発信者情報開示の弁護士費用

2020.09.21

このブログは、「発信者情報開示にかかった弁護士費用は投稿者に請求できるのか?」をテーマにしています。
発信者情報開示請求の弁護士費用はいくらくらいなのか?を知りたい人は、以下の記事をご参照ください。なお、当サイトのお見積もりでは、海外サイトの場合で合計50万円くらいです。

発信者情報開示にかかった弁護士費用は投稿者に請求できるのか?

 一般的な不法行為訴訟の場合,弁護士費用として認められるのは,認容額の一割程度とされています。たとえば認容額が200万なら,弁護士費用として認められるのは20万,といったイメージです。

 そうすると,発信者情報開示請求の場合,最終的には裁判所で認められる損害賠償金(慰謝料など)より弁護士費用(投稿者の特定費用も含めて)のほうが高額になるのではないか,と思われがちです。

 この点について,東京高裁平成24年6月28日判決(原審東京地裁平成24年1月31日判決(判例時報2154号80頁)原告訴訟代理人は清水陽平弁護士)は,「被控訴人は,本件書込をした者を特定するため,弁護士に依頼し,本件書込の電子掲示板の管理者である海外法人に対するIPアドレスの開示仮処分を得て,投稿者のIPアドレスとアクセスログの開示を受けたうえ,IPアドレスから判明したNTTドコモに対する発信者情報開示請求の認容判決に基づき,発信者として控訴人の住所氏名の開示を受けたものであって,本件との相当因果関係が認められ,また,本件における弁護士費用を二重に評価したものではない」として,IPアドレスの発信者情報開示仮処分と住所氏名の発信者情報開示請求訴訟(+削除仮処分+ログ保存仮処分)にかかった私への弁護士費用の全額を投稿者負担(不法行為と相当因果関係のある損害)としました。

 考え方は,探偵費用などと似ています。誰が不法行為者なのか探偵に調査を依頼すると損害と認められるのに,弁護士に調査を依頼すると調査費用にならない,という結論ではおかしいというのが問題意識です。

 当初,開示請求した弁護士と損害賠償請求する弁護士は,異なるほうが調査費用として認められやすいだろうと考え、私が損害賠償請求訴訟を担当せず、別の弁護士に担当してもらうところから始めましたが,この高裁判決の書きぶりからすると,弁護士が同じでも結論は変わらないものと考えられます。

調査費用を大幅に認めた高裁判決

その後、東京高裁判決(東京高判平27・5・27)は、「発信者を特定するための調査には,一般に発信者情報開示請求の方法を取る必要があるところ,この手続で有効に発信者情報を取得するためには,短期間のうちに必要な保全処分を行った上で適切に訴訟を行うなどの専門的知識が必要であり,そのような専門的知識のない被害者自身でこの手続を全て行うことは通常困難である。そうすると,被害者が発信者を特定する調査のため,発信者情報開示請求の代理を弁護士に委任し,その費用を支払った場合には,社会通念上相当な範囲内で,それを名誉毀損と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である」と判断し、弁護士(中澤佑一弁護士)に支払った調査費用の全額を投稿者に請求することを認めています。

調査費用の1割だけ認めた高裁判例

一方で、別の東京高裁判決(東京高判平31・3・28)は、「この調査費用は,前記(2)の本件訴訟自体の弁護士費用とは異なるとはいえ,それと実質的に同様の性格を有する費用であることに鑑みると,本件記事の投稿と相当因果関係がある損害としては,5万円の限度で認めるのが相当である」と判断し、弁護士に支払った調査費用50万の1割にあたる5万円を損害として認めています。

判断のポイントは、要するに「調査費用といっても弁護士費用なのだから」という理由で、従前の裁判例どおり、1割だけ認める、という内容です。
たとえば、投稿者に当たりを付けて損害賠償請求訴訟を提起したけれども、被告に投稿者性を否認されたような場合には、弁護士は被告の投稿者性を裏付けるための立証活動が必要になります。そうすると、発信者情報開示請求にかかった弁護士費用も含めて1割だというのは、何となく分からないでもない話です。
しかし、従前の裁判例は、認容額の1割という基準であって、実際に払った弁護士報酬の1割という基準ではありません。ここに不合理な点があるように思います。

地裁の裁判例では、特に理由を述べずに、実際の調査費用の一部を「相当因果関係のある」損害として認容しているものが散見されます。

契約時の投稿数で割る

調査費用は、投稿数で頭割りになるとの裁判例が複数あります。たとえば、サイトに対するIPアドレス開示仮処分の料金が30万円でも、10投稿分の費用であれば、1投稿あたり3万円になります。プロバイダに対する開示訴訟の料金も同様で、5投稿分の料金が30万円なら、1投稿あたり6万円です。

現状では裁判体によって判断が異なる

結局現状(2020年)では、裁判体によって「全額認める」のか、「一部しか認めない」のか、判断が分かれることになります。

もっとも、裁判外で交渉する分には、全額支払って欲しいと主張することは問題ないと思います。

参考文献

多数の裁判例を詳細に分析している文献として、松尾剛行、山田悠一郞・「最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務」第2版(2019年)371頁~373頁。

その他の論点

弁護士が同じでも調査費用になるか(2013/2/3追記分)

「弁護士が同じでも調査費用になるか」という点については,別件の地裁判決で全額認められました。

平成24年の上記高裁判決は,慰謝料100万に対し,調査費用とは別に,弁護士費用を1割の10万載せています。しかし,裁判例に従うならば,弁護士費用は(慰謝料+調査費用)×1割とすべきではないかとも考えられます。この点については,さいたま地裁判決で,慰謝料100万+調査費用全額の1割を弁護士費用としたものも出ています。

訴額を基準に考える方法(2013/3/28追記分)

IP開示の訴額が160万円,削除の訴額が160万円,住所氏名の開示訴訟の訴額が160万円で,訴額の合計は480万円です。それゆえ,損害賠償請求とこれらの訴訟を全部1つの訴訟で提起したとすると(実際には不可能ですが),1割の48万円まで,調査費用相当の弁護士費用として認められてよいはず,と考えます。
なお,判例検索したところ,慰謝料0の差止請求訴訟において,弁護士費用が100万円と認定されていた裁判例もありました。

「無形損害」として認定する方法(2013/4/27追記分)

大阪地裁では,「無形の損害」の中に開示費用を含めるものが出ています。いろいろな損害の1つとしての開示費用なので,はたして開示費用が全額認められているのか,内訳は不明です。


  • 2012/12/30 作成
  • 2020/05/25 更新
  • 2020/09/21 更新