忘れられる権利は日本の裁判所でも主張できるか

2014.05.16

EU最高裁判決

「スペイン人の男性が、16年前に所有していた不動産が負債のために競売にかけられたことを伝える地元の新聞記事が、問題が解決したあとも自分の名前で検索すれば記事へのリンクが現れるとして、検索大手のグーグルに、このリンクを検索結果から削除するよう求めていました。
EU=ヨーロッパ連合の最高裁判所に当たるヨーロッパ司法裁判所は13日、「時間の経過と共に意味を持たなくなったデータなどについては、一定の条件の下で個人の求めに応じリンクを削除する義務がある」として、男性の訴えを認める判決を言い渡しました。」
(出典:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140514/k10014430771000.html)

EU判決の検討

「時間の経過と共に意味を持たなくなったデータ」というのは,日本の法制における「公益性の喪失」と同じ趣旨だと思われます。
表現の自由とプライバシー権(忘れられる権利)との比較較量において,表現の有する公益性より個人のプライバシーを重視すべき場合には,情報の削除を請求できる,ということでしょう。
上記EU判決のもう1つのポイントは,グーグルに検索結果の削除を命じている点です。従前グーグルは「自分たちはネットの情報をインデックス化しているだけ」と主張しており,さらに「リンク先が問題ならリンク先に削除請求すれば良い」と主張しています。
しかし,EUの最高裁は,リンクの削除を命じているのです。
別のニュースによると,理由はデータを「管理」しているから,ということのようです。

日本でも同じ請求ができるか

表現の自由とプライバシーの比較較量において,プライバシーが優先する場合は削除請求できる,という法論理は,日本でもあまり争いのないところでしょう。
そうすると問題は,グーグルにリンクを削除請求できるか,という点です。
東京高裁では,リンク先が違法ならリンクも違法,という判決が出ています(別の記事で書いています)。それゆえ,リンクだから削除できない,という理由は絶対ではありません。
最近,ヤフーに対し「リンクだけの記事」の削除仮処分を申し立てたところ,裁判官が認容しそうだと分かるや,ヤフーは争うのをやめ自主的にリンクを削除した,という事案がありました。
検索サイトにとって,リンク自体が違法だという認容例は残したくなかったのだろうと推測されます。
では,「単にネットの情報をインデックス化しているだけ」との主張についてはどうでしょうか。
東京地裁平成22年2月18日判決(ヤフーに対するインターネット検索結果削除等請求事件)では,「現代社会における検索サービスの役割からすると」として,検索サイトに特殊な地位を認めているように見えます。
しかし,検索サイトといえど,歴史的にはコンテンツプロバイダの1つに過ぎないのですから,特別扱いする必要もないだろうと考えます。
他のコンテンツプロバイダに対しては,誰がオリジナルのデータを作ったかということや,当該プロバイダの主観などとは無関係に,条理上の削除義務が認められています。そうであれば,検索サイトに対しても,その管理しているサービス内容につき,条理上の削除義務があると評価することも可能ではないかと思います。
コンテンツプロバイダがコンテンツを「管理」していることと同じく,検索サイトは検索結果というコンテンツを「管理」している,という主張です。

小括

以上まとめますと,まだまだ議論が始まったばかりで未知数ではありますが,日本でもEUと同様,グーグルに対して忘れられる権利により,検索結果の削除請求ができる可能性はあるのではないか,と思えます。

手続的なこと

グーグル日本法人にはデータ管理権がない,という主張をされますので,削除仮処分の債務者,または削除訴訟の被告とするのは,米国グーグル本社となります。
そして,削除請求は差止請求なので,不法行為地の特別裁判籍の規定が適用され,被害者(申立人,原告)の住所地を管轄する裁判所で申立,提訴するのだと考えます。
グーグル本社の登記をカリフォルニアから取り寄せることと,申立書の英訳,海外送達等に,じゃっかん手間がかかるかもしれません。