ブラック企業
「ブラック企業」という言葉は,かつてはヤクザのフロント企業,反社会的勢力とつながりが強い企業という定義だったようだが,最近は,特に労働法を遵守しないために,就労に適さない企業,という意味を持つそうだ。事実摘示か意見論評か
ネットに「あの会社はブラック企業だ」という指摘があった場合,これは「事実摘示」型なのか,「意見論評」型なのかが問題となる。最高裁平成9年9月9日の基準によれば,ブラック企業であることが証拠で証明できれば事実摘示型,そうでなければ意見論評型ということになる。ブラック企業という言葉は,それ自体の概念がそれほど明確でないことも否めないため,事実摘示型と主張するのは,やや躊躇する。
やはり,何らかの事実(サービス残業が多いとか,就業規則がないとか)を前提とした,意見論評型と理解すべきだろう。
名誉権侵害となるのか
社会的評価が低下すれば名誉権侵害の可能性があるわけだが,昨今,「ブラック企業」だと指摘されれば,「そんな企業に就職したくない」と思う人が多かろうことを考えると,社会的評価の低下は免れないだろう。では,そのような指摘は違法なのか。
意見論評型であれば,名誉権侵害となるのは,おおざっぱに争点をまとめると,前提事実が反真実の場合か,表現が社会的相当性を逸脱している場合である。
そのほかにも,公益性の基準もあるが,私企業の場合には「しょせん私企業」という判断で公益性なしとする裁判例や,「私企業といっても国民の生活に直結する」といって公益性ありとする裁判例もあるので,ここで戦っても実益はない,という印象。
前提事実の反真実性
何を前提にしてブラック企業だと意見論評されているかにもよるが,何らかの前提事実が指摘されていれば,その前提事実が真実なのか,反真実なのかが主要な争点となるだろう。この部分で争っている裁判例もいくつかあった。
表現の妥当性
そもそも「ブラック企業」という表現が社会的相当性のある,穏当な意見論評なのか,ということも問題となる。単に「サービス残業させている」「就業規則がない」といった事実を摘示するにとどまらず,総括して「ブラック企業だ」と書くことの問題である。ただ,すでにマスコミがふつうに「ブラック企業」という言葉を使っている状況からすると,社会的相当性では戦いにくい状況かもしれない。
裁判例
判例検索では,以下の肯定例があった。「ブラック会社」との表現について,「ブラック会社という用語が,労働法その他の法令に抵触し又はその可能性がある条件での労働を強いる企業を意味する俗語であると認められる」「ことからすると,同記事により原告の社会的評価は低下すると認められる」とした東京地裁平成24年8月31日判決
「ハイパーブラック企業」との表現について,公益目的を否定した,東京地裁平成23年11月24日判決
「ブラック記載部分は,一般人に対し,原告は労働法等の法令に抵触し又はその可能性がある労働条件で従業員を働かせるなどの体質を持つとの印象を与えるものであって,これらの記載部分は,いずれも原告の社会的評価を低下させる」とした,東京地裁平成23年7月8日判決
「ブラック企業」との表現について,「一般の読者の注意と読み方を基準に判断すると,同記事は,原告が労働法その他の法令を遵守せず従業員に劣悪な環境での労働を強いているかの印象や,違法な解雇を現実に行っているかの印象を与える具体的事実を摘示していると解することができ,これは,原告の社会的評価を低下させる」とした,東京地裁平成22年9月2日判決
「ブラック企業」との表現について,「悪徳企業と解釈でき,原告に対する名誉毀損に該当する」とした東京地裁平成21年2月5日判決
問題提起
問題は,やはり用語が不明確であるという点だと思われる。用語が不明確でも,社会的評価が低下する場合には違法なのか,というところが,今後の争点になりそうな印象がある。
なお,「セクハラ」という言葉については,具体的に何をしたのか一切書かかれていなくても,違法だとした高裁判例が複数ある。
改訂は以下。