検索結果の削除請求

グーグルやヤフー(Yahoo!検索)、マイクロソフトBingなど、検索事業者に対して、検索結果のうち一部の「URL等情報」(タイトル、URL、スニペット)を削除して欲しいと請求する手続です。サイト管理者が不明な場合や、サイト管理者に直接削除請求すると炎上しそうな場合に利用します。

最高裁は、削除対象を「URL等情報(表題、URL、抜粋)」と表現しています。このうち「表題」はタイトル部分、「抜粋」はスニペット部分、「URL」はサイトの所在を示す文字列です(実際にはURLの形式になっていませんが、最高裁は「URL」と表記しています)。

検索結果削除請求の法的根拠

検索結果削除請求権は、人格権侵害差止請求権の一形態です。最高裁判例(最三小決平29・1・31民集71巻1号63頁)により認められました(当サイト運営者が抗告人代理人を務めた事件です)。
最高裁はプライバシー権についてしか判断していませんが、名誉毀損などの人格権侵害についても同様に認められると考えられています。

平成28年(許)第45号 投稿記事削除仮処分決定認可決定に対する抗告審の取消決定に対する許可抗告事件

検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/482/086482_hanrei.pdf

検索結果削除請求の流れ

検索結果削除請求には、オンラインフォームからの方法と、裁判所の削除仮処分、削除訴訟による方法とがあります。

任意の削除請求(オンラインフォーム)

オンラインフォームに必要事項を入力して削除請求を送信する方法です。検索事業者の社内判断に委ねられるため、削除されないケースも多々あります。

裁判所の手続

オンラインフォームからの削除請求でも削除されなかったときは、裁判所の削除仮処分または削除訴訟を利用することもできます。グーグル、マイクロソフトは日本で外国会社の登記をしているので(2022/07)、当事者は米国法人ですが、日本法人相手と同じように手続をすることができます。従前必要だった海外送達の手続や翻訳は不要になっています。訴訟なら6~9か月程度、仮処分では1~2か月程度かかります。

削除が認められる場合の供託金は、30万円が一般的です。

ヤフーとグーグルの関係

ヤフーはグーグルの検索エンジンを採用しているため、基本的にグーグルとヤフーの検索結果は同じです。したがって、グーグルの検索結果がグーグルにより削除されると、ヤフーの検索結果は自動的に消えます。
他方、マイクソフトBingの検索結果は連動していないため、グーグルやヤフーを消しても自動的には削除されません。こちらは、別途削除請求の手続が必要です。

判断対象はスニペットかリンク先記事か

検索結果削除請求では、違法性を判断する対象が「スニペット」(最高裁のいう「抜粋」)なのか、リンク先の記事それ自体なのかという論点があります。グーグルは「スニペット」に違法性がなければ削除義務を負わない、と主張していますが、裁判所はリンク先の記事で違法性を判断しているものが多い印象です。最高裁の調査官解説でも、リンク先の記事で違法性を判断すると記載されています(法曹時報71巻11号271頁 注18)。

検索結果中には人格的な権利利益を侵害する内容が含まれていないものの、収集元ウェブサイトの内容には人格的な権利利益を侵害するものが含まれているという事案において、収集元ウェブサイトの内容について個別に主張立証して前記検索結果の削除を求めることを本検定が否定するものではないものと思われる

髙原知明・法律のひろば70巻6号51頁

リンク先のページがない場合の検索結果は消せるか

逆に、リンク先のページが消えているのに検索結果だけが残っており、そのタイトルやスニペットに人格権侵害の内容が出ている場合にも、当該URL等情報の削除請求ができます。これも調査官解説に書かれています。
特に、グーグルは、「サイト内検索」機能があるサイトについて、サイト内検索の結果をグーグルの検索結果に残すくせがあるようで、よく問題になります。

どのキーワードで検索した結果が消えるのか

最高裁決定は,「名前+県名」での検索では,読む人が少なくなるという理由で削除を認めていません。そのため,検索結果削除仮処分の実務では,検索キーワードとして指定できるのは「名前だけ」になっています。
もっとも,グーグルの場合,キーワードを指定して消すという処理ができないそうで,事実上,どのキーワードで検索しても,そのURLは検索結果に表示されなくなります。
なお,実務上は「名前+会社名」など,追加キーワードのあるケースでも削除仮処分が認容されているほか,多数の検索キーワードでの削除を認めた裁判例もあります(札幌地判令元・12・12,2019WLJPCA12126001)

削除対象はスニペットだけか

最高裁決定以前にヤフーは、スニペットが違法ならスニペットだけ、タイトルが違法ならタイトルだけ削除すれば良いという主張をしていました。しかし、この論点については、最高裁が「URL等情報を検索結果から削除することを求めることができる」と判断したことで解決しました。
削除の対象は、URL等情報(タイトル+URL+スニペット)であり、スニペットだけ、タイトルだけ、といった部分部分に消えるのではありません。

グーグルの運用

グーグルにフォームから任意削除請求すると、掲示板などの場合には、スニペットだけ消し、タイトルとURLは残すとの処理をすることがあります。削除仮処分を申し立てた場合(審理段階で、フォームに入力して欲しいと代理人に言われ、言われるがままフォームに入力した場合)も同様です。
しかし、スニペットが消えると、検索結果(残ったタイトルとURL)を消せなくなるケースがあるため要注意です。たとえば、グーグルのキャッシュが古く、現在のページの内容を反映していないときは、キャッシュが更新されるまで、その検索結果は消せない例があります。

逮捕記事の削除請求

最高裁決定以後、裁判所では、逮捕記事・逮捕歴に関する検索結果はとても削除しにくくなりました。逮捕から10年経過、15年経過によっても、裁判所は、逮捕記事が「いまだ公共の利害に関する事実」であるとして削除を認めていません。

もっとも「嫌疑不十分の不起訴」だけは例外です。札幌地裁令和元年12月12日判決、東京高裁平成30年8月10日(30年ラ696号)、東京地裁令和2年3月25日決定(2年ヨ169号)など、「無罪推定」にもかかわらず、逮捕されたという事実だけで犯罪者との印象を与えるとの理由などにより、プライバシーが明らかに優越する、と判断されています。

「嫌疑不十分」の不起訴であることの証明としては、「不起訴処分告知書」に不起訴理由の書かれたものを取りよせることで足ります。一般的には、不起訴処分告知書に不起訴理由は記載されていないため、不起訴時にもらっていても、再度、不起訴理由の書かかれたものを申請する必要があります。実際、検索結果削除請求のたびに取りよせていますので「できない」ということはなさそうです。

検索結果削除仮処分の主文と目録

債務者は,日本向けグーグル検索サービスにおいて,別紙検索結果目録記載の「収集元URL」にかかるURL等情報(表題,URL及び抜粋)を仮に削除せよ

申立ての趣旨を上記のようにして、検索結果目録として、削除対象のURLだけを一覧表示します。タイトルやスニペットは検索結果目録に記載しません。こうすることで、翻訳料金を安くできるほか、タイトルやスニペットが変動しても、目録を変更する必要がないというメリットがあります。平成30年くらいから、このスタイルで決定をもらっています。

検索事業者に対する損害賠償請求

検索事業者は、上記判例のとおり、「当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合」でなければ削除義務を負いません。したがって、フォームからの削除請求を拒まれたことについて慰謝料を請求しても、「優越することが明らかな場合」でなければ、慰謝料請求は認められません。
たとえば、犯罪報道のケースなら、不起訴処分告知書を示したのに削除しなかった、といったケースでないと慰謝料請求は難しいと考えられます。

  • 2020/05/09 作成
  • 2020/08/11 更新
  • 2021/06/18 更新(グーグルの運用と損害賠償請求を追記)
  • 2022/08/23 更新(外国会社の登記について反映)