発信者情報開示命令制度の予習1(匿名サイト類型)

2021.04.23

2021年プロバイダ責任制限法改正を受け、発信者情報開示請求の流れを、現行制度と新制度で比較してみます。まずは、匿名サイト類型です。

現行制度

現行プロバイダ責任制限法での開示請求の流れ(匿名サイト)
現行制度1(クリックすると大きくなります)

まず、現行制度の復習です。上図は、拙著「インターネット削除請求・発信者情報開示請求の実務と書式」57講で使っているものです。

サイト管理者に対する請求

まず、①サイト管理者に対し、IPアドレス、タイムスタンプを開示請求します。方法は、IPアドレス開示仮処分だったり、テレコムサービス協会書式だったり、メールだったりと、さまざまです。
②この請求によってIPアドレス等が開示されたら、③自分で、IPアドレスに対応するプロバイダを検索します。

接続プロバイダに対する請求

次に、④検索したプロバイダに対し、必要ならログ保存仮処分、ログ保存請求をします。⑤そのあと、発信者情報開示請求訴訟をします。
開示訴訟を提起すると、プロバイダは投稿者に⑥意見照会をして、⑦意見照会回答が戻ります。
そのあと、開示認容判決が出たら、⑧住所氏名が開示されます。

投稿者に対する請求

最後に、⑨慰謝料請求訴訟などをします。

発信者情報開示命令制度

改正プロバイダ責任制限法(2021)での開示請求の流れ(匿名サイト)
新制度1(クリックすると大きくなります)

https://kandato.jp/newproseki/

サイト管理者に対する請求

まず、サイト管理者を相手方として、IPアドレス等の発信者情報開示命令の申立をします(上図①、新法8条)。あわせて、提供命令の申立をします。提供命令申立では、(1)接続プロバイダの住所、名称を申立人に提供するよう求めるとともに、(2)申立人が接続プロバイダに開示命令申立をしたときは、IPアドレスなどを接続プロバイダに提供するよう求めます(上図②、新法15条1項1号2号)。
条文は、「本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は」(新法15条1項)で始まっていることから、提供命令申立は独立の申立てとは考えられていません。そのため、開示命令申立をせずに提供命令申立をすることはできません。

サイト管理者→接続プロバイダの類型では、サイト管理者に対するIPアドレス等の開示命令申立と、提供命令申立は同時なのではないかと想像します。申立ての印紙代は1000円です(民事訴訟費用法別表1、16項)。1000円だと、総務委員会で竹内局長なる人が言っていました。

プロバイダに対する請求

提供命令申立が決定となったときは、申立人にプロバイダの情報が提供されるので(上図③)、申立人は接続プロバイダに対し、投稿者の情報(住所氏名等)について、開示命令の申立てをするとともに(上図④)、ログの消去禁止命令を申し立てます(上図⑥、新法16条1項)。こちらも条文は、「本案の発信者情報開示命令事件が係属する裁判所は」で始まっていますので、消去禁止命令は独立の申立てとは考えられておらず、開示命令申立をせずに消去禁止申立てをすることはできません。

ログ保存期間が十分に長い接続プロバイダでない限り、接続プロバイダに対する開示命令申立と、消去禁止命令申立は同時なのではないかと想像します。サイト管理者に対する開示命令申立と別なので、ここでも印紙代が1000円かかると予想します。

なお、提供命令により開示されたプロバイダに対し発信者情報開示命令を申し立てする裁判所は、サイト管理者に対する発信者情報開示命令事件が係属している裁判所の専属です(新法10条7項)。

接続プロバイダに開示命令申立をしたあと、その旨をサイト管理者に通知すると(15条1項2号)、サイト管理者から接続プロバイダに対し、IPアドレス等の情報が提供されます。

その後、接続プロバイダに対する開示命令が決定されると、投稿者の住所氏名等の情報が開示されます(⑧)。「裁判所は、発信者情報開示命令の申立てについての決定をする場合には、当事者の陳述を聴かなければならない。」とありますので(11条3項)、接続プロバイダとの間では、審問期日(当事者から陳述を聴く手続)があるでしょう。

考察

本当に手続きは1つなのか?

サイト管理者が提供命令にしたがって接続プロバイダに対してIPアドレス等を提供すると、サイト管理者は役割を終えるのでしょうか?。ここでサイト管理者は手続きから抜けることになるのか(申立人は取下げをするのか)?。それとも、当初のIPアドレス等の開示命令申立の手続きが進んで、決定によりIPアドレス等が開示されるのか?。

サイト管理者の地位がどうなるのか、疑問が生じました。

新法15条3項に、「提供命令の本案である発信者情報開示命令事件」(サイト管理者に対する開示命令事件)が終了したときは、提供命令はその効力を失うとあるので、サイト管理者が接続プロバイダに対してIPアドレス等の情報を提供するまでは、サイト管理者に対する開示命令事件は終わらないはずです。しかし、提供されたあとは、本案はどうなるのでしょう。

本案であるIPアドレス開示命令申立は、申立人が別途IPアドレスを使って調査する必要などがない限り、いらなくなる手続です。よって、取下げ(新法13条1項)が予定されているということかもしれません。

そもそも、これは新制度が目指した「1つの制度」なのでしょうか。開示命令申立は2つ必要となるようなので(8条、15条1項2号)、結局、手続きは2つなのでは?との疑問も生じます。
たしかに、新法10条7項により、サイト管理者に対するIPアドレス開示命令と接続プロバイダに対する開示命令は同じ裁判体が審理することになるのでしょう。この部分を捉えて「一体」と言っているのかもしれません。

と書きましたが、総務省側からもらった資料により、答えが分かりました。

サイト管理者に対する開示命令事件と接続プロバイダに対する開示命令事件は併合されるそうです。最終的に開示命令が出ると、投稿者の住所氏名だけでなく、IPアドレスも開示される、ということでしょう。

協力的でないサイト管理者だとどうなるか?

次に、サイト管理者が「提供命令」(新法15条)に従わないとどうなるのかについても考えておきます。

提供命令に従わないと(サイト管理者が、IPアドレスからプロバイダを検索して、申立人に教えないと)、申立人は接続プロバイダに対して開示命令申立ができません。
その結果、サイト管理者に対する開示命令申立だけ審理が進み、決定がでて、IPアドレス等が開示されて終了、となるのでしょう。

サイト管理者との審問期日はある?

サイト管理者は、提供命令にしたがって接続プロバイダを申立人に伝え、IPアドレス等を接続プロバイダに伝えると、役割を終えると思われます。
この場合に、申立人がIPアドレス等がいらないと言ったときは、はたして審問期日(当事者の意見を聴く期日)は開かれるのでしょうか。
申立人は、上記のように、サイト管理者に対する開示命令申立を取り下げて、審問期日も開かれないのかもしれません。

サイト管理者が間違えると?

サイト管理者は、提供命令(新法15条1項)により、申立人に対し、接続プロバイダの名前を教えます。社内プロセスとしては、当該投稿に対応するIPアドレスを調べ、WHOISしたり逆引きしたりして、接続プロバイダを特定し、それを申立人に伝えるわけです。
その後、申立人が接続プロバイダに開示命令申立をして、その旨をサイト管理者に伝えると、サイト管理者は提供命令にしたがって、IPアドレス等の情報を接続プロバイダに伝えます。

ここで問題が生じます。IPアドレス等を受け取った接続プロバイダが検討した結果、「プロバイダは当社じゃないのでは?」と思った場合はどうなるのでしょう。ログイン時IPアドレスのケースでは、この問題が顕著になると思います。

接続プロバイダは審問期日において、「接続プロバイダは当社じゃない」と陳述するとして、再度、サイト管理者から「正しいプロバイダ」を教えてもらう手続は何でしょう。再度の提供命令申立? それとも、前回の提供命令の効果で、別の接続プロバイダを教えてもらう?

この点も、手続を検討しておかねばならないはずです。

複数投稿には対応している?

現行制度では、仮処分申立の別紙投稿記事目録には複数の投稿を記載できますが、開示命令申立てではどうなるでしょうか。IPアドレス開示命令申立で複数の投稿を記載できるとして、提供命令申立で決定が出ると、サイト管理者からは複数の接続プロバイダ名が提供されるはずですが、この場合、どの投稿が、どの接続プロバイダだと教えてもらえるのでしょうか。たぶん教えてもらえるはずですが、条文上は、この点が明らかではありません。

複数投稿で、複数プロバイダ名が提供された場合、接続プロバイダに対する開示命令申立は、プロバイダごとになるのか、それとも、客観的併合でまとめて開示命令申立をしてもよいのでしょうか(非訟事件手続法43条3項)。

強制執行の方法は?

提供命令に従わないサイト管理者などに対しては、やはり間接強制なのでしょうか。

削除仮処分は別になる

削除請求とIP開示請求とが同じ裁判所の管轄に属するときは、1つの申し立てて削除・開示仮処分ができます。しかし、開示命令申立制度を使うのであれば、削除は別の手続きで実施せざるをえないことでしょう。


  • 2021/04/23 作成
  • 2021/04/25 更新