発チの申立書テンプレを育てる(異議の訴え)

2023.01.17

 このプロジェクトも、そろそろ終盤。申立書のテンプレはひととおり作った気がするし、今のところ大きな問題もないと思う。
 そこで、おそらく最後のテーマは「異議訴訟」のテンプレ。

請求の趣旨(請求者側)

 発信者情報開示命令申立で、申立人の請求が認められず却下となったとき、異議の訴え(14条1項)を提起するのは申立人。では、請求の趣旨はどんな内容になるのだろう?

 14条3項によると、異議の訴えでは、「決定を認可し、変更し、又は取り消す」となっている。ということは、控訴の趣旨と同じく請求の趣旨第1項は「~を取り消す」との判決を求めることになるはず。

 もっとも、控訴の趣旨、抗告の趣旨のように「原判決を取り消す」「原決定を取り消す」とは書けないので、保全異議のように「東京地方裁判所令和●年(発チ)第●号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和●年●月●日にした決定を取り消す。」という書き方になるのだろう。

 そして、取り消したうえで発信者情報開示請求を認めてもらう必要があるので、請求の趣旨には「被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ」が必要となるはず。

まとめると。

1  東京地方裁判所令和●年(発チ)第●号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和●年●月●日にした決定を取り消す。
2  被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
3  訴訟費用は被告の負担とする。

プロバイダの答弁書

 これに対するプロバイダの答弁書はどうなるのか? 「認可する」との裁判を求める、でよいのだろうか?(14Ⅲ) 非訟で却下されたのを「認可」するという事態がありうるのか。裁判例を検索してみたが、どうもうまくヒットしない。
 某サイトの答弁書には「棄却する」との裁判を求める、と書かれていたので、第1回期日で裁判官に聞いてみた。要旨「却下を認可するのではなく、非訟での判断を認可するということなら、認可するでも良いのではないか」ということだった。(調べたけれど、ソースがこの記事しかないのでw、よく分からないとも言っていたが)

請求の趣旨(プロバイダ側)

 次に、申立人の請求が認められて認容となったとき、異議の訴えを提起するのは相手方(プロバイダ)。では、請求の趣旨はどうなるのだろう?

 認容決定を取り消さないと話が進まないので、請求者側の請求の趣旨と同じく、1項は「東京地方裁判所令和●年(発チ)第●号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和●年●月●日にした決定を取り消す。」で良いと思う。

 認容決定を取り消しても、それだけでは発チの申立てが宙ぶらりんになる。プロバイダとしては、開示義務がないことを明示してもらう必要があるのだけれど、「開示義務がないことを確認する」などと確認訴訟みたいなことを書くのはおかしい。

 やはり、保全異議と同じように考え、「被告の上記発信者情報開示命令の申立てを却下する。」と書くのが素直だろう。問題は、訴訟で非訟の申立てを却下できるのか?というところだが、却下しないと決定がなくなるだけであり、非訟の手続きが復活するような状態になって、やっぱりおかしい(なお、某プロバイダの訴状は「取り消す」だけだった)

まとめると。

1 東京地方裁判所令和●年(発チ)第●号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和●年●月●日にした決定を取り消す。
2 被告の上記発信者情報開示命令の申立てを却下する。
3 訴訟費用は被告の負担とする

(追記:2023/04/19)とある知財部さんは「正解は複数あると思うが、本件では『却下する』を付けるように」とプロバイダに指示していた。

答弁書(プロバイダに異議の訴えをされた申立人)

 督促異議や保全異議と同じだとは思うが、答弁書だからと言って棄却を求めてはいけないはず。条文が「認可し、変更し、又は取り消す」(14条3項)だから、答弁書では「認可する」との判決を求めないといけないと思う。

1 東京地方裁判所令和●年(発チ)第●号発信者情報開示命令申立事件について、同裁判所が令和●年●月●日にした決定を認可する。
2 訴訟費用は原告の負担とする

事件名はなにか?

 条文に事件名の指定はないので適当でも良いのかもしれないが、少なくとも「異議の訴え」(14条1項)であることは分かったほうが良いと思う。そうすると「何に対する」異議の訴えなのかも示した方が良いだろう。

 まず判例データベースで「異議」の事件名を調べると、「執行文付与に対する異議事件」(最判令和元年8月9日)、「役員責任査定決定に対する異議の訴え事件」(最判平成28年2月25日)といった表現があるので、「~決定に対する異議」は入れた方がよいと判断した。

 そして、保全異議や保全抗告の事件名を参考にすると、「発信者情報開示命令申立」の「却下決定」「に対する異議」という長い名前となるようだ。

 問題は、「異議の訴え事件」なのか「異議事件」なのか。たとえば「執行文付与に対する異議」のケースでは、「執行文付与に対する異議事件」のほうが「執行文付与に対する異議の訴え事件」より圧倒的に多かった。

 ということで

発信者情報開示命令申立て却下決定に対する異議事件

と書いて訴え提起したのだが! 裁判所に直された。

発信者情報開示命令申立て却下決定に対する異議の訴え

「の」をそこに入れるのは良い。

 だがしかし、最後に「事件」が付いてないではないか。これは「異議事件」のほうがいいんじゃないかな? と、現時点では思っている。なぜなら、控訴すると「申立て却下決定に対する異議の訴え控訴事件」になるはずだから。「事件」がないと「申立て却下決定に対する異議の訴え控訴」になってしまう。

2023/02/10追記。またしても、「発信者情報開示命令の申立て却下決定に対する異議の訴え」に変更された。裁判所としては、この表記でいくつもりかもしれない。

 あ、自分では使い道ないような気がするが、プロバイダ側で異議の訴えをする場合の事件名も書いておく。

発信者情報開示命令の申立て認容決定に対する異議事件

テンプレ保管庫はこちら。


  • 2023/01/17 初校
  • 2023/02/10 追記
  • 2023/03/01 追記