発チの運用を考える(JCOM)

2023.03.03

テンプレ作り込みネタではないので、タイトルを変えてみました。

設問

テレサ書式でJCOMに発信者情報開示請求したところ、同社より「プロバイダはJCOM九州。ただし開示訴訟は東京地裁に提起して下さい」と通知が来た。発チを東京地裁で申し立てできるか。

検討

合意管轄となる?

まず、東京地裁での合意管轄(10Ⅳ)を主張できるだろうか。管轄合意は書面でする必要があるところ(10Ⅳ→9Ⅲ)、設問の通知は「東京地裁に提起して下さい」と書いた書面にすぎず、管轄合意書とはいえない。しかも、これはJCOMからの通知であってJCOM九州からの通知ではない。

そうすると、あらためでJCOM九州社長のハンコをもらうのか? それが条文通りだろうけれど、実務上は現実的ではない。

応訴管轄はどうだろう?

では、応訴管轄はどうだろうかと条文を見たものの、プロ責法にも非訟事件手続法にも、それらしいものがなかった。

移送はどうか

非訟事件手続法10条は民訴法の移送の規定を準用しているから、いったんJCOM九州の管轄(大阪地裁:プロ責10Ⅲ②)に発チの申立てをして、相手方の同意による移送の申立をしたらどうなるか(民訴19Ⅰ)? と思ったのだが、非訟事件手続法10条は民訴19条を準用していない。

仕方ないから大阪地裁か?

どのみち発チはTeamsだし、大阪地裁へ行く必要もないのだから、腹を決めて大阪地裁に申立てをしてもいいのではないか、と思うだろうか。問題は「異議の訴え」なのだ。異議の訴えは発チの管轄と同じになる(プロ責14Ⅱ)。異議の訴えは全期日Teamsというわけにはいかない。少なくとも2回、いや1回は行く必要がある。控訴するようなことになれば、さらに1回。

異議訴訟で合意管轄・移送はどうだろう?

ならば、異議の訴えが提起されたときに(または提起したときに)、合意管轄、応訴管轄、同意による移送は使えないだろうか。

しかし、異議の訴えの管轄は「専属管轄」だった(プロ責14Ⅱ)。専属管轄では、合意管轄、応訴管轄の適用が除外されている(民訴13Ⅰ)。移送もしかり(民訴20Ⅰ)。専属管轄では同意による移送の適用は除外されている。

解答例

ということで、もう大阪地裁でやるしかないのか?。

東京地裁で発チを申立てる方法はある。
【以下、解答例】

JCOM(本社は東京)に発チを申立て、提供命令(2号限定型)でJCOM九州へつなげばよい。提供命令でつないだ発チは、もとの発チと同じ管轄になる(プロ責10Ⅶ)。

もっとも、ここでも2号限定型の呪縛がある。条文(発チ管轄の10条7項)は「第十五条第一項(第一号に係る部分に限る。)の規定による命令により同号イに規定する他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた者の申立てに係る第一号に掲げる事件」となっており、15条1項1号で開示されたJCOM九州でないと、この管轄の規定が適用されないように読める。
これもまた法の不備ということで、2号限定型を認めた東京地裁民事9部なら、東京地裁の管轄を認めてくれるだろう。

2号限定型のこと

2号限定型提供命令(15条1項2号)についてはこちら。

後日談

どうやら、ジェイコム九州の社長のハンコを押してくれるらしい。
社内決裁を取って社長の管轄合意のハンコをもらうのと、2号限定型提供命令が発令されるのと、どちらが早いのか、試してみることに。

発令された

社長のハンコをもらうより、たぶん早かったと思う。2号限定型提供命令が活躍してます。


  • 2023/03/03 作成
  • 2023/03/07 追記
  • 2023/03/08 追記
  • 2023/03/15 追記