発チの申立書テンプレをたくさん作ったので、次は「申立書テンプレを使う」シリーズの記事を書きます。第1弾は、最もダウンロード数の多い「X」(Twitter)。
直近2か月間に、IP開示仮処分(X用)が102ダウンロード、特定発信者情報の補充性に関する報告書(X用)が74ダウンロード、アカウント情報開示命令申立書(発チ・X用)が39・・・などと続きます。
IPアドレス開示仮処分
まず、X Corp.に対するIPアドレス開示請求ですが、この手続には「IP開示仮処分申立書」を使います。発チの申立書(書式18-1)でもよいのですが、発チは確定に1か月かかるため、すぐに間接強制することができません。仮処分なら決定書をもらってすぐに間接強制申立てができますし、執行文の付与も要らないので、急いで開示してもらいたいIPアドレスに適しています。
また、X Corp.はいまだに提供命令にはしたがっていないようなので、IPアドレスについて発チの申立てにするメリットがあまりありません(印紙代が1000円になることくらいか)。
IPアドレスとアカウント情報(メアド、電話番号)を一緒に開示命令申立てする手法も考えられますが、この方法にすると、アカウント情報の保有確認が終わるまでIPアドレスの開示決定が出ないことになり、手続が先に進みません。
というわけで、いろいろ考えた結果、IPアドレス開示仮処分がよい、ということになります。
番号 | タイトル | Word/PDF |
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書式7-Twitter | 発信者情報(IPアドレス)開示仮処分命令申立書(X-Twitter用) |
申立書テンプレは、「●」に文字を埋めるだけで申立書が完成する作りになっています。最近作っているテンプレでは、申立日付はWordの「日付選択コンテンツコントロール」、裁判所の宛先については「コンボボックスコンテンツコントロール」でお手軽入力できるようにしてあります。
なお、コンボボックスコンテンツコントロールでは大阪地裁も選択肢に入れてありますが、X Corp.の外国会社の登記は東京にあるため、IP開示仮処分の管轄は東京地裁しか選べません。
(別紙)発信者情報目録
番号 | スクリーンネーム | 投稿日時 |
1 | @ ● | ●年●月●日●時●分(JST) |
2 | @ ● | ●年●月●日●時●分(JST) |
発信者情報目録では、スクリーンネーム(@で始まる名前)と投稿日時を書きます。現在のプロ責法では、投稿日時に「最も時間的に近接した」ログインを対象としてログイン時IPアドレスを開示請求する建付になっているので(施行規則5条柱書)、投稿日時は必須です。スクショするときも、投稿日時が写るようにしてください。「●日」前、「●時間」前、といった表示になっているスクショでは、開示できないと言われるかもしれません。
(別紙)権利侵害の説明
なぜ当該投稿が人格権等を侵害しているのか 記載してください。基本的に人格権を想定してテンプレを作っているため、著作権など、人格権以外のものを記載する場合には、テンプレ本体にも手を入れる必要があるかもしれません。
(別紙)当事者目録
本人訴訟の人は、債権者代理人の部分を消し、申立書冒頭と上申書冒頭に書いてある「債権者代理人」を「債権者」としてください。
無担保上申(2023/11ころの話)
X Corp.は 外国会社の登記をしていますので、管轄上申は不要です(管轄上申が必要となるのは、5ちゃん、FC2、AWSのような外国会社登記のない海外法人)。供託に関する上申書だけで足ります。Xは仮処分決定に際し担保不要と上申しますので、これに対応する形で無担保上申(申立時)を提出してください。事前の「無担保かもしれない」上申と、審理後の「無担保にしてください」上申、2通が必要だと言われています(以前は事前の1通で足りました)。
申立書テンプレでは、無担保上申(申立時用)は8ページ目につけています。7ページ目と8ページ目の間にはWordの「セクション区切り」を入れてあるので、上申書はセクション2になります。同じく、無担保上申(発令時用)はセクション区切りを入れた9ページ目なので、セクション3です。
上申書(申立時用)だけを印刷したいときは、印刷画面の「ページ」ボックスに「s2」と入力してください。上申書(発令時用)だけを印刷するなら「s3」です。
無担保上申書の代理人氏名の部分は、クリックするとグレーになります。この部分にはWordの「相互参照」機能で申立人名を引用するように設定してありますので、F9キーで申立人名(「ブックマーク」機能で引用先指定しています)を反映できます(リンクが切れている申立書テンプレもあるようなので、おいおい直します)。
同じく、無担保上申書(申立時用)の申立日にも、相互参照を設定してあるので、クリックしてF9キーを押す操作で、申立書の申立日を引用できます。
その後(2024/03ころの話)
その後、X社の方針変更により、IP開示仮処分には担保(供託金)が必要になりました。IP開示だけなら10万円、削除仮処分も付けていると30万円が一般的な金額です。
遠方にお住まいの方は管外供託上申を出しておくと良いです。弁護士なら第三者供託上申も。
(補足)東京地裁9部は管外供託を認めないとの情報をいただきました。ということで、東京地裁以外で削除仮処分をするときに管外供託上申を検討してください。
甲号証
甲●:画面
ツイートのスクショまたは印刷物を想定しています。「甲1」とでもしてください。
(甲号証のサンプルはこちら)
甲●:利用規約
X利用規約のうち「本規約がユーザーと、Xおよび本サービスを提供するX Corp.(1355 Market Street, Suite 900, San Francisco, CA 94103 U.S.A.)との間で締結される契約となります。「当社」とは、X Corp.を意味します。」と表示されている部分を想定しています。「甲2」とでもしてください。
以前は、WHOISでドメイン名の登録者(registrant)が債務者であることを示す方法が一般的で、東京地裁9部でも「WHOIS必須」と言われてしました。最近はregistrantがプロテクトされていることが多いため、開示関係役務提供者性の立証方法は、WHOISである必要はなくなっています。
(甲号証のサンプルはこちら)
甲●(権利侵害の明白性)
投稿内容が違法であることを裏付ける証拠です。甲3とでもしてください。複数あるときは、私は甲3の1、甲3の2、などとしています。
(陳述書のサンプルはこちら)
甲●:補充性の報告書
以下のPDFを想定しています。「甲4」とでもしてください。
番号 | タイトル | |
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資料02 | 特定発信者情報の補充性に関する報告書(X-Twitter用) |
甲●:ログ保存期間
ログ保存期間が3~6か月程度であることを示す文献のコピーを想定しています。
当サイトのログ保存期間の記事を疎明資料にしている弁護士も多いようです。
拙著の「付録3」のコピーでも構いません。「甲5」とでもしてください。
(甲号証のサンプルはこちら)
証拠説明書
東京地裁9部では証拠説明書は必須です。証拠説明書がどんなものか分からない人は、裁判所のサンプルを真似してください。
表の部分は、以下の内容くらい簡単でも良いでしょう。
号証 | 標目 | 原・写 | 作成年月日 | 作成者 | 立証趣旨 |
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甲1 | ポストする | 写 | 2023/11/1 | 氏名不詳者 | 本件投稿の内容 |
甲2 | 利用規約 | 写 | 2023/11/18印刷 | 債務者 | 債務者の開示関係役務提供者性 |
甲3 | 陳述書 | 原 | 2023/11/18 | 債権者 | 摘示事実の反真実性、同定可能性 |
甲4 | 報告書 | 写 | 2022/10/19 | 神田知宏 | 特定発信者情報の補充性 |
甲5 | 付録3 | 写 | 2023/9/13 | 神田知宏 | 接続プロバイダのログ保存期間 |
番号 | タイトル | Word/PDF |
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書式33-1 | 証拠説明書サンプル(X用) |
提出方法
本人訴訟の人であれば、申立書1通、証拠説明書1通、甲1~甲5を1通、X Corp.の外国会社の登記(法務局かネットで買えます)を1通、印紙2000円、を東京地裁民事第9部に郵送してくください。あと郵便切手がいくらか要ります(裁判所に電話で聞いて下さい)。
住所 | 〒100-8920 東京都千代田区霞が関1-1-4 東京地方裁判所(民事第9部) |
電話番号 | 発令係 03-3581-3402 03-3581-3404 03-3581-3406 |
FAX番号 | 03-3595-2259 |
IP開示及び削除仮処分命令申立
IP開示請求と同時に削除請求をすることもできます。決定が出ると、X Corp.により、IP開示と削除が実施されます。甲号証、証拠説明書は基本的にIP開示仮処分申立書と同じです。
削除だけ実施したいときは、削除仮処分申立書を使います。
削除仮処分だけ実施するときは、IP開示に必要な、特定発信者情報の補充性に関する報告書(上で、甲4としたもの)と、接続プロバイダのログ保存期間に関する資料(上で、甲5としたもの)は要りません。
番号 | タイトル | Word/PDF |
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書式8-Twitter | 投稿記事削除及び発信者情報開示仮処分命令申立書(X、Twitter用) | |
書式5-Twitter | 投稿記事削除仮処分命令申立書(X-Twitter用) |
アカウント情報の開示命令申立
IPアドレスから投稿者を特定できなかったときのために、アカウント情報(メールアドレス、電話番号)を同時に開示請求しておきます。
番号 | タイトル | word/PDF |
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書式17-3 Twitter | 発信者情報開示命令申立書(Twitter用、アカウント情報) |
申立ての内容は、基本的にIP開示仮処分申立書からのコピペで足ります。
違うのは、当事者の名称が「債権者/債務者」から「申立人/相手方」、「債権者代理人」から「申立人手続代理人」になる点と、甲号証の種類です。
アカウント情報は特定発信者情報ではないため、特定発信者情報の補充性に関する 報告書(上で甲4としたもの)は不要です。また、接続プロバイダーのログ保存期間も関係ないため、ログ保存期間に関する文献(上で甲5としたもの)も不要です。
提出方法
本人訴訟の人であれば、申立書2通、証拠説明書1通、甲1~甲3を1通、X Corp.の外国会社の登記(法務局かネットで買えます)を1通、印紙1000円、を東京地裁民事第9部に郵送してくください。あとレターパックが要ります(裁判所に電話で聞いて下さい)。
その後どうなるか
裁判所から事件番号のお知らせ、期日指定、などの連絡があります。
あとは、手続が流れていきます。
供託手続
最終的に開示認容となった場合には、裁判官から供託金のお知らせがあります。「担保告知」などと言われます。IP開示だけなら10万円、削除が含まれていると30万円のことが多い運用です。
裁判官から担保告知があったら、その足で東京法務局へ行って供託手続をします。5階へ行き、エレベーター降りて右の部屋に入ります。そちらに供託の申請書(OCR用紙)が置いてあるので、必要事項を記入して窓口に出してください。
記入のサンプルは以下。
番号 | タイトル | word/PDF |
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書式35-1(X、標準) | 供託OCR用紙記入例(X、標準) | |
書式35-2(X、秘匿) | 供託OCR用紙記入例(X、秘匿) | |
書式35-3(X、白紙) | 供託OCR用紙記入例(X) |
申請に不備がなければ、次は供託金の納付に呼ばれます。ここで現金を納めて、供託書を受け取ります。
供託書を受け取ったら、そのまま地下のコンビニへ行き、コピーを1通取って裁判所へ逆戻りし、供託書とコピー、当事者目録(債務者代理人を追記したもの)、発信者情報目録、(必要なら)投稿記事目録を各3通、裁判所へ提出してください。
発令後
IP開示仮処分決定が発令されたあとは、2週間以内に間接強制申立てをします。これをしないと、IP開示に数か月かかるケースもあります。最近(2023/11/18)は、決定が出ると数日でIP開示されるようになっているように見えるので、もしかすると、もう間接強制しなくてもIP開示されるのかもしれません(経過観察)。
間接強制には、以下の申立書テンプレを使います。
番号 | タイトル | word/PDF |
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書式201-Twitter | 間接強制申立書(IP開示仮処分、Twitter宛) |
事前に、東京地裁9部に「送達証明」をもらう必要があります。
送達証明申請書は、裁判所のテンプレを利用してください。
間接強制の申立て先は、東京地裁の民事21部です。
アカウント情報の開示決定(発チ)は、確定に1か月かかるため、間接強制は1か月後にならないと申立てができません。また、東京地裁9部に執行文を付与してもらう必要もあります。
執行文付与申請書は、裁判所のテンプレを利用してください。
IPアドレス開示後
IPアドレス開示後は、WHOISで接続プロバイダを特定してから、接続プロバイダに対して「IPアドレス使用者の住所氏名」を開示請求します。
以前は、発信者情報開示請求訴訟を利用していましたが、今では事実上、発信者情報開示命令申立、1択です(もちろん訴訟しても構いませんが)。
細かい話もあるので、それは別の記事に書くことにして、ここでは、使用するテンプレだけ書いておきます。
番号 | タイトル | word/PDF |
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書式20-2Twitter | 発信者情報開示命令申立書(Twitterからの接続プロバイダ用、Xへの提供命令なし) | |
資料05 | 接続先IPアドレスの報告書(X-Twitter用) Word形式は値のみ(申立書へのコピペ用) |
- 2023/11/18 新規作成
- 2023/11/20 開示後を追記
- 2023/11/24 開示後の記事へのリンクを追加
- 2023/12/05 発信者情報目録の注意点を追加
- 2023/12/13 裁判所の連絡先を追加
- 2024/03/12 無担保ではなくなった話を追加
- 2024/04/10 供託OCR用紙の記入例を追加