削除依頼と前科・犯罪報道

2011.01.22

(注意)以下の記事は2011年当時の状況を示すものです。2017年1月31日の最高裁決定により,前科・犯罪報道の削除請求は,裁判所を通さない手続でないと基本的に難しくなっています。裁判所では,不起訴事案では削除決定がいくつか出ていますが,罰金,執行猶予,刑期満了などのケースでは,10年~15年経過したケースでも削除が概ね認められていません。 (2019/3/21追記)

2021年の運用については、こちら→ https://kandato.jp/case/hanzai/
(2021/04/02追記)


1 名誉毀損や侮辱による告訴

刑事訴訟法上,告訴は受理義務があるので,警察が告訴状の受け取りを拒むことはできない。しかし,事実上,「預かり」「仮」「参考」といった言葉により,受理を拒まれることがある。 なぜ受け取らないかというと,想像するに,警察も忙しいから,ということだろう。告訴を受け取ると捜査しなければならない。

2 IPアドレスを渡した場合

しかし,IPアドレスをこっちで調べて警察に渡すと,かなり迅速に投稿者を調べてくれる。 民事訴訟でIPアドレスから投稿者を調べるには数か月を要するところ,警察なら数日から数週間で答えが出る。 それゆえ,IPアドレスの調査までは仮処分でやって,そのあとは警察に引き継ぐ,というのが早いだろう。

3 なぜ違うのか?

では,なぜ告訴状を受け取らない一方で,IPアドレスを渡すと簡単に調べてくれるのか。 それは,警察内部での手続の違いによるもの,という話を聞いた。 すなわち,IPアドレスを調べるには令状が必要となるためハードルが高いけれど,IPアドレスから投稿者を調べるのは捜査照会だけで済むため,警察としても動きやすい,ということらしい。 (ただし,後者に令状が必要なプロバイダも存在するとのこと)

4 仮処分にかかった費用

警察さえも動かないのだから,犯人特定にはIP開示の仮処分が必須となる。 それゆえ,仮処分にかかった費用は,犯人に損害賠償請求として上乗せすることも可能ではないかという方針で,最近は訴訟活動・交渉活動をしている。

5 限界

警察に動いてもらうには,犯罪を構成しないといけない。そうすると,名誉毀損・侮辱なら犯罪だが,プライバシー侵害は犯罪ではないので,頭をひねらないと,警察に動いてもらうのは難しいのではないだろうか。

1 削除可能性

犯罪報道は,犯罪直後なら公益性のある適法な記事であることが多いでしょう。しかし,それが①何年経ってもネットに残っている場合と,②最近ネットでコピーされた場合は,削除できるケースがあります。

2 最高裁

最高裁は,ネット記事の削除事例ではありませんが,報道の利益より更生の利益が優位するかどうか,という基準を出しています。 これと同様に考えると,もう何年も経っていて,報道の利益より更生の利益のほうが優位する場合は,削除すべき違法性があることになります。

3 基準

削除できるかどうかの基準は,第1には時間経過です。「犯罪報道は社会の正当な関心事」という視点で考えると,社会の関心が薄れる“公訴時効期間”が1つの目安になると考えられます。これは犯罪によって異なりますが,5年,7年といった期間経過が基準になります。 第2は,更生の利益の基準です。執行猶予期間の満了,刑期の満了などは,削除に有利な事情となります。 裁判官によっては,民事の不法行為の時効期間(3年)を基準に考えてくれる人もいます。

4 削除の必要性

削除の方法には,削除依頼メール,送信防止措置依頼書,裁判所の削除仮処分,削除訴訟,といった手法がありますが,削除仮処分の方法による場合は,削除の必要性がなければいけません。 いくら時間が経過していても,削除の緊急の必要がないと,削除を認めない裁判官がいます。


2012/10/21 だいぶ基準が固まってきたので,内容改訂