HOME > 発信者情報開示請求(2023版)
インターネットでの投稿者を特定するための手続です。投稿者の情報(住所、氏名、電話番号、メールアドレス、IPアドレス、等)を「発信者情報」といい、発信者情報を開示して欲しいと請求する手続が,発信者情報開示請求です。プロバイダ責任制限法5条により請求します。
発信者情報は、プロバイダ責任制限法の施行規則に規定されている次の14種類です。9号~13号を「特定発信者情報」といい、1号~8号を「特定発信者情報以外の発信者情報」といいます。なお、総務省は2020/06/25付けの資料において、IPアドレスには「接続先IPアドレス」も含まれるとの解釈を示しています。
匿名サイトの管理者・コンテンツプロバイダに請求する際には、5号8号(IPアドレス)と8号13号(タイムスタンプ)だけを請求するのが一般的です。制度上は6、7、10、11、12も請求できるよう設計されていますが、実際にはサイト管理者がこれらの情報を記録していないため、実務上は請求しません。また、5、9のうち、ポート番号を保存しているサイト管理者も少ないため、実際にはIPアドレスとタイムスタンプだけになります。
携帯電話会社などの接続プロバイダに請求する際には、1(氏名)、2(住所)、3(電話番号)、4(メールアドレス)を請求します。その際、サイト管理者から提供された5、9(IPアドレス)と8、13(タイムスタンプ)を提示する必要があります。
実名登録型のサイトの場合には、1(氏名)、2(住所)、3(電話番号)、4(メールアドレス)を請求します。
プロバイダ責任制限法は、「特定電気通信」(2条1号)だけを開示請求の対象にしており、メールやDMの送信者は、この法律では特定できません。開示請求できるのは、ウェブの情報に限られます。
メールやDM、問い合わせフォームの送信者を特定したいときは、刑事手続か、米国のディスカバリ手続きを利用します。
ウェブに公開されている情報なら何でも開示請求できるのではなく、「権利侵害の明白性」と言われる要件(プロバイダ責任制限法5条1項1号、5条2項1号)を満たす必要があります。簡単にいうと、違法な情報です。
なりすましアカウントは、なりすましの上で投稿された情報や、プロフィール写真による肖像権侵害、著作権侵害等について違法性を検討する手法が一般的で、なりすまし、それ自体が違法だという理論はまだ確立していません。
投稿者の特定手続(発信者情報開示請求)の流れは、実名登録型のサイト(ヤフオクなど、Yahoo!のサイトやAmazonなど実名を登録して利用するサイト)と、匿名サイト(2ちゃんねるやTwitterなど実名を登録しなくても利用できるサイト)により異なります。
Yahoo!知恵袋は匿名サイトですが、同じアカウントでヤフオクを利用している場合などは、アカウントの紐付けにより、ヤフーが住所氏名を把握しているケースもあります。
以下、2022年10月1日(新制度施行日)以前からある制度を前提にして、IPアドレス開示仮処分、住所氏名の開示訴訟を使う方法について説明します。新制度も利用できるところには「☆」を付けておきます。
サイト管理者に対して,投稿者の住所氏名の開示請求訴訟を提起します(☆)。
テレコムサービス協会の発信者情報開示請求ガイドラインによる開示請求手続(発信者情報開示請求書)では,投稿者本人が開示に同意した場合を除き、原則として開示されません。
匿名サイトの場合は,以下の手順が必要です。
1 サイト管理者に対する、IPアドレス、タイムスタンプの開示請求
この手続は、テレコムサービス協会の発信者情報開示請求書によるか、裁判所の発信者情報開示仮処分によるか、どちらかです(☆)。メールで開示してくれるサイトもあります。
2 開示されたIPアドレスが、どの経由プロバイダの管理するIPアドレスであるかの調査
IPアドレスと経由プロバイダとの対応は、インターネットで検索できます
3 経由プロバイダに対し、必要に応じてログ保存仮処分
プロバイダの通信ログがもうすぐ消えそうな時期であれば、ログ保存の手続をします(☆)。ログ保存仮処分をしないと通信の調査さえしてくれないプロバイダもあります。
4 経由プロバイダに対し、投稿者の住所氏名の開示請求訴訟
最後に、経由プロバイダに対し、投稿者の住所氏名の開示請求訴訟をします(☆)。
プロバイダに開示請求書を送付するか,発信者情報開示請求訴訟を提起すると,プロバイダは投稿者に対し、「住所氏名を開示しても良いかどうか」という意見照会書を送ります。プロバイダ責任制限法6条1項に規定があります。
この段階で、投稿者に違法行為の抑止力が生じるケースも珍しくありません。
ただし、通常は「開示拒否」という意見照会回答書が戻ります。
管理人が投稿者(発信者)の個人情報を持たいない匿名掲示板や匿名ブログの場合は、投稿者が利用しているプロバイダーを特定したのち、プロバイダーを相手に発信者情報(住所氏名)の開示請求を行います(☆)。
住所氏名等を登録して利用する会員サイトの場合は、サイト管理者に対して投稿者(発信者)の情報開示請求を行います。任意の開示請求と、裁判所の手続きによる開示請求の2通りの方法があります(☆)。
☆ 上記の2段階の手続を一体的に審理するための新制度(2022/10/1施行)もあります。詳しくは、以下の記事を参照してください。
コンテンツプロバイダ(サイト)から開示されたIPアドレスが固定IPアドレスの場合は、WHOIS検索をするだけで投稿者の所属する団体が判明することもあります。プロバイダの固定IPアドレスサービスが利用されているときは、やはりプロバイダに対する開示訴訟が必要です。
なお、光ケーブルなどの固定回線を使っていても、固定IPアドレスとは限りません。通常は、固定IPアドレスではなく動的IPアドレスなので、WHOISだけでは投稿者は判明しません。
コンテンツプロバイダ(サイト)から開示されたIPアドレスが携帯電話会社のときは、格安携帯といわれている会社(MVNO)などへ貸し出されたIPアドレスでないかについても、調べる必要があります。一般的には、ログ保存の依頼やログ保存仮処分をすることにより、顧客情報を持っているのがMVNOかどうかが判明します。
たとえばKDDIの場合であれば、KDDI→UQ→MVNE→MVNOのように、KDDIから3回、ログ保存の依頼または開示仮処分をしないと最後の会社まで行き着かないケースもあります。
そのため、サイトからIPアドレスが出たとしても、いきなり開示訴訟を始めるのではなく、別の会社に貸しているIPアドレスでないかについても、調べる必要があります。
もし、いきなり開示訴訟をして、それが他社に貸しているIPアドレスだった場合、訴訟の答弁書で「当社には顧客情報がない」という返事が来ます。その場合は、訴訟を取り下げ、あらためて、どこの会社に開示訴訟すれ良いのかを調べ、再度、開示訴訟をすることになります。印紙代(13000円)などが無駄になりますので、少なくともログ保存の依頼書は先に送っておきましょう。
実名登録サイトの場合は、サイト管理者に発信者情報開示請求訴訟をして、判決を得て開示されるまでの期間なので、トータルで4~6か月程度です。
他方、匿名サイトの場合は、第1段階としてサイト管理者にIPアドレスの開示請求をしますが、仮処分をしなくてもよいサイトなら1日~2週間ほど、仮処分が必要なサイトなら、2週間~3か月程度です。
第2段階は接続プロバイダへの開示訴訟となりますが、この部分は実名登録サイトの場合と同じく、トータルで4~6か月程度です。
IPアドレス開示請求と接続プロバイダへの開示請求訴訟をあわせると、トータルでは5~9か月程度になります。
実名登録サイトの場合は、時効の問題と、アカウントが削除された場合はさておき、事実上タイムリミットはないと考えてよいでしょう。
匿名サイトの場合は、接続プロバイダのログ保存期間による制約があり、海外サイトであれば投稿日から2週間程度でIPアドレスの開示仮処分を申し立てないと、間に合わないケースがあります。日本のサイトであれば、投稿日から2か月くらいは余裕があります。
経由プロバイダのログ保存期間が経過していると、上記のIPアドレスからたどる方法では、投稿者を特定できません。
その場合は、元々のサイト管理者に対し、IPアドレスではなく、投稿者の情報を開示請求するしかありません。もちろん、匿名サイトであれば住所氏名の情報は存在しないはずなので、あるとしても、メールアドレスと二段階認証用の携帯電話番号程度と思われます。
当サイトの場合は、採用する手段によって値段が変わります。
投稿者特定(サイト+接続プロバイダ)は、1投稿あたり33万円です。詳しくは料金表をご覧下さい。投稿者特定+慰謝料請求訴訟まで込みのパッケージは、1投稿あたり33万円または44万円です。