ネットの投稿がどのような犯罪になるのか?

ネットの投稿は、民事上の不法行為(民法709条)になるだけでなく、刑法または刑罰法規での犯罪になる可能性もあります。どんな犯罪になるかは、投稿内容によって異なります。

【図解】民事の権利侵害と犯罪との対応

民事の権利侵害刑事での罪名
名誉権侵害(名誉毀損)名誉毀損罪(刑法230条)
信用毀損罪(刑法233条) 「経済的な側面における人の社会的な評価」(最三小判平15・3・11刑集57巻3号293頁)
侮辱罪(刑法231条) 民事と異なり、保護法益は社会的評価
プライバシー侵害対応する犯罪なし ただし、盗撮写真の公開を名誉毀損罪とした刑事の裁判例がある また、医師、弁護士などには、秘密漏示罪(法134条)がある
名誉感情侵害(侮辱)刑法には、名誉感情を保護法益とする犯罪がない
営業権侵害(営業妨害)偽計業務妨害罪(刑法233条)
威力業務妨害罪(刑法234条)
不正競争防止法違反の罪(不正競争防止法21条、22条)
著作権侵害・商標権侵害著作権法違反の罪・商標権侵害の罪

刑事告訴の手続

警察に「名誉毀損の告訴状」を持っていっても、多くの場合「先生、警察も忙しいんですよ」「人が死んだ事件のほうが重要ですよね」等々と言われたり、「コピーだけ預かります」と言われたりして、告訴状そのものは受け取ろうとしません。「うち、そういうのやってないんで」と言われ告訴状を受け取ってもらえなかったという記事もあるほどです。

また、被害者の住所地を管轄する所轄の警察署へ行かないと、「所轄が違う」と言われて、たらい回しになることもあります。

そういった場合に、強い態度で警察署長あての内容証明郵便を送るという弁護士の話も聞きますが、スムーズに捜査してもらうには、送りつけるより、「ひどい犯罪である」「投稿者を絶対に処罰してほしい」ということを警察に理解してもらって、スムーズに捜査してもらうが良いと思います。

そのため私は、警察への被害相談から始めるようにしています。

告訴期間

刑法の場合、名誉毀損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条)、秘密漏示罪(刑法134条)は、「親告罪」であり、「告訴がなければ公訴を提起することができない」と規定されています。そして告訴には期間制限があり、「親告罪の告訴は、犯人を知った日から六箇月を経過したときは、これをすることができない。」と規定されています(刑事訴訟法235条)。

そのため、発信者情報開示請求訴訟に勝訴して発信者の住所氏名が開示されてから6か月が経過すると、名誉毀損罪などでは刑事告訴ができなくなりますので要注意です。

投稿者は逮捕されるのか?

経験上、ネットの投稿で投稿者が逮捕されたという話は聞いたことがありません。他方、投稿者の自宅へ捜査策差押に行ったという話はよく聞きます。もちろん、加害者とされる人の事情聴取はあります。また、捜査されれば、警察から検察へ書類送検もされます。

ただし、起訴される例は珍しく、たいてい不起訴(起訴猶予)になっているようです。起訴される場合でも略式で罰金になっているケースが多いように思います。

ログ保存期間と警察の捜査

コンテンツプロバイダ(Twitterなど)からIPアドレスを取得して警察に渡すと、通例、警察は捜索差押令状を取って経由プロバイダへ行き、投稿者の住所氏名などの情報を取得するようです。

ただし、「ログ保存期間」の問題は警察に対しても容赦ありません。ログ保存期間がすぎてしまうと、ログ自体が物理的になくなってしまうため、警察が令状を持っていっても投稿者の情報を探せないのです。

もっとも、警察の捜査はプロバイダ責任制限法のような限定的な手段ではないため、当該投稿のログがなくても、関連する投稿のログから投稿者を特定できる可能性もあります。