発チの申立書テンプレをたくさん作ったので、「申立書テンプレを使う」シリーズの記事を書きます。第2弾は、Xから開示されたIPアドレスをもとにした、接続プロバイダに対する住所氏名の開示命令申立。
開示されたものを確認する
まず、Xからの開示情報を確認してください。最近はメールで開示ファイル(Wordファイル)が届いています。これを開くと以下のような情報が記載されています。XからXの代理人に送られたBSI(Basic Subscriber Information)の一部をコピペしたものです。
1. @KandaTomohiro
“ipAudit” : {
“accountId” : “235505178”,
“createdAt” : “2023-11-21T02:10:15.000Z”,
“loginIp” : “223.216.231.10”
このうち、使うのは”createdAt”(接続日時)と”loginIp”(ログイン時IPアドレス)の2つです。上記の例ですと、(別紙)投稿記事目録に記載する情報は、以下のようになります。
開示されている接続日時のタイムゾーンはUTCなので(上記の例で、最後のZはUTCであることを示しています)UTCであることを明示するとともに、9時間たした日本時間(JST)も併記しておくと良いでしょう。伝統的に、投稿記事目録にはUTCではなくJSTで値を書く例が多かったためです。
あとは、投稿記事目録に書く接続日時とIPアドレスは全角にしておくのが良いです。単に読みやすさのためです。接続プロバイダの担当者の目に優しいので、転記ミスで「該当する通信なし」と回答されることを防ぐ目的もあります。
接続日時 | 2023/11/21 02:10:15(UTC) 2023/11/21 11:10:15(JST) |
IPアドレス | 223.216.231.10 |
なお、ワードには、半角文字を全角文字にする機能があるので、私はこれを使っています。
どこのプロバイダを相手にするのか
次に、開示されたIPアドレスがどこの接続プロバイダのものかを特定します。ここで使うサイトがWHOIS検索サイトです(拙著75講、10講)。
日本の接続プロバイダであれば、たいていJPNICで検索できます。ときどき(ソフトバンク、楽天モバイルあたり)、APNICでないと検索できないIPアドレスもあります。
まず、「検索キーワード」のところにIPアドレスを入力して「検索」ボタンをクリックします。上記の例にある「223.216.231.10」のケースでは、「上位情報」としてNTTコミュニケーションズ、「組織名」として株式会社NTTドコモが表示されるので、相手にすべき接続プロバイダは、NTTドコモになります。
この部分に接続プロバイダの名称が表示されていないときは、「管理者連絡窓口」のリンクをクリックして、会社名を確認します。
このWHOISの検索結果は、甲号証として使います。
接続プロバイダに対する開示命令申立
接続プロバイダが判明したあとは、同社に対する開示命令申立てをします。使用する発チの申立書テンプレは書式20-2Twitterです。また、接続先IPアドレスの証明のため、接続先IPアドレスの報告書を使う場合もあります。
番号 | タイトル | word/PDF |
---|---|---|
書式20-2Twitter | 発信者情報開示命令申立書(Twitterからの接続プロバイダ用、Xへの提供命令なし) | |
資料05 | 接続先IPアドレスの報告書(X-Twitter用) Word形式は値のみ(申立書へのコピペ用) |
接続先IPアドレスの要否
接続先IPアドレスは、要らないプロバイダもあります。経験的には、モバイル端末からの投稿なら必要で、光回線など常時接続回線なら不要、という感じです。接続プロバイダ別の区別であれば、ドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルが相手なら、申立書に接続先IPアドレスを書いておくとよいです。接続プロバイダのほうで、要らない情報なら使わないだけなので。
逆に、OCN、ソネット、biglobeあたりの接続先IPアドレス不要なプロバイダであれば、(別紙)発信者情報目録を以下のように書き換えます。
なお、ドコモには独自のこだわりがあり、「使用した」とか「投稿した」などと書くと訂正を求められるので(使用したかどうかはドコモには分からないため)、そのときは、ドコモの要求に沿って発信者情報目録の表現を訂正すれば足ります。
甲号証
甲●:(画面)
ツイートのスクショまたは印刷物を想定しています。「甲1」とでもしてください。IP開示仮処分のときと同じものです。
甲●:(権利侵害の明白性)
投稿内容が違法であることを裏付ける証拠です。「甲2」とでもしてください。こちらも、IP開示仮処分のときと同じものです。
甲●:仮処分決定
IP開示仮処分決定をスキャン、コピーして甲号証にします。「甲3」とでもしてください。
甲●:開示メール
Xの代理人から送られた開示メールです。添付ファイルのワードファイルだけ証拠提出すると、どの事件の開示ファイルなのか区別できないと言われることがあるので、開示メールの本文も付けておくと良いかもしれません。「甲4」とでもします。メール本文が「甲4の1」、添付ファイルが「甲4の2」といった番号の振り方でもよいと思います。
甲●:WHOIS
開示されたIPアドレスに対応する接続プロバイダがどこなのかをWHOISの画面で証明します。上記の、WHOIS検索サイトで、検索された結果を印刷するとよいです。「甲5」とでもします。
甲●:ログ保存期間
消去禁止命令の申立てのため、接続プロバイダのログ保存期間が3か月~6か月であることを文献などで証明します。消去禁止命令のための証拠なので、厳密には疎明のための疎明資料です。
IP開示仮処分の疎明資料と同じもので問題ありません。「甲6」とでもしてください。
甲●:接続先IPアドレス
Xの接続先IPアドレスの候補を上記の報告書などで証明します。以下の報告書もご利用下さい。(別紙)発信者情報目録から「接続先IPアドレス」の記載を消した場合は不要です。「甲7」とでもしてください。
番号 | タイトル | Word/PDF |
---|---|---|
資料05 | 接続先IPアドレスの報告書(X-Twitter用) Word形式は値のみ(申立書へのコピペ用) |
証拠説明書
東京地裁9部では証拠説明書は必須です。証拠説明書がどんなものか分からない人は、裁判所のサンプルを真似してください。
表の部分は、以下の内容くらい簡単でも良いでしょう。
号証 | 標目 | 原・写 | 作成年月日 | 作成者 | 立証趣旨 |
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甲1 | ポストする | 写 | 2023/09/1 | 氏名不詳者 | 本件投稿の内容 |
甲2 | 陳述書 | 原 | 2023/09/05 | 申立人 | 摘示事実の反真実性、同定可能性 |
甲3 | 仮処分決定 | 写 | 2022/11/01 | 裁判所 | IPアドレス開示仮処分決定の発令事実 |
甲4 | 開示情報.docx | 写 | 2023/11/15 | X Corp. | IPアドレス等が開示された事実 |
甲5 | WHOIS | 写 | 2023/11/15 | JPNIC | IPアドレスの登録者が相手方である事実 |
甲6 | 付録3 | 写 | 2023/09/13 | 神田知宏 | 接続プロバイダのログ保存期間 |
甲7 | 報告書 | 写 | 2023/10/10 | 神田知宏 | Xの接続先IPアドレスの候補 |
番号 | タイトル | Word/PDF |
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書式33-2 | 証拠説明書サンプル(Xからの接続プロバイダ用) |
提出方法
申立書2通、証拠説明書1通、甲1~甲7を各1通、接続プロバイダの登記(法務局かネットで買えます)を1通、印紙1000円、を東京地裁民事第9部に郵送してくください。あとレターパックが要ります(裁判所に電話で聞いて下さい)。
- 2023/11/21 作成
- 2023/12/06 接続先IPの報告書へのリンクを追加