HOME > 損害賠償請求・慰謝料請求
名誉毀損・プライバシー侵害・侮辱などの投稿は、民法上の不法行為が成立するため、民法709条、710条により、投稿者は損害賠償義務を負います。
(不法行為による損害賠償)
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089#3025
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。
まず、「請求書」を内容証明郵便などで送付する方法が考えられます。ただ、「慰謝料として○○円払ってください」と通知しても、すんなり払うとは思えません。そのため、交渉開始の合図とするくらいのつもりで出すのが良いでしょう。
示談交渉が決裂したときは、裁判所の手続を使って請求します。示談交渉をスキップして、最初から訴訟にすることもできます。日本の制度では、示談交渉をしないと訴訟してはいけないというルールはありません。
請求する金額が140万円以下なら簡易裁判所、140万円を超える請求額のときは地方裁判所の担当になります。
請求できる損害賠償は、投稿と因果関係のある損害に限られます。たとえば、「投稿によってお客が減って売上が1000万円減少した」(逸失利益)と主張しても、原則として認められません。なぜなら、本当に投稿のせいで売上が減少したのか、因果関係があるかどうか分からないためです。
そのため、ネットの投稿による損害賠償請求は、原則として民法710条にいう「財産以外の損害」、いわゆる「慰謝料」に限られるのが裁判実務です。
そうすると、「心」のない法人には「慰謝料」が生じないのではないかという疑問が生じます。しかし最高裁は、法人であっても慰謝料と同じような損害が生じると判断しています。名前は「無形損害」といいます(最判昭39・1・28民集18巻1号136頁)。
結論としては、企業もまた投稿者に対し、損害賠償請求ができます。具体的には、信用の低下を回復するコスト、従業員の士気の低下を回復するコストなど、「侵害行為がなかつたならば惹起しなかつたであろう状態(原状)を(a)とし,侵害行為によつて惹起されているところの現実の状態(現状)を(b)としa-b=xそのxを金銭で評価したもの」となります(上記最高裁判決)。
上記判例の調査官解説(最高裁判所判例解説民事編昭和39年度88頁)は,「判例が精神的損害の額は,その証明がなくても裁判所が諸般の事情を参酌して定めるべきであり(大判明34・12・20刑録7輯11巻105頁),また裁判官の自由心証,自由裁量によって定めればよいから数額認定の根拠を示さなくてもよいとされる(大判明36・5・11刑録9輯745頁,同明43・4・5民録16輯273頁,同大3・6・10刑録20輯1157頁)」と説明しています。
そのため,個人の慰謝料を含む無形損害については,裁判官が諸般の事情を参酌して定めるべきものとされていますので、投稿をめぐるいろいろな事情を立証すれば良いことになります。
ネットの投稿による慰謝料相場は、平成20年代前半は100万円くらいでしたが、最近(2020)では相場がかなり下がっています。企業の場合で30万、50万、個人の場合でも30万、50万、70万といった判決や裁判上の和解が多い印象です。例外的に200万、700万といった判決も報道されていますが、どの事例にもあてはまるというものではありません。
もっとも、これは裁判官が関与した場合の金額であり、裁判外で内容証明郵便を送って当事者間で和解をした場合は、もっと高額になっているケースは珍しくありません。「どうしても公にされたくない」といった事情が投稿者側にあると、200万、300万などと、慰謝料は高くなりがちです。
慰謝料とは別に、発信者情報開示にかかった費用、投稿者特定にかかった費用、いわゆる調査費用を投稿者に請求できます。全額請求できるのか、一部だけ請求できるのかは、担当する裁判体によって考え方が変わります。
発信者を特定するための調査には,一般に発信者情報開示請求の方法を取る必要があるところ,この手続で有効に発信者情報を取得するためには,短期間のうちに必要な保全処分を行った上で適切に訴訟を行うなどの専門的知識が必要であり,そのような専門的知識のない被害者自身でこの手続を全て行うことは通常困難である。そうすると,被害者が発信者を特定する調査のため,発信者情報開示請求の代理を弁護士に委任し,その費用を支払った場合には,社会通念上相当な範囲内で,それを名誉毀損と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である
東京高判平27・5・27(結論同旨:東京高判平24・6・28判時2154号80頁
この調査費用は,前記(2)の本件訴訟自体の弁護士費用とは異なるとはいえ,それと実質的に同様の性格を有する費用であることに鑑みると,本件記事の投稿と相当因果関係がある損害としては,5万円の限度で認めるのが相当である
東京高判平31・3・28
民事訴訟には弁論主義のルールがあるので、本人尋問の要否を決めるのは原告・被告です。裁判官の態度は、(a)「出ている証拠だけで判断できると思うけど、当事者が尋問要るというのなら拒まない」、(b)「出ている証拠だけで判断できるので、尋問申請されても採用しない」、(c)「今までに出ている証拠だとよく分からないけれど、当事者が尋問要らないというのなら、出ている証拠だけで判断する」、(d)「出ている証拠だけで判断できるし、当事者も尋問いらないと言っているので、このまま判決する」のいずれかです。裁判官が主導して、当事者が尋問しないと言っているのに「尋問が必要だから実施する」というケースはありません。
本人尋問は、どちらかの当事者が「証拠申出書」という名前の書類を裁判所に出し、両当事者(代理人)のいるところで証拠採用したあと実施されます。原告と被告のどちらかだけ尋問するケースもあります。尋問の期日は証拠採用の1~2か月あとになります。1人当たりの尋問時間は長くても1時間程度なので、原告・被告とも本人尋問するとしても合計2時間程度です。尋問を受ける当事者は、ハンコの持参を忘れないようにしましょう。押すところがあります。
ただ実際には、慰謝料請求訴訟で本人尋問が実施されることは、ほとんどありません。慰謝料額について争いがあっても、裁判所は「評価の問題」だと考えているので、出ている事情を考慮して、判例相場の範囲で慰謝料額を決めれば良いと思っているようです。もちろん、原告が「原告の精神的苦痛を本人尋問で立証したい」と申請すれば、裁判所は採用してくれる可能性があります。
慰謝料額の争いではなく、「投稿者性」に争いがあるのなら、本人尋問は必須です。「自分は書いてない」と被告が言っており、「書いてないことを被告の本人尋問で立証したい」と被告が言っているのに、裁判所が「要らない。被告が書いたと認定する」という流れにはなりません。負けさせるほうの証拠申出(尋問申請)を採用しないのはイレギュラーです。あるとしたら「要らない。被告は書いてないと裁判所も思っている」という流れでしょうか。しかし、こう言われたら逆に、原告側が「被告が書いたことを被告の本人尋問で立証したい」と言い出すかもしれません。そうしたら、裁判所は尋問を採用するかもしれません。こういったやりとりは、公開の法廷か弁論準備手続で行われるので、原告・被告の知らないところで本人尋問が証拠採用されるということもありません。
尋問は1問1答で、申請した側からの質問(主尋問)、申請された側からの質問(反対尋問)、裁判官からの質問(補充尋問)、の順番で実施されます。時間配分は主尋問15~30分、反対尋問同定度(15~30分)、補充尋問5~10分くらいです。主尋問、反対尋問の時間配分は事前に申請して決められているため、時間オーバーすると打ち切られることもあります。
たとえば原告本人尋問であれば、以下のようなイメージで会話が流れます。
【主尋問】
原告代理人:「被告と面識ありますか?」
原告:「ありません」
原告代理人:「知らない人に悪口を書かれたのですね?」
原告:「そうです」
原告代理人:「悪口を見てどう思いましたか」
原告:「すごくつらかったです」
・・・・等
【反対尋問】
被告代理人:「さきほど、被告と面識はないと言いましたね?」
原告:「はい? ありませんよ」
被告代理人:「よく被告を見てください。昨年、あなたが路上で殴った人に似ていませんか?」
原告:「え? あれは、その人なのですか?」
被告代理人:「被告を殴った記憶があるのですね?」
原告代理人:「異議あり!」
・・・・等
尋問したあとは、きまって「裁判上の和解」の試みがあります。示談で終わりませんか、との裁判官からの誘導です。尋問しない場合でも、裁判のどこかで裁判上の和解へ誘導されるケースは多々あります。
ネットの投稿を理由に慰謝料請求訴訟をして、裁判上の和解をする場合の和解条項サンプルを書いておきます。示談書の参考にしてください。
判決が出ても慰謝料を払ってくれないときは、強制執行が利用できます。預金、給与、賞与、保険、不動産、自動車などが強制執行の対象になります。
裁判外で示談した場合は、強制執行受諾文言付きの公正証書を作っていないと、すぐには強制執行できません。