Googleの口コミとは?
グーグルの検索結果の右側に「Googleのクチコミ」と表示されている部分をクリックすると、その施設・企業・店舗などに関する口コミが表示されます。グーグルマップにも同じものが表示されており、「グーグルマップの口コミ」とも言われています。
グーグルアカウントがなければ口コミが書けないものの、グーグルアカウントは1人でいくつも作れるため、嫌がらせに利用されたり、営業妨害に使われるケースもあります。名誉毀損や経営者のプライバシー侵害となる口コミもあります。
グーグルの口コミの削除請求
グーグルの口コミの削除方法は、グーグルのヘルプ「クチコミの削除をリクエストする」(https://support.google.com/business/answer/4596773?hl=ja&co=GENIE.Platform=Desktop)にまとめられています。
Google 検索でクチコミを報告する
まず、グーグルの口コミは、ウェブフォーム(https://support.google.com/legal/contact/lr_legalother?product=geo&uraw=)から削除請求できます。
このフォームで要求されている「クチコミの旗マーク」は、標準では表示されていません。「★★★★★ ○か月前」と表示されている部分にマウスポインタを近づけると、右端に表示されます。
この旗マークにマウスポインタを合わせると、「違反コンテンツを報告」と表示されるので、この状態でクリックすると、「このクチコミの問題点」という画面が表示されます。
ここで「侮辱的または露骨な性的コンテンツ」を選択すると、すぐに報告完了になってしまい、違法性の理由などを記入できません。もし「侮辱的だ」と思っても、こちらは選ばずに、「法的問題」を選ぶのがよいでしょう。
報告ボタンをクリックすると、「Google からコンテンツを削除する」が表示されます。
ここで「法的な問題」を選択して「リクエストを作成」ボタンをクリックすると、「法律に基づく削除に関する問題を報告する」のフォームが表示されます。
このフォームで要求されている「旗マークのURL」とは、上の図1(cap.01)が表示されている状態でのURLです。
グーグルマイビジネスからの削除請求
また、「Googleマイビジネス」に登録していれば、Googleマイビジネスの管理画面、窓口からも削除請求ができます。
相談者の体験談を聞いている限りでは、Googleマイビジネスの窓口から削除請求したほうが、削除してもらえる可能性が格段に高いという印象です。それでも、オンラインフォームからの請求はグーグルの社内判断を求める手続のため、強制力はなく、削除してもらえないものは残ります。
グーグルマイビジネスから削除請求したいときは、まずアカウントでログインし、「クチコミ」をクリックします。右側にクチコミの一覧が表示されるので、削除請求対象のクチコミの右端にあるボタンから「不適切なクチコミとして報告」をクリックします。
そうすると、「このクチコミの問題点」という画面が表示されます。このあとの操作は上記の「Google 検索でクチコミを報告する」の流れと同じです。
そうすると、一般の人が削除請求するのと、グーグルマイビジネスから削除請求するのとで何も変わらないのでは?という疑問が生じます。
調べてみたところ、「このクチコミの問題点」のURLが、一般の人の場合(cap.01)と、グーグルマイビジネスの場合(cap.05)とで異なりました。そのためグーグルは、このURLで区別しているのではないかと想像されます。
削除仮処分での削除請求
オンラインフォームからの請求で削除してもらえなかったときは、裁判所の「削除仮処分」手続による削除請求という方法もあります。たいていのケースでは、「名誉権侵害(名誉毀損)」を理由として、削除請求することになります。
削除仮処分は、個人ならば住民票の住所、法人ならば本店所在地を管轄する地方裁判所に申立てをします。2022年7月に「外国会社」の登記がされたので、東京地裁に申立てることもできます。米国のGoole, LLCを呼び出して(日本の弁護士が代人になります)審理し、裁判官が削除相当だと考えた場合には削除決定(削除の命令)が出ます。
グーグル本社が命令に従わない場合の実効性という問題はありますが、現在のところ(2021/3)、グーグルが削除仮処分決定に従わなかったという話は聞いたことがありません。
決定が出てから1~2週間程度で削除されます。2021/03時点の情報によると、決定日から5日後に削除されたという情報もあります。
期間的には、まったくグーグル側が争わなければ、申立てから1か月程度で削除される計算になります。ただ、実際にはかなり法的に争ってきますので、もう数か月見ておく必要があります。
どんな理由なら削除が認められるか
令和に入ってから30件くらい仮処分をしましたが、グーグルのクチコミの削除仮処分・発信者情報開示請求では、認められるケースにも、認められないケースにも傾向があるように思いました。
認められなかった(取下・却下)ケース
- 社会的評価が低下しない
- 意見論評であり、前提事実(体験)が反真実だと疎明できていない
- 事実摘示だが、反真実の疎明が困難
認められたケース
- 意見論評だが、当該クチコミに該当する顧客が存在しない
- 事実摘示であり、反真実の疎明に成功
意見論評(たとえば、医療機関を受診した際の感想)だと判断されると、体験(たとえば、受診)が事実なら、削除できません。それがどんな不合理な感想でも、感想だと言われると、行き止まりです。
そのため、意見論評を削除するには、「体験」が事実ではないと疎明するしかありません。たとえば医療機関であれば、「こんな患者はいない」と主張し、疎明することにより、削除・開示が認容されます。
この手法は有効であり、意見論評でも、結構に認容決定が出ています。
地裁が削除を認めなかったとき
地方裁判所が削除仮処分の申立てを認めなかったときは、「却下決定」が出ます。この場合、申立人側では、高等裁判所へ異議申し立てするために、「即時抗告」という手続ができます。申立期間は14日以内です。
高等裁判所も認めなかった場合には、最高裁への異議申立の手続(特別抗告と許可抗告)も用意されていますが(こちらは5日以内)、憲法違反や判例違反がないと申立てできないため、事実上、高裁の即時抗告で終わると考えておくのが良いでしょう。
グーグルの口コミの発信者情報開示請求
誰が口コミを書いたのか特定したいときは、発信者情報開示請求という方法を使います。オンラインフォームからの請求方法はないため、こちらは裁判所の「発信者情報開示仮処分」か「発信者情報開示訴訟」「発信者情報開示命令申立て」のいずれかになります。また、米国裁判所でのディスカバリ制度も利用できます。
投稿者特定までの期間は、半年から1年くらいかかります。
発信者情報開示仮処分
最も利用されているのが、発信者情報開示仮処分の手続です。口コミの投稿に使用された「IPアドレス」を開示請求する方法です。請求相手は米国のグーグルLLCですが、グーグルは2022年7月に「外国会社」の登記をしたので、管轄は東京地裁、呼出しは渋谷区の住所になります。翻訳の必要もありません。
開示されるIPアドレスはログインIPアドレスなので、「投稿直前のログイン時IPアドレス」というように、目録に記載するよう指示されます。
以前は、グーグルは投稿に使用されたIPアドレス(POSTのIPアドレス)も記録していましたが、2019年から、ログインのIPアドレスしか保存しない運用になったようです。
開示決定からIPアドレス開示まで
2022年08月現在、開示決定の発令から、実際のIPアドレス開示までの期間が長くなっています。2か月程度かかるため、ログ保存期間3か月のプロバイダから書かれていた場合、投稿者特定は絶望的になります。
開示を早くしてもらうために、決定を受け取った直後に間接強制申立てをすると良いでしょう。グーグルは2022年7月に外国会社の登記をしたので、日本法人相手の申立てと同じスケジュール感で手続を進めることができます。
たとえば、決定日から8日後に間接強制申立てをして、代理人に「間接強制申立てをしました」と連絡したところ、その6日後に「本件は10日後に開示される予定」という連絡がありました。決定日から24日後の計算になるので、若干早くなるかもしれません。
グーグルからの通知
発信者情報開示仮処分の決定が出ると、グーグルから投稿者に対しては、メールで通知が送られます。差出人はusernotice@google.com、メールのタイトルはNotice from Googleとなっている英文です。
From: usernotice@google.com
Subject: [X-XXXXXXX] Notice from Google
Google has received a Court Order for the disclosure of information related to your Google account.
このメールには、異議申立をして申立書の写しをグーグルに送信するように、といったことが書かれていますが、日本のプロバイダ責任制限法には、そういった制度がありません。したがって、これは単に、仮処分決定が出たのでIPアドレスを開示します、くらいの意味だと考えてください。このあと、プロバイダから意見照会が来ると予想されます。
グーグルからの開示メール
他方、債権者に対しては、メールで開示結果が送られます。差出人はinternationalcivil@google.com、メールのタイトルはRequest to Googleまたは、RE: [xxxxxxx] Your request for data from Googleとななっている英文です。
どのメールアドレスあてに送られるのかは、どうやらグーグル代理人がグーグル本社に伝えているようなので、「このアドレスに送って欲しい」と予めグーグル代理人に連絡しておくのがよいでしょう。
開示情報は、添付ファイルに記載されています。添付ファイルは、テキストファイルまたはHTMLファイルです。
ファイル名は、(GAIA ID、または、アカウント名).AccountInfo.txt の形式になっています(GAIA IDについては後述)。そのため、一度に複数のアカウントについてIPアドレスの開示請求をしている場合には、ファイル名のGAIA IDの部分で、どのアカウントについての開示結果なのかを判断できます。
Time | ログイン日時(UTC)日本の接続プロバイダに請求する際には、UTCであることを明示する必要があります。 |
IP Address | ログイン時IPアドレスです。WHOISなどで接続プロバイダを調べます。 |
Type | 開示されるのはログイン時IPアドレスのため、この列の記載は「Login」です。 |
接続先IPアドレスは多数あり特定できない?
ところで、仮にグーグルに対するIPアドレス開示仮処分決定が発令されても、次に「接続先IPアドレス」の問題が待ち構えています。KDDI、ソフトバンク、UQなどは、通信の特定のために接続先IPアドレスを要求してきますが(固定回線や、IPアドレスVer.6の場合は要求されないケースもあります)、グーグルのログインIPアドレスは、accounts.google.comに接続したIPアドレスです。そして、正引きすると分かりますが、accounts.google.comに対応するIPアドレスは多数あります。そして近時(2020/05以降)ソフトバンクは、接続先IPアドレスをサイト管理者から開示してもらわない限りログを調査しないと言い出しています。したがって、接続先IPアドレスをプロバイダから要求されたときは、事実上、特定不能になる可能性があります。
最近(2021)では、グーグルからIPアドレスVer.6のIPアドレスが開示される機会が増え、ソフトバンク等であっても、接続先IPアドレスが不要なケースも増えています。
発信者情報開示請求訴訟・開示命令申立て
グーグルはグーグルアカウントの情報しか持っていませんので、「仮処分」ではなく「訴訟」または「開示命令申立て」をしても、開示できる情報は「メールアドレス」と「電話番号」に限られます。メールアドレスには、アカウントのログインに使われるものと、リカバリ用のメールアドレスとがあります。
もちろん、グーグルアカウントに携帯電話番号が登録されていなければ、開示されません。
グーグルは米国法人ですが、2022年7月に「外国会社」の登記をしたため、日本法人と同じ感じで訴訟手続を進めることができます。
グーグルのクチコミの閲覧用URL
グーグルのクチコミについて削除仮処分、IPアドレス開示仮処分をする際には、投稿記事目録に「閲覧用URL」を記載する必要があります。通常、以下のような形式になっています。
(説明の便宜のため「https://」は、消してあります。以下同じ。)
(注:以下、説明のため特定のクチコミのスクショを利用していますが、このクチコミが請求対象になるという意味ではありません)
www.google.com/maps/contrib/(会員の番号)/place/(事業所を表す文字列)/ |
この会員の番号のことを、グーグルでは「GAIA ID」(Google Accounts and ID Administration ID)と呼んでいるようです。Google GAIA IDという表記と、Obfuscated Gaia IDという表記も見かけました。このGAIA IDに一定の処理をすると、Google Account IDという名前のIDに変わるようです。そのため、特に会員情報の開示請求では、このGAIA IDが分かるようにしておかないといけないのだろうと思います。
閲覧用URLの調べ方
(クリックすると大きくなります)
まず、グーグルで事業所を検索し、右側に表示されるナレッジパネルから「Googleのクチコミ」と書かれている部分をクリックします。
左の画面で、クチコミを書いた人の「名前」の部分をクリックします。
この例では、「日比谷公園」を検索しており、この状態のURLは、以下のようになっています。
www.google.com/search?q=日比谷公園&oq=日比谷公園&aqs=chrome..69i57j0l5j0i131i433j0l3.2238j0j9&sourceid=chrome&ie=UTF-8#lrd=0x60188bf23857acc7:0x709c7696a9fafab4,1,,,
このURLは、グーグルの検索結果のURLであり、個別のクチコミのURLではありません。少なくとも、これを訴状や申立書に閲覧用URLとして記載しないようにしましょう。
投稿者URL
(クリックすると大きくなります)
名前をクリックすると、その人の書いたクチコミだけが表示されます。最初は「写真」タブが表示されるので、「クチコミ」タブをクリックしてから、請求対象の場所の名前をクリックします。
この状態では、URLは以下のようになっています。
www.google.com/maps/contrib/100539062550556740018/reviews/@35.5267754,139.5699685,11z/data=!3m1!4b1!4m3!8m2!3m1!1e1?hl=ja-JP
このURLから、@以下の緯度と経度等の情報をカットすると、グーグルが「投稿者URL」として指定するURLになります。
www.google.com/maps/contrib/100539062550556740018/reviews/
クチコミ固有の閲覧用URL
請求対象の場所の名前をクリックすると、クチコミ固有の閲覧用URLに変わります。
この状態では、URLは以下のようになっています。
www.google.com/maps/contrib/100539062550556740018/place/ChIJx6xXOPKLGGARtPr6qZZ2nHA/@35.6736115,139.6158012,11z/data=!4m6!1m5!8m4!1e1!2s100539062550556740018!3m1!1e1?hl=ja-JP
このURLから、@以下の緯度と経度等の情報をカットすると、クチコミ固有の閲覧用URLになります。
www.google.com/maps/contrib/100539062550556740018/place/ChIJx6xXOPKLGGARtPr6qZZ2nHA/
緯度と経度があると困る理由
URLに緯度と経度等の情報があると、現在表示した際のURLと、目録のURLが一致しない事態が生じます。そうすると、せっかく削除決定が出たのに強制執行できなかったり(執行不能)、別の訴訟でURLの証拠を出す際に、決定書の目録と一致しない事態となりかねず、困ることが予想されます。
やってみると分かりますが、@以下の部分(緯度と経度など)をカットして入力すると、リダイレクト機能により、自動的に@以下が付きます。そのため、@以下はあってもなくても、同じ情報が表示されます。
投稿記事目録
上記の例では、投稿記事目録は以下のようになります。
閲覧用URL | https://www.google.com/maps/contrib/100539062550556740018/place/ChIJx6xXOPKLGGARtPr6qZZ2nHA/ |
投稿者URL | https://www.google.com/maps/contrib/100539062550556740018/reviews/ |
投稿者名 | |
投稿内容 |
米国のディスカバリ制度
携帯電話番号を、より短期間で調べる方法としては、米国裁判所のディスカバリ制度を使う方法があります。早ければ、申立ての翌日に裁判所の決定(grant)が出るケースもあります。グーグルは、裁判所の決定が送られたあと、必要な手続をして、1か月程度でグーグルアカウントの情報を開示してくれます。
開示される情報としては、二段階認証の携帯電話番号、リカバリ用のメールアドレス(プロバイダメールなど)、Gメールアドレスのほか、アカウント作成時のIPアドレス、最終ログインのIPアドレスなどがありました。
そのため、このIPアドレスをもとに、経由プロバイダに対して発信者情報開示請求訴訟をすることも可能です。
One Star Assassin(星1つの暗殺者)
海外で、「★1つ」を付けるだけの暗殺者に関する研究があると、情報ネットワーク法学会の発表で知りました。たしかに、グーグルの口コミでは、「★1つ」を付けるだけで、対象の企業を抹殺できる可能性があると思うと、うまい表現だと思いました。
では、One Star Assassinに対しては、どのような反撃が可能でしょうか。まず、日本の名誉毀損法理では、「★1つ」であっても、対象者の社会的評価は低下させるので、名誉毀損にはなり得ます。
しかし、通常、「★1つ」は何らかの前提事実に基づく意見論評だと考えられるところ、何も口コミが書いてないと、前提事実の反真実性は立証できません。そのため、日本の裁判所の手続は、削除・発信者情報開示請求は難しいということになります。
ただし、米国のディスカバリ制度を使って、投稿者を特定できた事例はありますので、当該投稿者に対し、口コミを削除して欲しいと依頼するなどして、削除の目的を達成できる可能性はあります。
- 2015/4/12 作成
- 2020/09/26 更新
- 2021/03/10 3/17 3/19 3/24更新
- 2021/04/05 更新
- 2021/10/22 更新(開示の遅れ)
- 2021/11/13 更新(開示の遅れ解消か?、GAIA IDについて)
- 2022/08/21 更新(外国会社の登記を踏まえ)
- 2023/03/06 少しだけ開示命令申立てを追記