発チの運用を考える(OCN)

2023.04.08

設問

 掲示板サイトに対する提供命令でOCNの氏名等情報が提供されたため、OCNに対し開示命令の申立をして、IPアドレス等の情報は掲示板サイトからOCNへ提供された。裁判所の要請により掲示板サイトに対する第1事件は取下げたあと、OCNに対する第2事件だけが審理され開示決定が発令された。
 ところが、OCNから開示された情報は、下位プロバイダの住所氏名であった。そのため下位プロバイダに対する開示命令申立を考えたが、IPアドレス・タイムスタンプが開示されていないため(第1事件を取り下げているため)、発信者情報目録が書けない。裁判外でOCN、掲示板サイトにIPアドレスを求めたが拒まれた。
 さてどうするか。

OCNの方針による問題

NTT Comコンシューマ向け事業のNTTレゾナントへの移管について にあるように、NTTコミュニケーションズ(OCN)は、「インターネット接続サービスやMVNOサービスなどのNTT Comのコンシューマ向け事業をNTTレゾナントに移管」した(2022/4/27)。
 そのため、IPアドレスの管理者がOCNでも、実際に顧客情報を保有しているのはNTTレゾナントだったりする。また、それ以外の下位プロバイダが顧客情報を保有しているケースも多い。
 その後、完全子会社(エヌ・ティ・ティレゾナント株式会社)の吸収合併に関するお知らせ にあるように、NTTレゾナントはNTTドコモに吸収合併された(2023/07/01)。そうすると、IPアドレスの管理者がOCNでも、顧客情報を保有しているのはNTTドコモとなるのだろう(2023/07/06追記)。

 にもかかわらず、OCNはその事実(下位プロバイダがいる事実)を決定が出るまで教えてくれない(下位プロバイダの同意があると教えてくれる)。KDDIやソフトバンクは申立て直後に教えてくれることからすると、OCNの方針というか、そういうものなのだろう。

 その結果、OCNに対する開示決定が出ても、投稿者の住所氏名は開示されず、下位プロバイダの氏名等情報が開示されるだけ、となるケースが頻発している。ここで心配になるのはログ保存期間だ。OCNに対する消去禁止命令をもらっても、保全されるのは下位プロバイダの氏名等情報であって、投稿者個人の住所氏名ではない。OCNがサーバーを管理していなければ、下位プロバイダのログ保存期間経過により、投稿者特定ができなくなる可能性がある。

第1事件を取下げなければよかったのか

 そこで、早々に下位プロバイダに対する開示命令の申立てをして、消去禁止命令の申立てをせねばならないのだが、問題は設問のとおり、IPアドレス・タイムスタンプが開示されていない点にある。発信者情報目録が書けないし、下位プロバイダにIPアドレス・タイムスタンプを指定できない。OCNの手続(第2事件)とつながっているわけでもないので(開示決定が出た時点でOCNの手続は終わっている)、OCNから提供してもらうこともできない。

 もとはといえば、第1事件を取り下げなければよかったのだが、裁判所によると、第1事件は極力取り下げてもらう方針らしい。なぜなら、第1事件があると期日調整や進行管理の手間が格段に増えるからとのこと。申立人としても、まさかこんな事態になるとは思っていないから、すんなり第1事件の取下げに応じてしまうはずだ(今後は、取り下げるのなら接続プロバイダのほうの発信者情報目録を訂正して、IPとタイムスタンプを加えておくべき)。

IP開示の申立てと提供命令とどちらが早いか

 とはいえ、ないものはないので仕方ない。振り出しに戻って、IPアドレスとタイムスタンプを開示請求する必要がある。では、請求相手は掲示板サイトか、それともOCNか。この問題は、IP開示の申立てとIPの提供命令とではどちらが早いかとの問題と関連する。

 一度開示決定が出ているから、2度目の開示命令は形式的な審理になるはず。とはいえ、掲示板サイトに対するIP開示命令を出してもらうには、期日というか陳述聴取が必要であり(必要的陳述聴取:法11条3項)、陳述聴取が任意的な提供命令のほうが早いのではないか。
 具体的には、(1)掲示板へのIP開示申立て→期日→発令→IP開示→下位プロバイダに対する申立てと、(2)OCNへのIP開示命令+提供命令申立→下位プロバイダに対する申立→OCNから下位プロバイダへのIP提供を比べると、後者のほうが早いのではないかと思う。

OCNはIPアドレスを保有しているといえるか

 そこでOCNに対するIP開示申立て+提供命令申立をするとして、OCNはIPアドレスを「保有」しているといえるかが論点となる。IPアドレスは提供命令によりサイトから情報提供されたものだから、「その保有する発信者情報(当該提供に係る侵害情報に係るものに限る。)を特定する目的以外に使用してはならない。」に違反するのではないか(法6条3項)。
 つまり、下位プロバイダへの提供は目的外利用、法6条3項違反ではないかが問題となる。

 この点について、立案担当者の解説書(⼤澤⼀雄「発信者情報開⽰命令の実務」商事法務P149〜150)では、提供命令により情報提供されたIPアドレスは開示請求の対象になると説明されている。最終的な目的や提供命令制度の趣旨からして、法6条3項違反とならないと解すべきだろう。

提供命令は2号限定型

 そして、またもや活躍するのが2号限定型提供命令。すでに下位プロバイダの氏名等情報は判明しているので、15条1項1号の主文は不要であり、2号だけで足る。
 そのため、OCNに対する提供命令が発令されたら、すぐに下位プロバイダに対する開示命令の申立てをして(管轄は東京地裁になる)、その旨をOCNに通知すればよい。
 これで、IPアドレス等が下位プロバイダへ提供されるはずだ。

教訓として

 OCNは下位プロバイダが多い割に、「決定が出ても開示されるのは下位プロバイダです」とは言わない。そのため、申立て段階からイロ併用型(通常型)の提供命令申立てを付けておくのが重要だろう。
 テンプレートでは、書式n19-3、n19-4、n20-3、n20-4あたり。当初は、JCOM、アルテリア、IIJといった「高い確率で下位プロバイダがあると分かっている」プロバイダ用に作っておいたものだが、OCNにも有用だろう。


  • 2023/04/08 作成
  • 2023/04/10 若干加筆
  • 2023/04/12 若干加筆