2020年8月31日の省令改正(電話番号の追加)

2020.08.31

省令改正

2020/8/31、プロバイダ責任制限法の総務省令(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令)が改正され、3号に「発信者の電話番号」が追加されました。
これにより、従前の3号(メールアドレス)以下7号(タイムスタンプ)までが1号ずつスライドし、4号から8号までに変更になりました。

改正によりできるようになったこと

この改正により、サイト管理者または経由プロバイダに対する発信者情報開示請求において、「発信者の電話番号」を請求できるようになりました。

総務省の検討段階では、「二段階認証に利用された携帯電話番号」との限定も議論されていたようですが、そのような限定はなく、固定電話の番号や、SMS機能のない携帯電話の番号も開示対象になります。

開示された電話番号については、電話会社、携帯電話会社への弁護士会23条照会により、契約者の住所氏名を調べることができると、総務省の資料では説明されています。

もっとも従前、弁護士会23条照会には「個人情報」等を理由に回答拒否する電話会社もあったため、今後の運用がどうなるのか、注視する必要があります。

発信者情報開示請求は早くなるのか

結論としては「早くならない」でしょう。

携帯電話番号はIPアドレスと異なり、「早く開示しないと記録が消えてしまう」という性質の情報ではありません。そのため、「保全の必要」がなく、サイト管理者から仮処分で携帯電話番号を聞き出すことができません。訴訟手続が必要です。

そうすると、サイト管理者から携帯電話番号を聞き出すだけで3~6か月程度の期間を要してしまい、これまでと変わりません。海外法人相手の訴訟なら、1年程度かかります。

サイト管理者(Twitterなど)が仮処分も訴訟もせずに携帯電話番号を開示してくれるのなら良いのですが、従前の対応を見る限り、そのような扱いにはならないことでしょう。

他方、経由プロバイダから携帯電話番号を聞き出すには、従前と同じく訴訟手続が必要となるため、開示までの期間は変わりません。

メリットは何か

そうすると、今回の改正のメリットは何でしょうか。

まず、IPアドレスから投稿者を辿れなかった場合の救済措置として利用できます。従前、IPアドレスから投稿者を辿ろうとしても、ログ保存期間の壁があったり、接続先IPアドレスの壁があったり、ネットカフェ、空港のラウンジ、ホテルからの投稿といった問題があったりして、うまくいかないケースがありました。その点、サイト管理者から電話番号を聞き出すことができれば、ダイレクトに投稿者へ辿り着くことができます。

次に、過去にうまくいかなかった発信者情報開示請求のリカバリとしても利用できます。過去に上記のような問題があって投稿者に辿り着かなかったケースでは、再度「電話番号」の開示請求ができます。

もちろん、サイト管理者が判決なしに電話番号を開示してくれるのなら、開示手続が早くなるというメリットはあります。

利用するとしたら

上記のメリットを考えるならば、サイト管理者に対しては、①IPアドレスの開示仮処分と②電話番号の開示訴訟を併行して実施し、電話番号の開示訴訟中に③経由プロバイダへの開示訴訟(IPアドレスから判明したプロバイダ)をあわせて実施し、投稿者へのルートを2本確保する、という使い方になります。

結論

現時点では、省令改正によるメリットは限定的と思われますが、これから活用方法を考えてみたいと思います。