発チの申立書テンプレを使う(雑談たぬき)

2023.12.30

発チの申立書テンプレをたくさん作ったので、「申立書テンプレを使う」シリーズの記事を書きます。第7回は、非ログイン型で、提供命令を使うサイトとして、雑談たぬきを取り上げます。サイトから接続プロバイダまでの一連の流れを1記事にまとめました。

請求相手は誰か

 2ch2.netドメインを使っている掲示板(雑談たぬき、v系たぬき、V系ヲタヌ)に対する削除請求、発信者情報開示請求では、そもそも「誰に」請求するか?を調査せねばなりません。運営者の名前(この記事では、仮に「Y氏」としておきます。)くらいはネットで探せば分かりますが、法改正前から、Y氏の「住所」は弁護士でも調査が困難でした。
 法改正後、同サイトには専用のお問い合わせフォーム(contact.2ch2.net)ができたため、請求相手の調査が容易になっています。「送付先のお問い合わせ」から、請求相手の住所氏名を問い合わせてください。ただし、回答先は弁護士に限定しているそうなので、本人訴訟の人は、何か違う方法でY氏の住所を調べる必要があります(たとえば、クラウドフレアに対する開示命令申立てなど?)。

送付先の問い合わせ

IPアドレス開示請求の方法は何か

 雑談たぬきに対するIPアドレス開示請求の方法としては、①IPアドレス開示仮処分、②IPアドレスの開示命令申立(提供命令申立てなし)、③IPアドレスの開示命令申立て+提供命令申立て、の3つが考えられます。
 もっとも、Y氏(&代理人)の意向により、選択肢は③だけです。①IPアドレス開示仮処分を利用した場合は、開示決定に対し保全異議、②提供命令のないIPアドレス開示命令申立てをした場合は、開示決定に対し異議の訴えをする方針とのことです。IPアドレスは足が速いので、早期に開示を受け、すぐ接続プロバイダに対し開示命令の申立てをしないと、接続プロバイダのログ保存期間がすぎてしまい、投稿者を特定できなくなります。そのため、保全異議・保全抗告や異議の訴えをされると、時間的に間に合わず、投稿者は特定できなくなります(平成20年代に、ヤフーによく保全異議・保全抗告をされ、投稿者特定ができなくなった記憶があります)。

 雑談たぬきは非ログイン型なので(投稿時IPアドレスを開示できるので)、Y氏に対する開示請求で使うのは、以下の申立書テンプレです。

番号タイトルWord/PDF
書式17-7 発信者情報開示+提供命令申立書(サイト用、非ログイン型IP、IP専用)
※投稿時IPアドレスを開示できるサイト

削除請求はどうするのか

 Y氏代理人によると、接続プロバイダに対する開示命令が発令された場合には、任意で当該投稿を削除しているそうです。
 投稿者特定までは必要ない(または時期的に間に合わない)場合には、IP開示命令申立てはしないので、削除仮処分によるほかないのでしょう。使う申立書テンプレは以下です。

番号タイトルWord/PDF
書式5-1 投稿記事削除仮処分命令申立書(サイト管理者用)

申立書作成

 申立書テンプレは、「●」に文字を埋めるだけで申立書が完成する作りになっています。最近作っているテンプレでは、申立日付はWordの「日付選択コンテンツコントロール」、裁判所の宛先については「コンボボックスコンテンツコントロール」でお手軽入力できるようにしてあります。
 Y氏の住所が千葉なので、管轄は千葉地裁の某支部(法10条1項1号)か東京地裁本庁ですが(法10条3項)、Y氏代理人は東京地裁本庁でお願い、と言っています。

日付選択コンテンツコントロール
コンボボックスコンテンツコントロール

 発信者情報目録は、申立書テンプレでは以下の内容になっています。

 別紙投稿記事目録記載の投稿記事が投稿された際の下記情報
1 投稿者の使用したIPアドレス及び当該IPアドレスと組み合わされたソースポート番号。
2 前項のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備から相手方の用いる特定電気通信設備に前項の投稿記事が送信された年月日及び時刻。

 もっとも、法改正前にY氏から開示されていた情報を見る限りでは、ソースポート番号は開示できないのかもしれません。ただ、Y氏に対する申立ては、後述のとおり後日取下げるので、この発信者情報目録にしたがって開示決定が発令されることは原則としてありません。そのため、ソースポート番号の記載があっても事実上問題となりません。

甲号証

甲●:(画面)
 投稿のスクショまたは印刷物を想定しています。「甲1」とでもしてください。投稿のURLも写るように(印刷されるように)注意して下さい。

甲●:(問い合わせへの回答メール)
 開示関係役務提供者性の証拠は、上記「送付先のお問い合わせ」に対する回答メールが良いでしょう。「甲2」とでもしてください。WHOISは使いません。

甲●(権利侵害の明白性)
 投稿内容が違法であることを裏付ける証拠です。甲3とでもしてください。複数あるときは、私は甲3の1、甲3の2、などとしています。

甲●:ログ保存期間
 ログ保存期間が3~6か月程度であることを示す文献のコピーを想定しています。当サイトのログ保存期間の記事を疎明資料にしている弁護士も多いようです。
 拙著の「付録3」のコピーでも構いません。「甲4」とでもしてください。

証拠説明書

 東京地裁9部では証拠説明書は必須です。証拠説明書がどんなものか分からない人は、裁判所のサンプルを真似してください。

 表の部分は、以下の内容くらい簡単でも良いでしょう。

号証標目原・写作成年月日作成者立証趣旨
甲1●(スレッドタイトル)氏名不詳者本件投稿の内容、URL
甲2Re:【送付先の問い合わせ】●法律事務所相手方相手方が本件サイトの管理者である事実。開示関係役務提供者性。
甲3陳述書2023/●/●申立人摘示事実の反真実性、同定可能性
甲4付録32023/9/13神田知宏接続プロバイダのログ保存期間

送付・送達遅らせ上申

 Y氏は自宅宛に裁判所からの書類を郵送してほしくないようで、書類の受領はY氏代理人に一任しています。そのため、申立書の写しの送付(法11条1項)、提供命令の決定正本の送達がY氏代理人あてになるよう、送付・送達の遅らせ上申書を提出しておきます。
 後記のとおり、事件番号をお問い合わせフォーム(contact.2ch2.net)から通知すると、裁判所に対し、Y氏(の代理人)から委任状が提出され、その後、同人へ申立書の副本が送付され、さらに提供命令の決定正本が送達されます。

番号タイトルWord/PDF
書式12-6tanuki 送付・送達上申書
※たぬき用、送付・送達遅らせ上申

提出方法

本人訴訟の人であれば、申立書2通、証拠説明書1通、甲1~甲4を各1通、印紙2000円(開示命令の分と提供命令の分、各1000円の合計)、を東京地裁民事第9部に郵送してくください。あとレターパックが要ります(裁判所に電話で聞いて下さい)。

住所〒100-8920
東京都千代田区霞が関1-1-4
東京地方裁判所(民事第9部)
電話番号発令係
03-3581-3402
03-3581-3404
03-3581-3406
FAX番号03-3595-2259

提供命令申立

 提供命令の申立ては、本案の発信者情報開示命令申立書と分けることもできますが、2通出すより1通でまとめて出したほうが楽なので、申立書テンプレ群も、基本的に提供命令申立は、開示命令申立書の中に書いています。
 そのため、書式28-1(サイト用、提供命令、非ログイン型)は基本的に使いません。

申立後にすること(事件番号の通知)

 裁判所に申立書一式を提出すると、数日のうちに裁判所から「事件番号」のお知らせが来ます。開示命令申立ては「令和●年(発チ)第●号」の形式、提供命令申立ては「令和●年(モ)第●号」の形式になっています。提供命令(モ)の事件番号は、東京地裁民事9部は6万番台の数字です。その後、他のサイトに対する事件と同じく、申立てから1週間程度で提供命令発令のお知らせ・目録類提出の指示があります。
 通常の事件であれば、このあと裁判所からサイト管理者に対し、申立書副本の送付と、提供命令決定正本の送達があります。しかし雑談たぬきの場合、上記のとおり、送付・送達の遅らせ上申を出していますので、Y氏へは送付・送達されません。

 そこで申立人は、お問い合わせフォームの3(【1.申立申請】)で、「発チ」の事件番号、「モ」の事件番号、対象のURLと投稿番号を入力し、Y氏へ通知します。


 これにより、Y氏代理人の委任状が裁判所へ提出され、申立書の副本がY氏代理人へ送付されます。

 事件番号の通知のタイミングは、提供命令の発令後でもよいのですが、手続の進行を早めるため、事件番号が決まった直後が良いでしょう。

提供命令発令後にすること(提供命令の送信)

 提供命令の発令後は、お問い合わせフォームの5(【2.申立人にAP名の提供申請】)で提供命令の決定正本PDFを送信します。
 提供命令の決定正本は、裁判所からもY氏代理人へ送達されますが、電子処理を容易にするため、上記フォームへの入力が求められています。

提供命令の履行

 提供命令の決定正本PDFが受領されると、「提供情報」と題するPDFが数日のうちにメールで送られてきます。こちらに、接続プロバイダの氏名等情報(法15条1項1号)が記載されています。

 これが届いたら、次は接続プロバイダに対する開示命令申立てです。

注意事項

【2】開示命令を申し立てたアクセスプロバイダに情報を送付するためのレターパックを各プロバイダ分(アクセスプロバイダの宛名及び住所が記載されたもの)ご準備いただき、全て当事務所に送付してください。

 提供命令の履行メールでは、このような注意書きがあります。Y氏から接続プロバイダへ、IPアドレス等の情報を提供するため、とのことです。

接続プロバイダに対する開示命令申立

 使用する申立書テンプレは、「接続プロバイダ用」で「先行する提供命令あり」(Y氏に対する提供命令がある)、「非ログイン型IPアドレス」(雑談たぬきの投稿は非ログイン型)の3条件を満たすものということで、書式19-1です。

番号タイトルword/PDF
書式19-1 発信者情報開示命令申立書(接続プロバイダ用、先行する提供命令あり、非ログイン型IP)

基本的に、「●」を埋めるだけで申立書ができあがるはずです。

接続プロバイダを複数書けるか?

 Y氏に対する申立てで、複数の投稿についてIPアドレスを開示請求すると、これに対応して複数の接続プロバイダの氏名等情報が情報提供されるケースもあります。

 この場合には、1通の申立書で複数の接続プロバイダに対する開示命令申立てを記載することができます(客観的併合)。
 もっとも、接続プロバイダが複数になると手続が複雑になるほか、期日調整も難航すると考えられるため、接続プロバイダが多いようなら、各プロバイダごとに申立てを分けるのが良いのではないかと思います。一部の接続プロバイダに下位プロバイダがあると、最後の下位プロバイダが開示されるまで手続全体の審理が始まらず、開示が遅れることも考えられます。

管轄裁判所

 提供命令で提供された接続プロバイダに対する開示命令申立は、提供命令の本案事件の管轄と同じになります(法10条7項)。Y氏に対する開示命令申立の管轄は千葉地裁某支部か東京地裁本庁なので(どちらを選んでいるかによります)、Y氏から提供された接続プロバイダに対する開示命令申立の管轄もそれと同じ裁判所になります。

発信者情報開示命令事件手続規則

 申立書テンプレの「手続規則2条に係る事件」には、先行する提供命令の本案事件の事件番号を書きます(発信者情報開示命令事件手続規則2条1号)。具体的には、Y氏に対する発信者情報開示命令事件の事件番号です。

(別紙)発信者情報目録

 提供命令で接続プロバイダが判明した場合には、申立人はIPアドレスと接続日時を知らないため、発信者情報目録にそれらの情報を記載できません(比較例:書式20-1)。

 そこで、「提供命令によってY氏から提供された情報」という趣旨で、以下のように記載しています。提供命令の事件番号、発令日を記入してください。申立書テンプレで「株式会社●」となっているところは、提供命令の相手方を記載するので、今回はY氏の氏名を記載します。

 東京地方裁判所が令和●年●月●日付けでした令和●年(モ)第6●号提供命令申立事件の提供命令主文第2項に基づき、株式会社●から相手方に提供された発信者情報によって特定される契約者に関する以下の情報。
1 氏名または名称
2 住所
3 電話番号
4 メールアドレス

(別紙)投稿記事目録・権利侵害の説明

 (別紙)投稿記事目録と、(別紙)権利侵害の説明は、Y氏に対する開示命令申立書からコピーするだけです。

(別紙)当事者目録

 (別紙)当事者目録で、「申立人」(と代理人)はY氏に対する申立と同じです。「相手方」の部分には、接続プロバイダの情報を記入してください。

甲号証

甲●:(画面)
 投稿のスクショまたは印刷物を想定しています。「甲1」とでもしてください。投稿のURLも写るように(印刷されるように)注意して下さい。

甲●:提供命令
 Y氏に対する提供命令の決定書を証拠にします。発信者情報目録記載の、①提供命令の事件番号、②発令日、③提供命令の相手方、の立証になります。甲2とでもしてください。

甲●:提供情報
 Y氏に対する提供命令により、Y氏から送られてきた情報提供書です。接続プロバイダの氏名等情報が提供されたこと、および他の開示関係役務提供者の氏名等情報の証拠になります。甲3とでもしてください。

甲●:(権利侵害の明白性)
 投稿内容が違法であることを裏付ける証拠です。甲4とでもしてください。Y氏に対する開示命令申立の際に使用したものと同じです。証拠番号も同じにするのであれば、提供命令の決定書と情報提供書の証拠番号をずらします。

甲●:(ログ保存期間)
 消去禁止命令の申立てのため、接続プロバイダのログ保存期間が3か月~6か月であることを文献などで証明します。消去禁止命令のための証拠なので、厳密には疎明のための疎明資料です。

 Y氏に対する開示命令申立の際に使用したのと同じもので問題ありません。甲5とでもしてください

証拠説明書

 東京地裁9部では証拠説明書は必須です。証拠説明書がどんなものか分からない人は、裁判所のサンプルを真似してください。
 表の部分は、以下の内容くらい簡単でも良いでしょう

号証標目原・写作成年月日作成者立証趣旨
甲1●(スレッドタイトル)氏名不詳者本件投稿の内容、URL
甲2決定裁判所提供命令発令の事実。
甲3提供情報(●Y氏)相手方が開示関係役務提供者である事実。
甲4陳述書申立人摘示事実の反真実性、同定可能性
甲5付録32023/9/13神田知宏接続プロバイダのログ保存期間

プロ責法15条1項2号の通知

 雑談たぬきに限らず、提供命令により判明した接続プロバイダに対して開示命令の申立てをしたときは、申立人はサイト管理者に対し、申立てをしたと通知する必要があります(法15条1項2号)。この通知をしないと、サイト管理者は接続プロバイダに対し、IPアドレス等の情報を提供しません。割と忘れやすいので要注意です。雑談たぬきでも、この通知(15条1項2号の通知)は忘れられがちとのことです。
 雑談たぬきでは、15条1項2号の通知にもオンラインフォームを使います。お問い合わせフォームの6(【3.APに発信者IPの提供申請】)から通知します。第1事件(Y氏に対する申立て)の事件番号とともに、第2事件(接続プロバイダに対する申立て)の事件番号を記入し、送信してください。

 これにより、Y氏代理人から接続プロバイダへ、IPアドレスなどの情報が提供されます。情報提供されたかどうかは、事前にY氏代理人へ送付しているレターパックの追跡番号から確認できます。

接続プロバイダからの回答

 Y氏から接続プロバイダへIPアドレス等が情報提供されると、接続プロバイダはログの調査をします。そして、ログ保存期間切れならば「保有していない」、該当の通信が見つかった場合は「保有している」と裁判所(と申立人)に事務連絡します。

 ログ保存期間切れで「保有していない」との回答だった場合には、残念ながら投稿者特定はできないため、ここで手続は終了です。Y氏に対する申立てと、接続プロバイダに対する申立てを取り下げます。

 これに対し、「保有している」との回答だった場合には、Y氏に対する申立てが第1事件、接続プロバイダに対する申立てが第2事件として併合され、審理が始まります。

Y氏に対する開示命令申立ての取下げ

 審理が始まる前に、裁判所からは「第1事件をどうするか?」との確認があります。これは、Y氏に対する開示命令申立てを維持するのか、取り下げるのか、との確認です。Y氏側は取り下げて欲しいと考えており、実際、取り下げても不都合はないため、第1事件は取り下げる流れになります。

 もし、Y氏にIPアドレスの値を開示して欲しいのであれば、接続プロバイダに対する開示命令申立てを変更し、投稿者の住所氏名等のほか、Y氏から提供されたIPアドレスの値も開示請求すると良いでしょう。そうすれば、第1事件を残す必要がありません。

 問題は、NTTドコモです。同社は、「第1事件が取り下げられると提供命令が失効するため(法15条3項1号)、NTTドコモに対する開示請求もできなくなる」と主張するようです。ただ、提供命令が失効しても、接続プロバイダがNTTドコモだという事実はなくなりませんし、NTTドコモにIPアドレス等の情報が提供された事実もなくならないので、NTTドコモに対する開示命令申立ては、法15条3項1号の文言と矛盾しないと思います。
 もっとも、NTTドコモは、この争点で最高裁まで争う可能性もあるため、危険を冒したくなければ第1事件を残しておくことも検討してください。


  • 2023/12/30 新規作成