2021年プロバイダ責任制限法改正を受け、発信者情報開示請求の手続きの流れを現行法と改正法で比較します。第4回は、サーバー会社を相手に、IPアドレスを開示請求する類型です。
現行制度の復習
まず、現行制度の復習です。上図は、拙著「インターネット削除請求・発信者情報開示請求の実務と書式」59講で使ったものです。サーバー管理者が投稿ログを管理しているケースとしていないケースとで、手続の流れが異なります。
サーバー管理者が投稿ログを管理しているケース
サーバー管理者が投稿ログを管理しており、POSTのIPアドレスを調べられるケースでは、サーバー管理者をサイト管理者と見立てて開示請求すれば足ります。まず、サーバー管理者にIPアドレス等を開示請求し(上図のⅠ①)、開示されたIPアドレスをもとに接続プロバイダを調べ、接続プロバイダに投稿者の住所氏名を開示請求します(上図のⅠ⑥)。
サーバー管理者が投稿ログを管理していないケース
これに対し、サーバー管理者が投稿ログを管理しておらず、POSTのIPアドレスを調べられないケースでは、まず、サーバー領域を借りているサイト管理者(サーバー契約者)の住所氏名を開示請求します(上図のⅡ①)。
これによりサイト管理者が判明したら、次に、サイト管理者に対し投稿のIPアドレス等を開示請求し(上図のⅡ③)、開示されたIPアドレスに基づき、接続プロバイダへ投稿者情報の開示請求訴訟をします(上図のⅡ⑥)。
発信者情報開示命令制度
https://kandato.jp/newproseki/
サーバー管理者が投稿時IPアドレスを管理しているケース
サーバー管理者が投稿時IPアドレスを管理しているのか、管理していないのかは、外部からは分かりません。そこで「管理している」と決め打ちで、サーバー管理会社へIPアドレスの開示命令を申し立てます(上図のⅠ①、新法8条)。
当該サーバー会社の答弁書で「投稿時IPアドレスを保有している」と陳述したときは(新法11条3項)、(1)接続プロバイダを申立人に提供、(2)IPアドレス等を接続プロバイダへ提供、の2つについて提供命令を申し立て(新法15条1項1号、2号)、接続プロバイダ名を教えてもらいます(上図のⅠ③)。
接続プロバイダ名を教えてもらったら、接続プロバイダに対し開示命令を申し立てると同時に(新法8条、上図のⅠ④)、消去禁止を申立てます(新法16条1項、上図のⅠ⑥)。
開示命令が発令されると、投稿者が判明します(上図のⅠ⑧)。
サーバー管理者が投稿時IPアドレスを管理していないケース
サーバー管理者が投稿時IPアドレスを管理しておらず、サイト管理者だけが投稿時IPアドレスを管理しているときは、まず、サーバー管理者から、サイト管理者を教えてもらわねばなりません。
しかし上記のとおり、外部から見ているだけでは、サーバー会社が投稿時IPアドレスを管理しているのかどうかは分かりません。
そこで、まずは「管理している」と決め打ちで、サーバー管理者へIPアドレスの開示命令を申し立てます(上図のⅡ①、新法8条)。
当該サーバー会社の答弁書で「投稿時IPアドレスは保有していない」と陳述されたときは(新法11条3項)、何らかの手続により、サイト管理者の情報を開示してもらいます(上図のⅡ③)。
そのあとは、サイト管理者にIPアドレスの開示命令申立(上図のⅡ④、新法8条)、提供命令(上図のⅡ⑤、新法15条1項)を経て、接続プロバイダに対する開示命令申立(上図のⅡ⑦、新法8条)により、投稿者の住所氏名を取得します(上図のⅡ⑪)。
考察
サーバー管理者への開示命令申立は2回必要か?
上記のとおり、サーバー管理者が投稿時IPアドレスを管理しているかどうかは、外からは分かりません(ワードプレスを使っているサイトなら、高い確率で投稿時IPアドレスは、サーバー管理会社の管理下にありません)。
そのため、まずは投稿時IPアドレスを知っているものとして、サーバー会社にIPアドレスの開示命令を申し立てます。
しかし、IPアドレスは持っていないと陳述されたとき(新法11条3項)、どうやって、サーバー契約者(サイト管理者)の開示命令に切り替えるのでしょうか。
まず、MNOと同じように考えると、「持っていない」と言われても「次のプロバイダ」がいる場合には、次のプロバイダを提供命令申立(新法15条1項)により開示してもらう方法が考えられます。
しかし、サーバー会社が投稿時IPアドレスを持っていないと、「次のプロバイダ」(サイト管理者)に提供する情報(新法15条1項2号)が何もありません。ここがMNOのケースと違うところです。
制度趣旨として、次のプロバイダに情報をつなぐことが要件となっているため、これができないケースでは、提供命令申立はできないのではないか?と思います。
次に、いったんIPアドレスの開示命令申立を取り下げて(新法13条1項)、新たに、サーバー会社に対し、サイト管理者の開示命令を申し立てる方法が考えられます。これがおそらく順当です。
では、IPアドレスの開示命令申立を申立ての変更により、サイト管理者の開示命令申立にする方法はどうでしょうか。印紙代節約の問題です。申立ての変更は、申立ての基礎に変更がなければ可能です(非訟事件手続法44条)。IP開示滅入れとサイト管理者の開示命令では、申立ての基礎に変更はないと思うので、これは可能ではないでしょうか。積極説とします。
提供命令申立を使いたい
サイト管理者の開示命令の問題は、審理の迅速性の点です。
サーバー管理者に対し、サイト管理者の開示命令を申し立てると審理が慎重になり、サイト管理者の開示に時間がかかることが考えられます。
そこで、上記の問題はあるものの、MNOと同じだと考えて、本案をIPアドレスの開示命令申立のまま、提供命令により、サイト管理者を開示してもらう方法も試してみる必要がありそうです。
- 2021/04/24 作成