意見照会回答では
プロバイダから送られてくる意見照会回答の用紙は、自分が書いた場合と、家族が書いた場合とで、書式が違います。ただし、「家族が書いた」と主張しても、開示請求を免れるわけではありません。
省令1号、省令2号は「侵害情報の送信に係る者」の住所氏名を開示請求の対象としているので、契約者の住所氏名は開示される可能性があります。他方で、省令3号、省令4号の電話番号、メールアドレスは、条文上、発信者の情報に限定されているため(「侵害情報の送信に係る者」の情報は対象ではないため)、開示されません。
準備書面では
もしプロバイダからの準備書面に「発信者と契約者は異なる」と書かれていたときは、どうすると良いでしょう。これを信じるなら、訴えを変更または一部取下をして、住所氏名だけ開示せよ、とする方法が考えられます。裁判所からは、電話番号・メールアドレスの請求を取り下げなさいと示唆されます。
他方、プロバイダの書面を信用しないのであれば、「契約者は発信者だと推認される」と主張するのが良いでしょう。
裁判例
契約者を発信者だと認定または推認するもの
東京地判平29・12・15(平29ワ19058号,2017WLJPCA12158016)
被告が「本件各送信の契約者は,意見照会に対していずれも本件画像の投稿を明確に認めていない。この点,契約者と発信者が同一でないことは,契約者が不特定多数の第三者に同一のインターネット回線を利用させている,個人が契約者である場合に同居している者が発信者となるなど,一般に認められ得るところであって,当然に契約者が発信者であるとの推認が働くものではない。」と主張したのに対し,「IPアドレスを割り当てられた契約者が『当該権利の侵害に係る発信者』に当たるというべきである。」と認定している。
東京地判平29・11・30(平29ワ21046号,2017WLJPCA11309004)
「本件契約者は,被告とインターネット接続サービスに係る契約を締結しており,同契約に基づき,被告から本件IPアドレスを割り当てられた者であるから,そうであれば,特段の事情がない限り,本件アップロード行為を行った者は本件契約者であると推認されるものというべきであるところ,本件全証拠によっても,上記特段の事情を認めるに足りない。」として,契約者が発信者だと推認している。
東京地判平21・9・25(2009WLJPCA09258011)
「上記契約者以外の第三者が上記携帯電話端末を使用して本件各情報を発信した可能性をうかがわせる特段の事情が認められない以上,上記契約者が本件各情報の発信者であると推認すべきである。したがって,被告は,本件各情報の発信者情報を保有しているということができる。」として,契約者を発信者と推認している。
東京地判平18・6・23(判タ1222号207頁)
「本件契約者は,単に身に覚えがないと回答しているにすぎないことからすれば,被告によって特定された携帯電話端末を利用している本件契約者が本件発信者であると推認されるのであって,本件契約者が家族割引サービスの利用者であることは,上記の推認を覆すものではない。」として,契約者を発信者と推認している。
家族等による発信を否定するもの
東京地判平26・3・6(平25ワ29465号,2014WLJPCA03068018)
「被告ジェイコムは,本件B投稿は契約者の長男が投稿したものである旨の主張をするが,同主張を認めるに足る証拠はない。」として,契約者の家族が投稿したとの主張を排斥している。
東京地判平29・9・15(平29ワ13437号,2017WLJPCA09158020)
「侵害情報の送信にかかるIPアドレスの割り当てをうけた通信端末にかかる契約者は,侵害情報を流通させた発信者本人であるとの推定を受けるというべきである。よって,本件においては,本件契約者が,本件記事にかかる発信者本人であるとの推定を受けるものと認められる。」として,契約者が発信者だと推定した。
被告の主張した第三者の可能性などについては,「被告主張の事実をもって,上記推定を覆すには足りず,ほかに,当該推定を覆すに足りる的確な証拠も見当たらない。」として,推定を覆すに足りる証拠がないとして、第三者の投稿との主張を排斥した。
家族による発信でも契約者のメールアドレスの開示を認めるもの
東京地判平28・3・24(平27ワ34625号,2016WLJPCA03248039)
「本件各記事は同会員が投稿したものと推認することができ,この推認を覆す証拠はないし,仮に本件各記事の投稿が同会員の家族等による送信であったとしても,別紙1発信者情報目録記載の情報は,法4条1項にいう発信者情報に当たると解するのが相当である。」とし,発信者情報目録では「1 氏名又は名称」「2 住所」「3 電子メールアドレス」が指定された。
つまり,契約者が発信者であると推認したうえで,仮に家族が送信したものであっても,電子メールアドレスが開示対象となるとしている。
東京地判平25・9・30(平25ワ21492号,2013WLJPCA09308013)
「なお,携帯電話の契約者が使用者以外の家族であることはしばしば見られるから,発信者の特定のために,電子メールアドレスの開示も必要であると認められる。」として,契約者以外の者が発信者である可能性を踏まえ,電子メールアドレスを開示対象としている。
- 2021/06/16 作成