度上おかしい。

解決方法

 以上を検討した結果、サーバー会社から提供命令でサーバー契約者の情報を提供してもらうには、以下の条件を満たすと良いことになる。

  1.  発信者情報目録には、サーバー契約者を特定するための情報を記載すること
  2.  当該情報はサーバー会社が保有している情報であること
  3.  サーバー契約者を特定するための情報は、サーバー契約者の情報そのものではないこと

 これらの条件を満たす情報としては、サイトのIPアドレスかサイトのURL、またはサーバー契約者の顧客番号が考えられる。このうち、サイトのURLは施行規則2条に記載されていないため、発信者情報目録に書けない。そして、サーバー契約者の顧客番号は施行規則2条14号の利用管理符号に当たらない。
 そうすると残りはサイトのIPアドレスである。サイトのIPアドレスは請求者側で調査可能だが、一応、見えていない情報である。もしかすると内部的なIPアドレスの割り当てがあり、調査できるIPアドレスとは違う値かもしれない。

解答例

 ということで、暫定的な結論としては、以下のようになる。

発信者情報目録に「サイトのIPアドレス」を記載しておけば、提供命令の発令が可能ではないか。なお、サーバー契約者を特定するための情報としてサーバー契約者の住所氏名を列記しないこと。

以上を前提にテンプレを作成した
書式29-1 発信者情報開示+提供命令申立書(サーバー用、非ログイン型IP)
※WordPress等のブログのコメント欄での権利侵害(サイト管理者とコメント者が異なるとき。
試用版

この方法の問題点

 この方法の問題点は、サーバー会社が提供命令に従わない場合にある。サーバー会社が提供命令に従わないと、最終的にはサイトのIPアドレスが開示されるだけであり、コメント投稿者の情報に1ミリも近づかない。ただ、それはMNO-MVNOのケースでも同じなので(利用管理符号が開示されてもMVNOが判明しないためどうしようもなくなる)。
 そうすると、「係る者」として、サーバー契約者の情報も発信者情報目録に列記しておけばよいのか? と振り出しに戻ることになる。
 MNOにMVNOを開示請求するときは(開示仮処分では)、MVNOの住所氏名を発信者情報目録に列記するので、本案で求める発信者情報が「係る者」の情報であれば、提供命令で得られたとしてもおかしくないのかもしれないが、ペンディングとする。


  • 2023/08/17 作成