発信者情報開示の弁護士費用(調査費用)の請求

2021.05.30

(おことわり)このブログは、2013年に書いたものを2020年にリライトし、随時アップデートしているものです。

発信者情報開示にかかった弁護士費用は投稿者に請求できるのか?

 一般的な不法行為訴訟の場合、弁護士費用として認められるのは、認容額の1割程度とされています。たとえば認容額が200万なら、弁護士費用として認められるのは20万、100万なら10万、といったイメージです。

 そうすると,発信者情報開示請求の場合,最終的に裁判所で認められる損害賠償金(慰謝料など)より弁護士費用(投稿者の特定費用も含めて)のほうが高額になるのではないか,と思われがちです。

東京高判平24.6.28

 この点について,東京高裁平成24年6月28日判決(原審東京地裁平成24年1月31日判決(判例時報2154号80頁)原告訴訟代理人は清水陽平弁護士)は,「被控訴人は,本件書込をした者を特定するため,弁護士に依頼し,本件書込の電子掲示板の管理者である海外法人に対するIPアドレスの開示仮処分を得て,投稿者のIPアドレスとアクセスログの開示を受けたうえ,IPアドレスから判明したNTTドコモに対する発信者情報開示請求の認容判決に基づき,発信者として控訴人の住所氏名の開示を受けたものであって,本件との相当因果関係が認められ,また,本件における弁護士費用を二重に評価したものではない」として,IPアドレスの発信者情報開示仮処分と住所氏名の発信者情報開示請求訴訟(+削除仮処分+ログ保存仮処分)にかかった私への弁護士費用の全額を投稿者負担(不法行為と相当因果関係のある損害)としました。

考え方

 考え方は,探偵費用などと似ています。誰が不法行為者なのか探偵に調査を依頼すると損害と認められるのに,弁護士に調査を依頼すると調査費用にならない,という結論ではおかしいというのが問題意識です。なお、「調査費用」という論点名も、探偵の調査費用に由来しています。

 当初,開示請求した弁護士と損害賠償請求する弁護士は,異なるほうが調査費用として認められやすいだろうと考え、私が損害賠償請求訴訟を担当せず、別の弁護士に担当してもらうところから始めましたが,この高裁判決の書きぶりからすると,弁護士が同じでも結論は変わらないものと考えられます。

調査費用を大幅に認めた高裁判決

東京高判平27.5.27

 その後、東京高裁判決(東京高判平27・5・27、D1-Law■28283588)は、「発信者を特定するための調査には,一般に発信者情報開示請求の方法を取る必要があるところ,この手続で有効に発信者情報を取得するためには,短期間のうちに必要な保全処分を行った上で適切に訴訟を行うなどの専門的知識が必要であり,そのような専門的知識のない被害者自身でこの手続を全て行うことは通常困難である。そうすると,被害者が発信者を特定する調査のため,発信者情報開示請求の代理を弁護士に委任し,その費用を支払った場合には,社会通念上相当な範囲内で,それを名誉毀損と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である」と判断し、弁護士(中澤佑一弁護士)に支払った調査費用の全額を投稿者に請求することを認めています。

東京高判令2.1.23(16民)

 最近も東京高裁で(東京高判令2・1・23)、以下の規範により、調査費用の全額(200万ほど)が認められています。「控訴人は、発信者情報開示に要した弁護士報酬の費用を損害と認めるのは、認容された慰謝料額以上の弁護士費用を認めることになり相当ではなく、被控訴人の請求額は高額にすぎる旨を主張する。しかしながら、インターネット上の電子掲示板に掲載された匿名の投稿によって名誉等を毀損された者としては、発信者情報の開示を得なければ、名誉等毀損の加害者を特定して損害賠償等の請求をすることができないのであるから、発信者情報開示請求訴訟の弁護士報酬は、その加害者に対して民事上の損害賠償請求をするために必要不可欠の費用であり、通常の損害賠償請求訴訟の弁護士費用とは異なり、特段の事情のない限り、その全額を名誉等毀損の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。そして、本件における発信者情報開示請求訴訟の弁護士報酬が不相当に高額であることを認めるに足りる証拠はなく、他にその一部について相当因果関係を否定すべき特段の事情の存在はうかがわれない。」

東京高判令3.5.26(1民)

「電子掲示板における匿名の投稿者を特定するためには,電子掲示板の管理者から当該投稿に係るIPアドレスの開示を受け,経由プロバイダを調査した上で,当該経由プロバイダから当該IPアドレスに係る発信者情報の開示を受けるという数段階の手続を経る必要があるところ,法律問題に詳しいわけではない通常の一般人が,このような手続の内容等を認識しているとは考え難い。」
「確かに,インターネット上の電子掲示板において匿名の誹謗中傷を受けた場合において,被害者本人が,弁護士に依頼することなく,投稿者を特定するための手続を行うことは可能ではある。しかしながら,前記検討のとおり,匿名の投稿者を特定するためには,数段階の手続を経る必要があるところ,プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求訴訟等を含むこれらの手続を適切に行うためには,インターネットをめぐる法的紛争に関する専門的知識が必要である。また,経由プロバイダにおけるアクセスログは,短期間で消去されてしまうことから,匿名の投稿者を特定するためには,一連の手続を迅速に行わなければならず,必要に応じて保全手続も行わなければならない。これらの事情に鑑みれば,匿名の誹謗中傷による被害を受け,迅速な対応を求められる被害者が,弁護士に依頼することなく,投稿者を特定するための手続を自ら行うのは相当困難であって,被害者に対してこれを期待するのは酷であるといわざるを得ない。」

【この判決のメモ】

  • 理由付けは、東京高判平27.5.27と共通している。
  • 開示請求の成功報酬も調査費用として認められている(ただし、争った形跡はない)
  • 特定の弁護士だから仮処分しなくても削除・IP開示してもらえたのだとの主張が認められている
  • 支払った金額には削除費用が含まれているものの、特定費用の一部として認められている

調査費用の1割だけ認めた高裁判例

 一方で、別の東京高裁判決(東京高判平31・3・28)は、「この調査費用は,前記(2)の本件訴訟自体の弁護士費用とは異なるとはいえ,それと実質的に同様の性格を有する費用であることに鑑みると,本件記事の投稿と相当因果関係がある損害としては,5万円の限度で認めるのが相当である」と判断し、弁護士に支払った調査費用50万の1割にあたる5万円を損害として認めています。

 判断のポイントは、要するに「調査費用といっても弁護士費用なのだから」という理由で、従前の裁判例どおり、1割だけ認める、という内容です。
 たとえば、投稿者に当たりを付けて損害賠償請求訴訟を提起したけれども、被告に投稿者性を否認されたような場合には、弁護士は被告の投稿者性を裏付けるための立証活動が必要になります。そうすると、発信者情報開示請求にかかった弁護士費用も含めて1割だというのは、何となく分からないでもない話です。
しかし、従前の裁判例は、認容額の1割という基準であって、実際に払った弁護士報酬の1割という基準ではありません。ここに不合理な点があるように思います。

理由を示さず一部としている高裁判決

 地裁の裁判例では、特に理由を述べずに、実際の調査費用の一部を「相当因果関係のある」損害として認容しているものが散見されます。
 同じように、高裁判決でも、特に理由なく一部だけ認定するものもあります。 

 東京高判令3・2・10は「インターネット上に写真画像を違法に掲載された場合に掲載者に対して損害賠償を請求するためには、多くの場合にまず発信者情報を取得することが必要となるのであるから、発信者情報を取得するために要する費用は写真画像の違法掲載による不法行為と相当因果関係にある損害ということができる。そして発信者情報取得のために通常必要となる訴訟手続の内容に照らすと、発信者情報取得のための相当の損害額は16万円と認めるのが相当である」としています。調査費用の全額は43万2000円と請求されているため、なぜ16万円なのか疑問ですが、下記の投稿数割の考え方をしている可能性はあります。

投稿数・頭数割りで一部とする考え方

契約時の投稿数で割る

 調査費用は、投稿数で割るとの裁判例が複数あります。たとえば、サイトに対するIPアドレス開示仮処分の料金が30万円でも、10投稿分の費用であれば、1投稿あたり3万円になります。プロバイダに対する開示訴訟の料金も同様で、5投稿分の料金が30万円なら、1投稿あたり6万円です。

 慰謝料請求訴訟の段階になると、IPアドレス開示仮処分の決定書は証拠提出されないと思うので、閲覧謄写して(利害関係人なので仮処分事件の閲覧謄写も可能でしょう)、もともとの申立てが何件だったのか、申立書で確認することが有用です。申立ての段階では10件だったのに5件しか開示決定が出なかったということであれば、着手金を10で割ることになります。

開示された人数で割る

 考え方としては、開示請求によって特定された人数で割る、との方法もありますが、裁判例ではメジャーではありません。

成功報酬の分は請求できるか?

 あまり区別されていませんが、着手金と成功報酬は扱いが別ではないかと思います。着手金は、まさに「特定するための費用」ですが、成功報酬は特定した「あと」の費用なので、はたして不法行為と因果関係があるといえるのか?問題になりうると思います。被告側となった場合は、この点も争ってみる価値があるでしょう。
 原告側の反論としては、「成功報酬の取り決めをしなければIP開示も開示訴訟もできないのだから、必要な費用である」という内容が考えられます。ただ、発信者情報開示請求に関しては、成功報酬の設定がない弁護士もかなりいますので、必須の費用とまではいえないと思います。

 上記のとおり、東京高判令3.5.28は、成功報酬も調査費用の一部として認容していますが、争った形跡がないため、詳しく議論されていないのでしょう。

調査費用は通常損害か特別損害か

よく、「5万円の慰謝料のために50万円の調査費用は過大だ」といった反論を受けることがあります。裁判官の中にも、こうした心証を開示する人がいます。この問題をどうクリアできるか?と考え、調査費用は通常損害か特別損害か、との論点を作ってみました。関係ないような気もしますが、予見可能な特別損害だといったほうが、全額認めやすいのではないかと思います。

現状では裁判体によって判断が異なる

 結局現状(2021年)では、裁判体によって「全額認める」のか、「一部しか認めない」のか、判断が分かれることになります。

もっとも、裁判外で交渉する分には、全額支払って欲しいと主張することは問題ないと思います。

参考文献

多数の裁判例を詳細に分析している文献として、松尾剛行、山田悠一郞・「最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務」第2版(2019年)371頁~373頁。

削除請求にかかった弁護士費用の請求

上記の各裁判例は、発信者情報開示請求にかかった弁護士費用について判断していますが、「削除請求」にかかった弁護士費用を投稿者に請求できるか? という論点もあります。

東京地裁平27.3.24(2015WLJPCA03248015)は、「また,投稿者を特定するため,弁護士に調査を依頼し,仮処分,訴訟に係る費用を支払ったところ,その費用のうち本件記事に係る部分は,削除に関する費用については3万7800円,投稿者の特定に関する費用については26万2500円であったことが認められる。一般的に,プロバイダから発信者情報の開示を受けるために,仮処分及び訴訟が必要になることは当裁判所に顕著な事実であるから,上記の各費用は,本件投稿行為と相当因果関係のある損害ということができる。」とし、投稿数割りで、削除費用の計上を認めています。

会社が調査費用を払っている場合

社長個人が発信者情報開示請求をする際、会社が調査費用を払っていることがあります。弁護士代を損金計上できるので節税としても良いのでしょう。
この場合の問題は、開示後、社長が慰謝料請求する際、調査費用を請求できないのではないか?という点です。これについては、以下のような裁判例があります。会社が払っているのだから、社長個人には「損害」がない、と判断されています。

東京地判平成28年12月16日(平26ワ24521号)

原告X1は、発信者情報の開示請求及びプロバイダに対する訴訟提起の弁護士費用として110万2500円を支払った旨主張するところ、証拠(甲17、36)によれば、原告X2社が、平成25年3月8日にm法律事務所所属のJ弁護士らに対して、名誉毀損及び業務妨害行為の対応を依頼し、発信者情報の開示請求及びプロバイダに対する訴訟提起の報酬として、原告X2社名義で110万2500円(着手金100万円、諸経費5万円、消費税5万2500円)を支払ったことが認められる。/そうすると、上記報酬を支払ったのは、原告X1個人ではなく、原告X2社であると認められるから、原告X1個人に損害が生じたとする上記主張は、採用することができない。

契約者が会社か社長個人か

ただ、契約当事者が会社か社長個人かによっても結論は変わりそうです。
会社が契約当事者になっている場合は、会社が自社の債務を払っただけなので、まさに上記の裁判例のとおりだと判断されるはずですが、社長個人が契約者の場合は事情が違ってきます。社長が契約者なのに、なぜ会社が払ったのかを考える必要があります。
会社が立て替えただけなら、後日社長個人が会社に支払えば、そこで社長に損害が生じたことになるのでしょう。建て替えただけではなく、会社が損金計上するつもりで払ったのなら、債務引受があったものとして、上記裁判例と同じ扱いになることでしょう。

平成25年当時の論点

以下、平成25年当時の論点を記録として書いておきます。

弁護士が同じでも調査費用になるか(2013/2/3追記分)

「弁護士が同じでも調査費用になるか」という点については,地裁判決で全額認められました。

平成24年の上記高裁判決は,慰謝料100万に対し,調査費用とは別に,弁護士費用を1割の10万載せています。しかし,裁判例に従うならば,弁護士費用は(慰謝料+調査費用)×1割とすべきではないかとも考えられます。この点については,さいたま地裁判決で,慰謝料100万+調査費用全額の1割を弁護士費用としたものも出ています。

訴額を基準に考える方法(2013/3/28追記分)

IP開示の訴額が160万円,削除の訴額が160万円,住所氏名の開示訴訟の訴額が160万円で,訴額の合計は480万円です。それゆえ,損害賠償請求とこれらの訴訟を全部1つの訴訟で提起したとすると(実際には不可能ですが),1割の48万円まで,調査費用相当の弁護士費用として認められてよいはず,と考えます。
なお,判例検索したところ,慰謝料0の差止請求訴訟において,弁護士費用が100万円と認定されていた裁判例もありました。

「無形損害」として認定する方法(2013/4/27追記分)

大阪地裁では,「無形の損害」の中に開示費用を含めるものが出ています。いろいろな損害の1つとしての開示費用なので,はたして開示費用が全額認められているのか,内訳は不明です。


  • 2012/12/30 作成
  • 2020/05/25 更新
  • 2020/09/21 更新
  • 2020/12/25 更新 令和2年の高裁判決(大熊弁護士)を追加
  • 2021/02/11 更新 令和3年の高裁判決(対 大熊弁護士)を追加
  • 2021/05/28、29 更新 削除費用の請求、残された論点を追加
  • 2021/05/30 更新 令和3年5月の高裁判決(藤吉弁護士)を追加
  • 2021/09/24 更新 会社が払っていた場合の扱い