肖像権侵害

2020.07.01

肖像権とは何か

肖像権について規定する法律はありませんが、最高裁は、「人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する」とするほか、「自己の容ぼう等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり」と判断しています(最一小判平17・11・10民集59巻9号2428頁)。

つまり、肖像権(正確には人格的利益)の内容は、①「撮影されない人格的利益」と、②「撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益」です。

学説上は、「プライバシーの一環」だという説明もありましたが、最高裁判決の調査官解説(平成17年度789頁)では、「端的に、肖像写真に関する人格的利益の保護の問題として考えれば足りるように思われる。本判決が、肖像写真に関する法的利益について判示するに際し、プライバシーという表現を用いていないのは、このような考え方によるものではないかと思われる」と説明されています。そのため、プライバシー侵害の判断基準とは別の、肖像権侵害の判断基準を考えることになります。

【図解】肖像権侵害

肖像権侵害の考え方を図でまとめました。

【図解】肖像権侵害、肖像権侵害の判断基準

「撮影」が違法となる場合

では、どのような場合に「撮影」が違法となるでしょうか。上記の最高裁判決では、「ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである」と判断されています。

すなわち、「承諾」がある場合は別として、「承諾」がない場合には、①被撮影者の社会的地位、②撮影された被撮影者の活動内容、③撮影の場所、④撮影の目的、⑤撮影の態様、⑥撮影の必要性「等」の事情を総合考慮して、「社会生活上受忍の限度を超えるもの」であれば撮影は違法、超えていなければ撮影は適法(違法ではない)という判断基準です。考慮要素は例示だと説明されています。

諸事情を総合考慮して「社会生活上受忍の限度を超える」かどうかを判断する手法は、名誉感情侵害などの権利侵害にも共通するものです。

考慮要素の考え方

被写体の社会的地位

被写体が公共の利害に関する人物の場合には、肖像権侵害成立にはマイナス要素になります。

被写体の活動内容

撮影された内容が、本人の社会的活動内容と関係している場合にはマイナス要素、他人に知られたくない状況であればプラス要素になります。

撮影場所

公共の場所であれば、原則として肖像権侵害にならないと説明されています。

撮影目的

社会的に是認できる目的であれば、肖像権侵害にはマイナス要素になります。

撮影態様

隠し撮りは肖像権侵害にプラス方向に働くと考えられます。

「公表」が違法となる場合

「公表」が違法となるかどうかについては、先行する「撮影」が違法か適法かによって、判断基準が分かれます。

「撮影」が違法な場合の「公表」

上記最高裁判決は,「人の容ぼう等の撮影が違法と評価される場合には,その容ぼう等が撮影された写真を公表する行為は,被撮影者の上記人格的利益を侵害するものとして,違法性を有するものというべきである。」としており,撮影が違法であれば、公表は自動的に違法になると判断しています。

「撮影」が適法な場合の「公表」

上記最高裁判決は、「撮影」が適法な場合の「公表」について直接には判断していませんが、法廷で描いたイラスト画の公表については、「人の容ぼう等を描写したイラスト画を公表する行為が社会生活上受忍の限度を超えて不法行為法上違法と評価されるか否か」と判断し、「社会生活上受忍の限度を超えて」いるかどうかで違法性を判断しています。そして調査官解説では(780頁)、「被告人の名誉感情を害し、社会生活上是認することができないものではないかと思われる。」と説明されていますので、結局、「社会生活上の受忍限度を超えているか」否かで判断するものと考えられます。

この点につき、東京地判令2・6・26は、本人の公開していた写真を使ってのなりすまし事案において「人の肖像等を無断で使用する行為が不法行為法上違法となるかどうかは、対象者の社会的地位や、当該使用の目的、態様及び必要性等を総合考慮し、対象者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである」としています。

SNSからの写真の流用の場合

たとえば、ネットで公開していた自分の写真を勝手に使われて別のサイトで公表された場合、撮影は適法(被写体の同意がある)なので、公表が違法かどうかは、その使われ方、公表されたサイトの性質、添えられた説明などに照らして「社会生活上の受忍限度を超えているか」を判断することになります。
「なりすまし」のために写真を使われたのであれば、違法な肖像権侵害となるケースもあると考えます。