プロバイダ責任制限法 省令の遡及適用

2020.12.18

問題の所在

令和2年8月31日、プロバイダ責任制限法の省令に「電話番号」が追加され、発信者の電話番号が開示請求できるようになりました。

しかし、8月31日より前の投稿に関し電話番号の発信者情報開示請求をすると、プロバイダ(特にソフトバンク、KDDI)は、電話番号を請求できるのは8月31日以降の投稿だけだと主張します。省令の遡及適用の問題、などと呼ばれています。

主張骨子

これに対して主張してみたのは、以下のような内容です。

  • (削除仮処分をしていないケースで)投稿は8月31日以降も削除されずに表示されているので、継続的不法行為だから、8月31日以降に権利侵害の明白性がある。
  • 被告の引用する東京地判平15・4・24(平成14年ワ第18428号)は、投稿時点で発信者情報開示請求権が存在しなかった事例であり、令和2年8月31日より前から発信者情報開示請求権が発生している本件とは事情が異なる。
  • 経過規定がない。
  • 訴訟物の判断の基準時は口頭弁論終結時である。

総務省の見解

総務省は、「発信者情報開示の在り方に関する研究会」最終とりまとめ(案)に対する意見募集結果において、以下の考え方を示しています(考え方4-18)

発信者情報開示請求が行われた時点で具体的な開示義務がプロバイダに生じると考えられるものであることから、権利侵害投稿が行われた時期にかかわらず、省令改正後は、改正後の省令が適用されると考えられます。

開示請求が認められたもの

訴訟の結果、いくつか認容されました。判決文の該当箇所を引用しておきます。

東京地判令2・12・11(対KDDI)

令和2年8月31日総務省令第82号は、改正後の省令の適用に関し特段の経過措置を定めていないから、訴えをもって法4条1項の発信者情報の開示請求をする場合、当該請求権の存否を判断する基準時(口頭弁論終結日)において、改正後の省令が施行されている場合には、改正後の省令の適用があると解すべきである。
被告は、改正後の省令をその施行前の投稿に遡って適用すると、投稿者が事後の省令の改正によって予期せぬ不利益を受けることになり妥当でないと主張する。しかし、発信者情報の開示は、権利を侵害されたとする者が損害賠償その他の権利を行使するために認められる手段にすぎず、発信者情報の開示それ自体が何らかの制裁を科すものではなく、その性質上、遡及適用が当然に禁止されるものではない。法4条1項は、開示の対象となる発信者情報の具体的内容に限り、臨機応変な改正を可能とすべく省令に委任するものであり、当該委任の範囲において、行為時に存しなかった省令が適用されるとしても、表現の自由に対する不当な制約になるとまではいえない。その他、被告の主張するところを踏まえても、前記結論は左右されず、口頭弁論終結時において既に改正後の省令が施行されている本件においては、同3号に定める「発信者の電話番号」について、開示請求の対象となると解するのが相当である。

東京地判令2・12・17(対ソフトバンク)

本件投稿記事Xは、本件改正省令施行前から本件訴訟係属中に至るまで継続的にインターネット上に公開されているため(甲8の1、弁論の全趣旨)、現時点での「総務省令」(法4条1項)である本件改正省令を適用して、発信者情報に電話番号まで含むと解するのが相当である。
この点、被告は、本件改正省令の遡及適用であり、適用は許されないと主張するが、上記のような本件投稿記事Xの公開の状況に照らせば、そもそも遡及適用とはいえないから、被告の主張は採用できない。

東京地判令2・12・24(対ソフトバンク)

(1)本件記事は,令和2年10月10日時点においてもインターネットで公開されている(甲13)。そして,本件記事がインターネットで公開されることによる原告の権利侵害は,日々発生するものであって,継続的不法行為といえる。したがって,改正後プロ責法省令が出された令和2年8月31日以降も本件記事による原告の権利侵害が継続して発生している以上,本件において,改正後プロ責法省令の遡及適用が問題になるわけではない。
なお,被告が指摘する裁判例(乙19)は,プロ責法の遡及適用を否定した事案であるが,同事案はプロ責法が施行された平成14年5月27日以前に問題とされた投稿が削除されていた事案であって,本件と事実関係を異にしている。
(2)また,被告は,改正後プロ責法省令が,コンテンツプロバイダを念頭に置いていることからコンテンツプロバイダではない被告には適用されないかのような主張をするが,改正後プロ責法省令では,コンテンツプロバイダか否かで適用に差を設けていない以上,被告の主張は採用できない。
(3)以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,本件においては改正後プロ責法省令の適用があると認めるのが相当である。


  • 2020/12/18 作成
  • 2020/12/24 更新