ヤフーに初の検索結果削除命令

2015.12.08

ヤフーに対する検索結果の削除仮処分

東京地裁は平成27年12月1日,ヤフーに対して検索結果の削除仮処分決定を発令した。ヤフーの担当者は,「結果の削除は,表現の自由や知る権利を守る観点から慎重さが必要だ。正式な裁判で争うことも視野に対応を検討する」と話した。削除仮処分命令申立の代理人弁護士は「意義のある決定だ」とした。
(日経,産経,東京新聞,等)

意義

平成26年10月9日以降,グーグルに対する検索結果の削除仮処分命令はいくつか報じられてきましたが,ヤフーに対するものはありませんでした。ヤフーは平成27年3月30日,自身のサイトで「いずれの訴訟においても裁判所からYahoo! JAPANが情報の非表示措置を命じられたことはありません。」と公表していました(http://publicpolicy.yahoo.co.jp/2015/03/3016.html)。
そのため,今回の決定は,「ヤフーとて例外ではない」ということを示した点において,意義があると思います。

裁判所が検索結果の削除義務を認めた理由

以下,少々長いのですが,裁判所がヤフーに対し,検索結果の削除義務を認めた部分の理由を引用します。

イ 以上に対し,債務者は,本件サイトのごときインターネット検索サービスにおいては,「検索エンジンの中立性」,すなわち,人為的な介入なく(恣意的な取捨選択がなされることなく)検索結果が表示され,特定の個人にとって好ましい情報であるか否かにかかわらず,情報を等しく検索できることに重要な意義があるから,検索サイト運営者が削除義務を負うのは極めて限定的な場面に限られる旨主張し,なるほど,今日においては,インターネット上で情報を幅広く検索できるインターネット検索サービスの利用は,インターネットを効率的に利用する上できわめて重要な役割を果たしていることは公知の事実である。
 しかし,本件検索結果中,主文第1項に列挙したものは,タイトル及びスニペットそれ自体から債権者の人格権を侵害していることが明らかであるところ,このように検索結果の個々のタイトル及びスニペットの記載自体を根拠として検索結果について債務者に削除義務を課したとしても債務者に不当な不利益となるとはいえないし,また,他者の人格権を害していることが明白な記載を含むウェブサイトを検索できることが本件サイトを利用する者の正当な利益ともいい難い。加えて,債務者が主張するところの「検索エンジンの中立性」を維持することがインターネット検索サービスにとって重要であることは理解できるものの,かかる「検索エンジンの中立性」は,検索結果として表示されたタイトル及びスニベット自体の記載が,単に他者にとって「好ましくない」という域を超えて,他者の人格権を侵害するごとき記載である場合にまで,維持されなければならないものなのか(換言すれば,「検索エンジンの中立性」は,他者が人格権により保護される範囲を縮小してでも維持されなければならないのか),疑問がある。よって,債務者の上記主張は採用できない。
ウ また,債務者は,検索サービスによる検索結果の削除により,インターネットのユーザーはたどり着きたい情報にたどり着けず,ウェブサイト作成者もウェブサイトを多くの人に見てもらう機会を失うなど,これらの者の表現の自由が制約されるから,検索結果は容易に削除されるべきではない旨主張する。しかし,インターネットのユーザーが他者の人格権を害していることが明白な記載を含むウェブサイトを検索できることやウェブサイト作成者がかかる記載を含むウェブサイトに閲覧の機会を与えられることが,これらの者の正当な利益とはいい難いから,上記債務者の主張は採用できない。
エ さらに,債務者は,本件サイトの検索結果のリンク先のウェブサイトの管理者に削除を求めれば権利救済として足りるから,債務者には本件サイトの検索結果についての削除義務は原則として認められない旨主張する。しかし,人格権に基づく差止請求権は,故意過失等の主観的要件は不要であり,客観的にプライパシーが違法に侵害されていることによって成立するのであるから,個々のタイトル及びスニペットそれ自体から債権者の人格権を侵害していることが客観的に認められる検索結果について,検索サイトを管理する債務者に削除義務が発生するのは当然であり,債務者の上記主張は,これに反する限りにおいて採用できない。

「正式な裁判で争う」とは

ヤフーは「正式な裁判で争う」とコメントしています。これは,おそらく「起訴命令」の申立てを指していると考えられます。仮処分決定で終わりにするのではなく,検索結果削除訴訟で戦う,ということでしょう。
私が代理している事件では,グーグルからは削除仮処分後,起訴命令を3件受け,現在,削除訴訟が係属中です。ヤフーも今後,同様の手続を取るものと予想されます。


 

2016/02/05 本日現在,起訴命令の申立てはありません。