HOME > 意見照会回答(2021版)
意見照会は、プロバイダ責任制限法に規定されている手続です。ネットで中傷された・プライバシーを侵害された等と考えた原告(債権者・請求者)がプロバイダに対して発信者情報開示請求をした際、プロバイダは発信者に対し、「あなたの情報を開示して良いですか?」と聞かねばならないことになっています。これが意見照会です。
開示関係役務提供者は、前項の規定による開示の請求を受けたときは、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者と連絡することができない場合その他特別の事情がある場合を除き、開示するかどうかについて当該発信者の意見を聴かなければならない。
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律 4条2項
意見照会は、コンテンツプロバイダ(転職サイト、ヤフー知恵袋など、サイト側がメールアドレスを把握している場合のみ)に対し、IPアドレスの開示請求がなされた際や、インターネット接続プロバイダに対し、住所氏名の開示請求がなされた際に届きます。
タイミングとしては、訴訟であれば、提訴から1~2週間程度で届きます。テレコムサービス協会書式での開示請求であれば、開示請求書がプロバイダに届いてから数週間で届いているように見えます。
自分の情報(IPアドレスや、住所氏名)を開示されたくない場合は、「開示拒否」に丸を付け、開示拒否の理由を具体的事実とともに記載してください。証拠がある場合は証拠も添付すべきです。単に「自分は書いていない」だけですと、訴訟手続になっている場合は、ほぼ効果がありません。
何も返事をせずに放置すると、プロバイダは「意見がなかった」ものとして扱い、あなたの情報を開示してしまうこともあります。訴訟になっている場合は、「照会したけれど意見がなかった」と裁判所に報告することになるため、裁判官としても、開示を認めるのに心理的抵抗が弱くなることでしょう。
プロバイダに転居を報告していないと、意見照会が届かず、結果として「意見がなかった」のと同様の効果が生じる可能性もありますので、意見照会が来そうであれば、プロバイダに登録されている住所が正しいか確認しておきましょう。
法律論として、それが名誉権侵害にあたらない(真実を書いている、意見論評の前提事実が真実である)、侮辱にあたらない、肖像権侵害にあたらない、という主張もしておきましょう。プロバイダの弁護士が、それを参考に主張を組み立ててくれます。
自分の情報が開示されると、家に押しかけられてしまう、ネットで個人情報を晒されてしまう、中傷の対象にされてしまう、職場に通知されてしまうなど、不当な攻撃が予想される場合には、プロ責法4条1項2号の「開示を受けるべき正当な理由」が否定されます。
一般に「開示を受けるべき正当な理由」は、損害賠償請求したい、削除請求したい、などの目的があれば容易に認められていますが、上記のような不当な攻撃が予想される場合には、「正当な理由」が否定される可能性があります。
実際、東京地裁は、「開示を求めている発信者情報をみだりに用いて、不当に当該発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をする意図があると認められる場合には、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由はないと解するのが相当である。」として、対象者の生活の平穏を害する可能性がある場合には、開示請求は認められないとしています(東京地判平25・4・19)(2013WLJPCA04198017)。
東京高裁でも、「被控訴人は、本件各投稿の発信者に対し、損害賠償請求をする意向を示しているところ、そのためには本件各投稿に係る発信者情報の開示を受ける必要があると認められ、他に当該開示請求権の行使について濫用のおそれがあるというべき事情も証拠上見当たらないから、その開示を受けるべき正当な理由があると認めるのが相当である」として、「濫用のおそれがあるというべき事情」があると、「正当な理由」が否定される趣旨のことを書いているものがあります(東京高判令3・7・28)。
意見照会回答として「権利侵害がない」と書く場合は、主張されている権利の種類により、書く内容が異なります。以下の記事をご参照ください。
意見照会が開示訴訟の段階で届いているときは、意見照会回答は、プロバイダの反論資料として利用されます。場合によっては、意見照会回答が訴訟の証拠(乙号証)として裁判に提出されることもあります。そのため、証拠提出されても問題ないように、個人の特定につながる情報は記載しない、などの工夫が必要です。
意見照会が開示訴訟の段階で届いているときは、「開示拒否」と回答していても、裁判官の判断により開示が命じられることはあります(開示認容判決)。この場合、プロバイダが控訴して高裁で戦うことはほとんどなく(数件しか見たことがありません)、原則として発信者情報(住所、氏名など)が原告に開示されます。
逆に、請求棄却判決であれば、プロバイダは発信者情報を開示しません。ただし、原告が控訴して高裁でも争うことは珍しくなく、控訴人(請求者)が高裁で逆転勝訴してしまうと、発信者情報が控訴人に開示されます。もっとも、逆転勝訴になる可能性は、それほど高くありません。
意見照会が任意開示請求(テレコムサービス協会書式)の段階で届いているときは、意見照会回答は、プロバイダの判断資料として利用されます。原則として、何らかの理由が書かれていて、「開示拒否」との回答になっていれば、プロバイダは発信者情報(住所、氏名など)を開示しません。
この場合、請求者としては、続けて開示訴訟をするしかありません。開示訴訟が提起された場合に、あらためて意見照会を送ってくるプロバイダと、2回目の意見照会は送ってこないプロバイダとがあります。後者のほうが多い印象です。2回目の意見照会がないと、訴状における原告の主張と、意見照会回答の内容が食い違ってしまう可能性はあります。そのため、提訴されたら再度の意見照会をして欲しいと伝えておくことも有用です。ただし、これを伝えたからといって、必ず2回目の意見照会があるとは限りません。
弁護士は、意見照会回答書の作成業務も受任しています。また、投稿者の代わりに発信者情報開示請求訴訟を傍聴して訴訟の状況を確認したり、訴訟記録を閲覧して当事者の主張を確認するなどの業務も受任しています。お気軽にお問い合わせ下さい。
プロバイダの代理人弁護士によると、最近は、弁護士が意見照会回答を書くケースが増えている、とのことでした。また、プロバイダによっては、意見照会の際、弁護士に書いてもらうよう指定しているところもあるようです。
意見照会で開示拒否として戦うより、開示に同意して、早々に和解したいという人もいるかもしれません。和解する場合は、慰謝料の金額をどうするかが最大のポイントとなります。
慰謝料額を争うのであれば、判例相場(30~70万円くらい)をベースにするよう求め、これに、開示にかかった費用の全部または一部を加算し、請求者が赤字にならないくらいの金額で交渉することになるでしょう。赤字になる金額ですと、あまり和解したがりません。
示談金が決まったら、示談書を作ります。示談書に記載する条項は、以下の記事を参考にしてください。
残念なことに開示されてしまうと、相手に住所氏名が伝わります。そのため、しばらくすると内容証明で「慰謝料を払え」という通知が来るか、いきなり慰謝料請求訴訟を提起されるか、どちらかだと思われます。
それらが来るまで不安な気持ちで過ごしたくないというのであれば、こちらから先制攻撃で「債務不存在確認請求訴訟」という種類の訴訟を提起できます。「開示されてしまったけれど、自分が書いたことは違法ではない」と主張して、「慰謝料額は0円」と、裁判所に確認してもらうことができます。
ただし、この訴訟を提起して、相手が慰謝料請求の反訴請求をすると、債務不存在確認訴訟は訴えの利益を失うため、取り下げる流れになります。この場合の提訴の意義は、「訴訟開始時期をこちらでコントロールした」という点だけになります。