Googleの主張に対する判断部分
債務者は,本件サイトによるインターネット検索サービスの公益性や,検索サービスの提供者は検索結果の内容の正確性や正当性については何ら表現を行っていないことから,検索サービスの提供者には検索結果についての削除義務は原則として認められない旨主張し,なるほど,今日においてインターネット検索サービスの利用は,インターネットを効率的に利用する上で,きわめて重要な役割を果たしていることは公知の事実である。しかし,本件投稿記事中,主文第1項に列挙したものは,タイトル及びスニペットそれ自体から債権者の人格権を侵害していることが明らかである一方,このように投稿記事の個々のタイトル及びスニペットの記載自体を根拠として投稿記事について債務者に削除義務を課したとしても債務者に不当な不利益となるとはいえないし(現に,疎明資料〔甲7,乙5ないし7〕によれば,債務者は,本件サイトによる検索結果から債務者が違法と判断した記事を削除する制度を備えていることが認められる。),また,他者の人格権を害していることが明白な記載を含むウェブサイトを検索できることが本件サイトを利用する者の正当な利益ともいい難い。よって,債務者の上記主張は採用できない。
また,債務者は,本件サイトの検索結果のリンク先のウェブサイトの管理者に削除を求めれば権利救済として足りるから,債務者に検索結果についての削除義務は原則として認められない旨主張するが,本件投稿記事目録中,主文第1項に列挙したものは,投稿記事の個々のタイトル及びスニペットそれ自体から債権者の人格権を侵害していることが認められるのであるから,本件サイトを管理する債務者に削除義務が発生するのは当然であり,債務者の上記主張は,これに反する限りにおいて採用できない。
要点
従前から,掲示板管理会社やブログサイト運営会社,クチコミサイト運営会社等に対しては,同社がいわゆるコンテンツプロバイダであるとの一事をもって,サイト内のコンテンツにつき,条理上の削除義務が認められてきました。
この条理上の削除義務を検討する際,同社に故意・過失があったかどうか,という主観面は問題とされません。
この争点についてGoogleは,「URL、タイトル及びスニペットは、一定のアルゴリズムに基づいて、自動的かつ機械的に表示されているに過ぎず」「債務者の主観的な判断が入っていない」として,条理上の削除義務はないと主張しました。
また,Googleは「本件ウェブページに表示されるコンテンツを管理しているコンテンツプロバイダではない。」とも主張していました。(本件ウェブページというのは,「google.co.jp」ドメインのサイト内にあるウェブページです)
しかし,「自動的かつ機械的に」といっても,そのプログラム(クローラ)やサービスを設計して作ったのはGoogle自身でありGoogleの意思が介在していること,インターネットの歴史から見ても,検索サイトはインターネットにおけるコンテンツの1つにすぎないことから,検索サイトもまたコンテンツプロバイダであり,条理上の削除義務が認められてしかるべき,ということになります。
本件決定は,「本件サイトを管理する債務者に削除義務が発生するのは当然であり」としており,Googleがコンテンツプロバイダであることを認めたものと考えられます。
損害賠償責任との関係
Googleの「自動的に機械的に」という主張は,削除義務と損害賠償責任の要件を混同しているもののようにも読めました。
Googleがコンテンツプロバイダであれば,プロバイダ責任制限法における特定電気通信役務提供者と考える余地があり,損害賠償責任は,「他人の権利が侵害されていることを知っていたとき」または「他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき」(同法3条1項)でなければ負いません。
そのためGoogleがいう「自動的に機械的に」という主張は,損害賠償責任を否定する理由とはなっても,削除義務を否定する理由とはならないと考えられます。
次の論点
今回の決定は,タイトルおよびスニペット自体から権利侵害の明白性を認定するもので,リンク先の違法性については検討していません。
しかし,東京高裁平成24年4月18日判決はリンクによる名誉権侵害を肯定していますので,リンク先の違法性に基づき,Googleに検索結果の削除を求めることも理論上は可能なのではないかと考えています。