ログイン時IPアドレス(旧法)

2022.05.28

掲示板などに投稿(POST)した際のIPアドレスではなく、当該サイトにログインした際のIPアドレス。ログインIPアドレス。Twitter、Googleのクチコミ、Facebook、Instagram等の海外サイトでは、投稿時IPアドレスは保存されておらず、発信者情報開示請求をしても、ログイン時IPアドレスしか開示されない。
(以下、旧法下での話です)

ログイン時IPアドレスによる発信者情報開示請求

もともとプロバイダ責任制限法は、投稿時IPアドレスを想定して作られているため、ログイン時IPアドレスにより特定される者の住所氏名が発信者情報開示請求の対象になるかという論点は、「プロバイダ責任制限法が立法当初において予想していなかった事案」とされています(私法判例リマークス51(2015下)61頁)。

東京高裁判例を見ると、ログインした人は同じ人だから開示してよいとしているものもありますが、多くは、侵害情報が投稿された「直前」のログイン時IPアドレスなら、住所氏名の開示請求を認める、という内容になっています。

東京高判平26・5・28(判時2233号113頁)

利用者がアカウント及びパスワードを入力することによりログインしなければ利用できないサービスであることに照らすと、ログインするのは当該アカウント使用者である蓋然性が認められるというべきである。

東京高判平29・1・26(2017WLJPCA01266011)

当該コンテンツ・プロバイダから,当該権利の侵害が行われた日時及びその直前直後の日時における当該権利侵害に利用されたアカウントへのログインに係るIPアドレス並びにこれらのログイン情報が送信された年月日及び時刻の開示を受けることができる可能性はあるのであって,これらの情報の開示を受けることができれば,それを利用して,侵害情報が流通されることとなった特定電気通信の過程を媒介した特定電気通信役務提供者である経由プロバイダを特定し,その者から,侵害情報が流通されることとなった特定電気通信の過程において把握される発信者情報の開示を請求することは可能であると解される。

東京高判平29・5・25(D1-law■28260340)

当該ログインが当該侵害情報の発信の前提としてのログインであるという結び付きが認められる場合には、当該ログインの電気通信の過程で把握された情報であっても、当該ログイン者は当該発信者と同一であることから、「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するというべきである。

東京高判平30・6・13(判時2418号3頁)

法4条1項は,侵害情報そのものから把握される発信者情報でなくても,侵害情報について把握される発信者情報であれば,これを開示の対象とすることも許容されると解される

東京高判平31・1・23(判時2423号29頁)

権利の侵害に係る投稿の前に,ログインが一つしかないなど,当該ログインを行ったユーザーがログアウトするまでの間に当該投稿をしたと認定できるような場合には,当該ログインに係る情報を発信者情報と解することは妨げられるものではなく

「直前」のログインに限られるのか?

令和3年の東京地裁裁判例を調べたところ、発信者情報開示請求事件でログイン型投稿が問題となっている事件のうち、約半数が「同一人物」要件により、開示請求を認めていました。つまり、「直前」には限られないとの判断です。
もっとも、残りの半分は、直前(またはその近傍)でなければ開示を認めないとしているか、または、原告が最初から直前のログインを対象として開示請求しているものでした。

そのため、必ず「同一人物」要件で判断されるというわけではないため、原則として「直前」と考えて請求し、例外的に仕方なく、「同一人物」要件で開示請求する、との方針で動くのが良いでしょう。「同一人物」なら大丈夫、と最初から考えて動くのはリスクがあります。

改正プロ責法5条2項3項

ログイン時IPアドレスによる投稿者特定については、改正プロ責法5条2項、3項に規定されています。3項の定義規定では、侵害関連通信は「侵害情報の送信に係る特定電気通信役務を利用し、又はその利用を終了するために行った」とあり、侵害情報を送信する際のログイン/ログアウト時IPアドレスが対象とされていることが分かります。

「侵害関連通信」とは、侵害情報の発信者が当該侵害情報の送信に係る特定電気通信役務を利用し、又はその利用を終了するために行った当該特定電気通信役務に係る識別符号(特定電気通信役務提供者が特定電気通信役務の提供に際して当該特定電気通信役務の提供を受けることができる者を他の者と区別して識別するために用いる文字、番号、記号その他の符号をいう。)その他の符号の電気通信による送信であって、当該侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内であるものとして総務省令で定めるものをいう。

https://kandato.jp/newproseki/

プロ責法施行規則5条

 プロ責法施行規則5条は、侵害関連通信について「侵害情報の送信と相当の関連性を有するものとする。」と規定しています。パブコメ施行規則(案)段階では「直近」となっていましたが、公布版では「相当の関連性」との表現に変わりました。この経緯からすると、「直近」には限らない、との解釈になりそうです。
 ただし、「同一人物」であれば良いのかどうかは、今後の裁判例次第と思われます。「侵害情報の送信」との関連性が要求されていることからして、単に同一人物の投稿に過ぎない場合には、「侵害情報の送信」との関連性までは認められないのでは? と思います。

 なお、施行規則5条では、「ログイン」(5条2号)と「ログアウト」(5条3号)だけでなく、アカウント作成通信(5条1号)と、アカウント削除通信(5条4号)についても、侵害関連通信だと規定されています。

発信者情報開示命令事件(改正法8条)ではどうなる?

 改正法8条の発信者情報開示命令事件では、どれが「侵害関連通信」なのかを判断するのは、提供命令(改正法15条)を受けたサイト管理者・コンテンツプロバイダです。
 そのため、「直近」ではないログイン時IPアドレスは、サイト管理者のほうであっさり除外され、直前1個だけが接続プロバイダに提供される可能性もあります。

 したがって、「同一人物」要件での開示請求を希望する場合には、IPアドレス開示請求は、従来通り仮処分の方法を使い、接続プロバイダへの請求についてだけ、非訟手続を使うのが良いかもしれません。
 または、非訟手続でのIP開示請求と、仮処分でのIP開示請求をダブルトラックで同時進行させる方法も検討対象です。

結論


  • 2021/03/11 作成
  • 2021/03/17 更新
  • 2021/04/26 更新
  • 2022/05/28 プロ責法施行規則の公布を受けて更新
  • 2023/02/15 パブコメの引用を追加