国際裁判管轄
サイト管理者が個人
サイト管理者が個人のときは、相手方の住所が日本にあれば、日本の裁判所に国際裁判管轄があります(新法9条1項1号イ)。
サイト管理者が法人
サイト管理者が法人で、「事務所又は営業所」が日本国内にあるケースは一般的ではないので、新法9条1項2号が適用されることはないことでしょう。海外のサイト管理者の日本法人は、日本の事務所または営業所とは考えられていません。
そのため、Twitter、Googleなどの海外法人は、「日本において事業を行う者」の「相手方の日本における業務に関するもの」として、国際裁判管轄が認められることになります(新法9条1項3号)。
(注)2022/8~9ころ、Twitter、Googleなどが日本で「外国会社」の登記をしたため、日本法人と同じように扱えるようになりました。その結果、9条1項2号により管轄が認められ、管轄上申は不要です。
国内管轄
サイト管理者が個人
サイト管理者が個人のときは、「相手方の住所の所在地」の裁判所に申し立てます(新法10条1項1号)。一般のサイト管理者(個人)は日本に住所があるため、各地の地裁の管轄に属します。
たとえばIP開示仮処分では、東京地裁のほか、千葉地裁や横浜地裁でも申立てをしています。
サイト管理者が法人
サイト管理者が法人のときは、「主たる事務所又は営業所」の所在地の地裁に申立てます(新法10条1項3号ロ)。一般的なサイト管理者は日本法人なので、当該法人の本社所在地にある地裁に申立てをします。
海外法人は、多くの場合、日本に事務所または営業所がないので(上記のとおり、日本法人は、日本の事務所または営業所とは考えられていません)、最高裁規則により定まる地を管轄する地方裁判所の管轄に属します(新法10条2項)。
この最高裁規則(新法18条)はまだできていないため、どこになるのかは不明です。民事訴訟法10条の2、民事訴訟規則6条の2と同じなら、東京地裁が管轄になります。
(注)外国会社の登記をした海外法人は、「日本における代表者」の住所で国内管轄が認められます。TwitterもGoogleも東京都23区内に住所があり、東京地裁本庁の管轄になります。
接続プロバイダに対する開示命令の管轄
提供命令(新法15条1項1号)により、「他の開示関係役務提供者」(接続プロバイダ)の氏名等情報を提供された申立人が、当該「他の開示関係役務提供者」を相手方として発信者情報開示命令の申立てをするときは、サイト管理者に対する開示命令申立と同じ裁判所の専属管轄になります(新法10条7項)。
そうすると、サイト管理者の管轄が東京地裁ですと、そこから開示された接続プロバイダが日本のどこに本社を有していても、すべて東京地裁管轄になります。
他方、サーバー管理会社は大阪本社が多いため、サーバー管理会社から提供命令でサイト管理者や接続プロバイダを開示してもらうと、サイト管理者や接続プロバイダの本社がどこにあっても、すべて大阪地裁管轄になるということです。
専属管轄なので、当事者の合意(新法10条4項)では排除できません。
不服申立ての管轄
「特許権、実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利を侵害された」(新法10条5項)ケースでは「大阪地方裁判所」にも開示命令の申立てができますが(同項2号)、開示命令事件について、決定に対する即時抗告(非訟事件手続法66条)は、東京高裁の専属管轄です(新法10条6項)。
それ以外の即時抗告の管轄は、当該地裁を管轄する高裁です。
発信者情報開示命令事件の決定に対する「異議の訴え」の管轄は、決定をした地裁を管轄する高裁です(新法14条1項、2項)。
つまり、即時抗告、異議の訴えとも、管轄は同じだが、特許などに関する即時抗告だけ例外がある、となります。
考察
「大阪地裁でもできるようにした」との総務省関係者の話を聞いた記憶ですが、新法10条の条文ですと、必ずしも大阪地裁で発信者情報開示命令の申立ができるわけではなさそうです。新法10条3項に「大阪地方裁判所」とあるのは、大阪高裁、広島高裁、福岡高裁、高松高裁管轄の地裁に管轄があることが前提です。
ということは、最高裁規則(新法18条)により、Twitterなど海外法人に対する開示命令申立を東京地裁だけでなく、大阪地裁にも申し立てられるようにする、という話かもしれません。
- 2021/04/24 作成