1.問題の所在
違法な記事(ブログ)を見つけたものの,その掲載日がずいぶん前だったとしましょう。コンテンツプロバイダのログ保存期間は別としても,経由プロバイダのログ保存期間は3か月~6か月のところが多く,それ以前に書かれた記事ですと,違法な記事のIPアドレスから投稿者をたどることは困難です。
しかし,ブログが毎日更新されているとしたら,最近の記事についてなら,IPアドレスから投稿者をたどれる可能性があります。
では,過去の違法な記事を問題視して,最近の記事(特に問題のない記事)についてIPアドレス等の開示請求ができるでしょうか。
2.条文
条文上は,プロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」の解釈によります。この条文が,「権利侵害をした,まさにその発信者情報」と読めば,違法な記事の発信者情報しか開示請求できないことになりますが,「権利侵害に関連する発信者情報」というように読めば,違法な記事以外の発信者情報も開示請求できることになりそうです。
条文上は,「侵害情報の発信者の特定に資する情報」というカッコ書きもありますので,「資する情報」として,関連記事の情報も対象になっているとも読めます。
3.発信者情報目録
この問題について,以前,東京地裁の9部で開示決定をもらったことがありますので,そのとき裁判官に指示された発信者情報目録を書いておきます。もちろん,仮処分段階の決定なので,発信者情報開示の本案ではどのように判断されるかは不明です。
別紙投稿記事目録にかかるブログに管理者IDでログインし,編集等の管理行為をした際の下記情報
1 IPアドレス
2 債務者の用いる特定電気通信設備に情報が送信された年月日及び時刻
4.応用
このIP開示方法が,ブログ以外でも応用できるケースがあると,最近,清水陽平弁護士から聞きました。ご参考までに。2013/9/3追記
清水陽平弁護士が,この方法で米国Twitter社からのIPアドレス開示に成功したそうです。
2013/10/30追記
ネットに目録が公開されていたので引用しておきます。
1 別紙投稿記事目録にかかる各ツイートを投稿した者の使用するアカウントについてログインした際のIPアドレスのうち,本決定が債務者に送達された日の正午(日本標準時)時点で,もっとも新しいもの
2 前項のIPアドレスが割り当てられた電気通信設備から,債務者の用いる特定電気通信設備に前項の投稿記事が送信された年月日及び時刻(日本標準時)
2014/1/20追記
清水陽平弁護士が,上記,米国Twitterから開示されたIPアドレスをもとに,発信者情報の開示請求訴訟で勝訴したそうです。仮処分レベルだけでなく,本案訴訟でも,「ログインIPアドレス」をもとに開示請求できるという先例として,意義があると思います。