名誉権侵害(名誉毀損)

2020.05.20

削除・発信者情報開示請求で最も多く利用される「名誉毀損」「名誉権侵害」について説明します。

【図解】名誉権侵害(名誉毀損)

【図解】名誉毀損
削除・発信者情報開示における名誉毀損

名誉権侵害(名誉毀損)とは?

名誉について最高裁は、「人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価である名誉」と定義しています(最大判昭61・6・11民集40巻4号872頁)。
つまり、その人や会社について「社会から受ける客観的評価」が名誉です。そして、名誉についての権利を「名誉権」、この名誉権を侵害することを「名誉権侵害」と表現します。
削除と発信者情報開示請求は民事事件ですので「名誉権侵害」と表現するのが正確ですが、刑事事件と同じく「名誉毀損」という表現も使われています。

名誉毀損の判断構造

削除・発信者情報開示請求における名誉毀損では、①「社会的評価の低下」はあるか、あるとして②「事実摘示」か「意見論評」か、③事実摘示なら「摘示事実は真実か」、意見論評なら「意見の前提事実は真実か、表現は適切か」という順番に判断していきます。
すべてクリアしないと、名誉権侵害としての削除請求や発信者情報開示請求はできません。名誉権侵害だとして裁判所で削除請求や発信者情報開示請求をしても、請求棄却になります。仮処分なら却下になります。

社会的評価は低下するか?

まず、「社会的評価は低下するか?」という問題があります(上記図の①)。たとえば「彼は今日、居眠りをした」という表現はどうでしょうか。これが国会議員の話で、議場で居眠りをしたというのであれば社会的評価は低下したと言えるでしょうが、自宅に帰宅して、仕事の疲れで居眠りしたという話であれば、おそらく社会的評価は低下しません。
このように、書かれている内容について、具体的なシチュエーションも加味して、「なんと酷い人だ(酷い会社だ)」と思われるような内容かどうかが判断されます。
判例上は、「一般読者の普通の注意と読み方を基準にすると」どう読めるのか、というところから、記事から受ける印象をもとに、社会的評価が低下するかどうかを判断することになっています。

感想表現でも名誉毀損になるか?

プロバイダはよく「感想にすぎない」から名誉毀損ではない、という反論をしてきますが、法理論上は正確な表現ではありません。判例上、「これが事実を摘示するものであるか、又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず、成立し得るもの」(最三小判平9・9・9民集51巻8号3804頁)とされており、感想表現(意見論評)であっても名誉毀損は成立するとされています。

事実摘示か意見論評か

もっとも、「事実摘示」と「意見論評」は削除しやすさ、開示請求しやすさが大きく違いますので、社会的評価が低下するとなった場合は、次に、その表現が「事実摘示」なのか「意見論評」なのかを判断することになります(上記図解の②)。
判断基準について最高裁は、「当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは,当該表現は,上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当である」「そして,上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値,善悪,優劣についての批評や論議などは,意見ないし論評の表明に属するというべきである。」としています(最判平16・7・15脱ゴーマニズム宣言事件上告審,民集 58巻5号1615頁)。
簡単に要約すると、「証拠をもって証明できる」かどうかです。
たとえば、「あの会社は最悪の会社である」とい表現については、おそらく何かの前提事実をもとに「最悪」だと表現されたのでしょうが、「最悪」かどうかを証拠で証明することはできません。これはもっぱら、表現した人の主観に関わる問題であり、その人が「最悪だ」と思ったかどうかだけの問題なのです。したがって、「最悪の会社」は証拠をもって証明できないので、意見論評だということになります。
実務上よく争われるものに「詐欺」があります。刑法上の「詐欺」には定義がありますが、一般の人は刑法上の意味で「詐欺」だと言っているのではなく、単に「こんなはずじゃなかった」という感想を表現しているだけ、ということが珍しくありません。そのため、削除事件や開示事件でも「詐欺」は意見論評だと扱われているケースが多数あります。同様に「ブラック企業」や「パワハラ」なども、事実を摘示しているのか、何らかの事情を前提にした意見論評なのかが問題となります。

事実摘示の違法性阻却事由

当該表現が「事実摘示」の場合は、摘示した事実が真実かどうかが問題となります。「彼はセクハラをした」という表現なら、本当にセクハラをしたのなら名誉毀損は不成立で、セクハラなどしたことがないのなら名誉毀損となります。
この点、「セクハラ」が意見論評ではないか?という疑問も生じますが、東京高裁では、具体的に何をしたかは全く記載せずに「セクハラをした」とだけ記載した投稿について、「セクハラという言葉のみから,その具体的な事実の摘示がなくとも,女性に対して人間の尊厳を奪うような性的な言葉を発し,行動をした者と推測できる」と判断し、事実摘示として扱われているものがあります(東京高判平23・9・28,東京高判平24・4・18)。

なお、判例上、事実摘示の違法性阻却事由は、その行為が①公共の利害に関する事実に係り、②専ら公益を図る目的に出た場合に、③摘示された事実の重要な部分が真実であれば、違法性が阻却されるとされていますが(最判昭41・6・23民集20巻5号1118頁,最判昭58・10・20集民140号177頁)、削除請求、発信者情報開示請求では、ほぼ③の要件だけが問題とされています。

意見論評の違法性阻却事由

当該表現が「意見論評」の場合は、意見論評の前提事実が真実かどうかと、当該表現が適切な表現かどうかが問題となります(上記図解の④)。
たとえば、「診てもらったが、ヤブ医者だった」という表現の場合、自分が医者に診てもらったという体験をもとに「ヤブ医者だった」という感想を述べているわけですから、「診てもらった」という前提事実が真実かどうかが問題となります。本当に医者に行って診てもらったのなら、前提事実は真実ですから、名誉毀損になりにくくなります。逆に、自分では行っておらず、作り話をしたのであれば、前提事実は反真実なので名誉毀損になります。
仮に前提事実があるとしても、「ヤブ医者」が適切な表現かどうかは、最後に問題となります。裁判例では、「キチ○イ」のような放送禁止用語といわれるような言葉であれば、表現が適切でないとして名誉毀損が成立しています。一方、「バカ」は、この要件では違法になりません。

なお判例上、意見論評の違法性阻却事由は、上記、事実摘示型の①②に加え、③当該意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であるときには、④人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない場合に違法性が阻却されるという基準になっています(最判平9・9・9判時1618号52頁)。事実摘示型の名誉権侵害と同じく、①と②は、削除請求、発信者情報開示請求では、ほとんど問題になりません。

真実と信じるにつき相当な理由(誤信相当性)

プロバイダは、「真実と信じるにつき相当な理由」があるから名誉毀損ではない、という主張をすることがあります。しかし、判例上、「真実と信じるにつき相当な理由」は責任阻却事由であり、違法性阻却事由ではありませんので、削除請求でも、発信者情報開示請求でも、この要件が問題となることはありません。
東京高判平25・10・17は,プロバイダ責任制限法4条1項の「『権利が侵害されたことが明らかであるとき』という法文に照らしても,発信者の主観に関わる責任阻却事由が存在しないことまでは主張,立証する必要がないというべきである」として、真実と信じるにつき相当な理由の不存在は、発信者情報開示請求の要件ではないと判断しています。

「名誉毀損で訴える」と言われたときは

「名誉毀損で訴える」と言われたときは、まず、自分の投稿が、【図解】のフローで「名誉権侵害」まで到達するかどうかをチェックしてみてください。
同じく、「名誉毀損で訴えられるのかどうか?」と悩んでいる人も、フローで、名誉毀損まで到達するかどうか確認するとよいでしょう。