ただし、債務者が保有するものに限る(但書発令)

2023.07.09

但書発令と呼ばれるもの

 現在Twitterのログ調査に数か月の時間がかかっていることから、「但書発令」と呼ばれるものが脚光を浴びている。これは、発信者情報目録に「ただし、債務者が保有するものに限る」との限定を付ける方式のこと。この記載により、Twitterのログ調査が終わっていない状況でも、開示決定を受け取ることができる。

 IP開示決定を受け取ったあとは、即、間接強制申立てをする。これによりTwitter側の優先順位が繰り上がるため、経験上、発令から10日ほどでIP開示のメールが来る。もちろん、前提として但書発令なので、発令までの時間も短縮されている。トータルだと、申立てからIP開示まで1か月半~2か月くらいか。

リスクはある

 しかし、但書発令にもリスクはある。まず、主文に「保有するものに限る」とあるから、間接強制しても「保有してない」と回答される可能性がある。保有確認が未了の状態での発令だから当然である。

 次に、間接強制できないリスクもあると言われている。東京地裁9部裁判官の多くは、但書発令は執行文を付与できないと考えているらしい。そのため、発チの決定だと執行文の付与が拒絶される結果、間接強制ができない。これに対しIP開示仮処分は保全執行なので、執行文は不要であり、間接強制の判断は21部の裁判官に委ねられる。

間接強制できないのか

 もっとも、グーグルの決定であれば、以前から「ただし、裁判所が発令する日において相手方が保有しかつ直ちに利用可能なものに限る。」との但書が付いており、これに通常部で執行文を付けてもらったこともあるし、グーグルに対する間接強制を発令してもらった例もある。そのため、但書発令で間接強制できないかどうかは、今のところグレーだと思っている。

とはいえ

 ログ調査に数か月かかっていると、いくら「保有している通信記録の中での」最も時間的に近接したものだとはいえ(総務省逐条解説書籍版P330)、プロバイダのログ保存期間徒過の危険が高めである。できれば、早めに開示してもらいたい。ということで、現時点では、IP開示仮処分は但書発令をしてもらって間接強制。発チは気長にログ調査を待つ。といった方針ではないかと思う。

後日談(7/20)

 その後の東京地裁9部では、但書発令は問題があるとの方向で議論されているらしい。そのため、なるべく但書発令をしない、発信者情報の保有は認定したうえで発令する。その代わり、長々とログ調査を待つことはせず、呼び出しから1~2か月程度待ってみて、それでもログ調査が終わらないようなら保有していると認定する、といった感じにするようだ。
 そうすると、申立てから発令までの時間は1~2か月、その後の間接強制にかかる時間を考慮すると、ギリギリ3か月以内にIP開示されるスケジュール感になると思う。もちろん仮処分の話であり、発チでは無理だろう。


  • 2023/07/09 作成
  • 2023/07/20 追記