ソフトバンクの方針変更
ソフトバンクは2020年5月、従前の方針を変更し、通信の特定に「接続先IPアドレス」が必要となる場合で、かつ接続先IPアドレスが複数あるケースについては、サイト管理者から接続先IPアドレスの候補を開示されない限り、通信を調査しないこととしたそうです。開示訴訟でもテレコムサービス協会書式でも同様です。
そのため、請求者側でホスト名を正引きして得られた接続先IPアドレス(または接続先IPアドレスの候補)を提供しても、「サイト管理者から開示された証拠」を求めてきて、通信を調査してもらえません。
通信を調査されない結果、ログ保存期間の経過によりログが流れてしまい、発信者情報開示請求は不可能になります。
この方針が適用される条件
この方針が適用されるのは、上記のとおり、通信の特定に「接続先IPアドレス」が必要となる回線です。携帯・スマホだけでなく、ソフトバンク光のような固定回線でも問題となることがあります。
IPアドレスが共有されていない固定回線では、通信の特定に「接続先IPアドレス」が必要ないため、方針変更の影響は受けません。
ログ保存仮処分でも対応は同じ
ソフトバンクの上記主張は、ログ保存仮処分でも同様です。サイト管理者から提供された接続先IPアドレスでない限り、通信を調査しないと主張します。法律上は、プロ責法4条の「保有」要件の否認になります。
答弁書では「証拠説明書の作成日欄の記載によれば、本件投稿のなされた後に、債権者代理人が本件投稿に関する接続先IPアドレスを検索した結果のようであるから、上記IPアドレスが本件投稿のなされた時点における接続先IPアドレスであるかは明らかでない。」と書かれており、どの事件でもこの内容であることからすると、テンプレートなのだと思われます。
解決策1(優先順位1)
最も簡単な解決策は、サイト管理者から接続先IPアドレスを開示してもらうことです。しかしTwitterは、そのような情報を開示してくれません。Twitter代理人に接続先IPを聞いたところ「保存していないから開示できない」「接続先IPを保存する理由がない」とのことでした。
接続先IPアドレスを開示してくれるサイトでは、この方法が有効です。
解決策2(優先順位2)
そのため、Twitterから開示されたIPアドレスの場合は、ログ保存仮処分(住所氏名の保存仮処分)が必須です。裁判所が発令すれば、ソフトバンクはログを調査して保存してくれます。
なお、上記のように、答弁書で「投稿後に調べた」というところが指摘されているので、投稿日に接続先IPが調べてあれば、この反論は成り立たないことになります(私は日々、接続先IPを記録しています)。
この方法の問題点は、ログを調査していない段階で保存仮処分が発令される点です。発令後にログ調査した結果、ログが見つからないとき、保存の間接強制をするとソフトバンクはどうするのだろう、と思います。
ログが最初からない状態で発令されると、間接強制のペナルティが永遠に続いてしまう問題があるため、10月~11月時点では、ログ保存仮処分の双方審尋で裁判所から「調査せよ」と指示された場合は、発令前でもログを調査する運用に変わったようです。調査の結果ログが見つかった場合には、発令までは任意に保存し、発令により確定的に保存する、という流れのようですが、発令がなくてもログを保存する例もありました。
発令されないとログ保存しないと主張するのは、イーアクセス時代からの代理人、発令前でも、裁判官が調査せよというなら調査して保存する方針なのは、大手事務所の代理人、という目安です。どちらの代理人になるかで、その後の手続の難易度が変わります。そのように裁判官も認識しているようでした。
と、いう話をしたところ、代理人による違いではなく、会社担当者による違いではないか、という回答もありました。
それでもログがないと言われることも
接続先IPを示してログ保存仮処分をし、裁判官に「調査せよ」と言ってもらい調査された結果として、「ログがない」と言われるケースが何個がありました。KDDIでもそういうことがあるため、明確な理由はわかりませんが、ドコモの調べ方と同じだとすると、ドメイン名がbbtec.netの契約(旧ソフトバンクテレコムの回線)ではセッションが長すぎて、アタリにならないのではないか?と想像しています。
従前、「アプリ」での接続先IPが違うのでは?という指摘もありましたが、今回アンドロイドのエミュレーターを入れてパケットを確認したところ、ブラウザで接続するのと有意な違いはないように見えました。
「ソフトバンクAir」が使用されていると、ログを特定できない可能性がある、との情報もありました。
進行中の問題
ソフトバンクは、開示訴訟でも同じように、接続先IPアドレスの問題を指摘しています。今後、「サイト管理者が開示した接続先IPアドレス」でないといけないのかどうかについて、裁判例が蓄積されると思います。
ソフトバンクの本社移転
ソフトバンクの本社移転(https://www.softbank.jp/corp/special/takeshiba-office/)に伴い、当事者目録の住所が変わります。
〒105-7529 東京都港区海岸一丁目7番1号 債務者 ソフトバンク株式会社 |
その他の方法
7月に試行錯誤の過程で試した方法も記録として書いておきます。
解決策3(試験的方法)
試す方法は、いつもと違う形のログ保存仮処分です。従来使われていたような「住所・氏名」の保存ではなく、契約者を識別する番号(顧客番号のようなもの)の保存を求めます。携帯電話回線の場合と、固定回線の場合とで別紙発信者情報目録の書きぶりが違いますので注意してください。書式1で書いたログ保存仮処分、書式2で書いた証拠保全申立てが発令されています。
(書式1)発信者情報目録(スマホの場合)
別紙投稿記事目録記載のIPアドレスを同目録記載の投稿日時ころに使用し、同目録記載の接続先IPアドレスのいずれかに接続した通信にかかるSIMカード識別番号
(書式2)発信者情報目録(固定回線の場合)
別紙投稿記事目録記載のIPアドレスを同目録記載の投稿日時に使用し、同目録記載の接続先IPアドレスのうちいずれかに接続した通信に関する記録に記載された、利用者を識別するための符号
うまくいかなかった方法
ソフトバンクのオフィスへ証拠保全(検証)に行く、という方法も試しましたが、ログを検索できるエリアに部外者が入ることは、セキュリティの問題がある等の理由により、この方法はうまくいきませんでした。
ただ、上記の目録で証拠保全決定自体は出ています。
なお、本記事のサムネールは、証拠保全に行ったソフトバンクのオフィスが入っている建物です。
- 2020/07/05 作成
- 2020/07/30 更新
- 2020/09/07 更新
- 2020/09/10 更新(接続先IPアドレスの用語集へのリンク)
- 2020/10/07 更新(10月時点での運用を追記)
- 2020/10/16 更新(タイトル変更)
- 2020/10/19 更新(それでもログが見つからない場合の対応追加)
- 2020/10/29 更新(代理人による主張の違いを追加)
- 2020/11/10 更新(自動ログインの追加調査について)
- 2020/11/19 更新(現状反映)
- 2020/11/28 更新(送達先を追記)
- 2020/12/04 更新(少し整理)
- 2020/12/25 更新(ソフトバンクAirの情報を追加)
- 2021/01/14 更新(本社登記の反映)