発信者情報開示命令制度の予習3(MVNO型)

2021.04.24

現行制度の復習

MVNO関与型での開示請求フロー

まず、現行制度の復習です。上図は、拙著「インターネット削除請求・発信者情報開示請求の実務と書式」58講右頁(MVNOでの開示)で使ったものです。

サイト管理者への請求

接続プロバイダにMVNOが関与している場合でも、サイト管理者に対する請求の手続は同じです。まず、サイト管理者に対してIPアドレス等の開示請求をして(上図①)、IPアドレス等の開示を受けます(上図②)。

開示されたIPアドレスから、接続プロバイダを調べます(上図③)。

接続プロバイダへの請求

接続プロバイダが判明したら、ログ保存請求とともに、住所氏名の開示請求をします(上図④)。ここで初めて、当該接続プロバイダがMNOだと判明します。

そこで、MVNOの開示請求をして(上図⑤)、MVNOの開示を受けます(上図⑥)。

MVNOに対しては、やはり、ログ保存請求とともに、住所氏名の開示請求をします(上図⑦)。その際、MVNOに対しては、サイト管理者から開示されたIPアドレス等を示します。
もっとも、MVNOには固有のログがないため、MVNOにIPアドレス等を示しても、実際には、MVNOは上流のMNO等に連絡して、投稿者を識別するための情報(ICCID等)をもらいます。これにより、MVNOは投稿者を把握します。

その後、開示請求訴訟が認容されると、投稿者情報が開示されます(上図⑩)。

発信者情報開示命令制度

MVNO関与型での開示命令のフロー

https://kandato.jp/newproseki/

サイト管理者への開示命令申立

まず、サイト管理者に対し、IPアドレス等の開示命令申立をするとともに(上図①、新法8条)、提供命令の申立をします(上図②、新法15条1項)。

サイト管理者は、IPアドレスから接続プロバイダを検索し、当該プロバイダ名を申立人に提供します(上図③、新法15条1項1号イ)。

接続プロバイダ(実はMNO)への開示命令申立

申立人は、サイト管理者から教えられたプロバイダに対し、住所氏名の開示命令申立をするとともに(上図④、新法8条)、当該プロバイダに対し、ログの消去禁止命令申立をします(上図⑥、新法16条1項)。

第1回審問期日において、当該接続プロバイダは、「顧客情報はもっておらず、当社はMNOである」と言うはずです。第1回審問期日前に、答弁書でこの情報が明らかになるかもしれません。

その場合、次のプロバイダがいるということなので、申立人は、提供命令の申立をします(上図⑦、新法15条1項1号イ)。この決定により、MNOからMVNOの名称が提供されます(上図⑧)

MVNOへの開示命令申立

MVNOの名称を提供された申立人は、MVNOに対して開示命令の申立をするとともに(上図⑨、新法8条)、消去禁止命令申立をします(上図⑪、新法16条1項)。
このあと、申立人がMNOに対し、「MVNOに対する開示命令申立をした」と通知すると、MNOはMVNOに対し、ICCIDなど、契約者を特定するための情報を提供します(上図⑩、新法15条1項2号)。

そのあと、開示命令が発令されると、申立人に対し、投稿者の住所氏名などが開示されます(上図⑬)。

考察

MNOは、いつ抜ける?

現行制度では、MNOだと思っていなかった接続プロバイダに対してログ保存仮処分をすると、当社MNOであると言われ、その時点で、ログ保存仮処分からMVNOの開示仮処分に切り替えるため、MNOに対する手続は残ったままになります。

しかし新制度のもとでは、MNO(当初はMNOだと思っていない)に対し、投稿者の住所氏名の開示命令申立をしているので、MNOだと判明した時点で、MNOに対する開示命令申立は却下になる運命が決まります。
そのような開示命令申立を維持する必要はないため、MVNOに対してICCIDなどが提供されたあと(新法15条3項)は、MNOに対する開示命令の申立ては、取下げをすることになるのでしょう(新法13条1項)。

ただし、MNOに対する発信者情報開示命令事件を本案とする提供命令が発令されたあとなので、MNOの同意がなければ申立ての取下げができません(新法13条1項2号)。
MVNOへのICCID等の提供が必要となるので、審問期日における口頭での取下げはできず、裁判所から相手方への通知が必要です(新法13条2項)。
この通知を受け取ってから2週間以内にMNOが異議を述べないときは、取下げへの同意が擬制されます(新法13条3項)。
しかし、MNOが異議を述べるはずもないので、あまり注意する必要はないでしょう。

MNOに対する住所氏名の開示命令は却下なのに提供命令申立ができるのか?

当初はMNOだと思っていないプロバイダを相手に住所氏名の開示命令申立をして、MNOだと判明した時点で、MVNOの提供命令を申し立て、MVNOを教えてもらうわけですが、却下になる予定の申立てを本案として、提供命令の申立てができるのでしょうか?

却下予定の申立てを前提(本案)として、提供命令の申立てができないのであれば、別途、MNOに対しては、MVNOの開示命令申立が必要となってしまいます。それとも、申立の変更により、MVNOの開示命令申立に変更するのでしょうか。

総務省が一体としての手続で開示請求できるとして設計した以上、MNOの事例も織り込み済みだと思われます。そうすると、却下予定の本案でも、次のプロバイダがいる場合には、提供命令の申立ができると考えるのがよさそうです。条文上も、一応問題なさそうに見えます(新法15条1項1号)。

ICCIDは発信者情報か?

ICCID(ICカードの識別番号)は、MVNOが顧客を特定するために使う情報であり、発信者情報開示請求の手続では、MNOから教えてもらう必要があります。発信者情報開示命令事件では、新法15条2項により、MNOはMVNOに対し、「当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報を書面又は電磁的方法により提供」するものとされています。

しかし、ICCIDが「発信者情報」でないと、提供することができません。発信者情報は「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。」(新法2条6号)とされているので、省令で決めないといけません。

ところが、現行のプロ責省令7号は、「侵害情報に係るSIMカード識別番号」「のうち、当該サービスにより送信されたもの」と規定しており、「送信」が要件となっています。もし、MNOの保有するICCIDが送信されていないとしたら、MVNOに提供する情報には含まれないことになります。

ということで、これから作られる新省令では、「送信」の要件を外してもらいたいものです。


  • 2021/04/24 作成