発チの申立書テンプレをたくさん作ったので、「申立書テンプレを使う」シリーズの記事を書きます。第4回は、Googleから提供命令で提供された接続プロバイダに対する住所氏名の開示命令申立。
提供された情報を確認する
Googleに対する提供命令が発令されると、1か月半~2か月程度で接続プロバイダに関する情報提供があります(前記事)。書面のタイトルは「情報提供書」であったり「開示関係役務提供者に関する情報の提供」であったりします(Google代理人の事務所によって違います)。
確認するのは、この書面に記載されている、「他の開示関係役務提供者」(接続プロバイダ)の氏名等情報です。
たとえば、以下のように書かれています。
住所:東京都新宿区西新宿2丁目3番2号
このような情報であれば、KDDIに開示命令申立をするとよい、ということが分かります。
開示命令申立書
使用する申立書テンプレは、「接続プロバイダ用」で「先行する提供命令あり」(Googleに対する提供命令がある)、「ログイン型IPアドレス」(Googleの口コミはログイン型)の3条件を満たすものということで、書式19-2です。
番号 | タイトル | word/PDF |
---|---|---|
書式19-2 | 発信者情報開示命令申立書(接続プロバイダ用、先行する提供命令あり、ログイン型IP) |
基本的に、「●」を埋めるだけで申立書ができあがるはずです。
管轄裁判所
提供命令で提供された接続プロバイダに対する開示命令申立は、提供命令の本案事件の管轄と同じになります(法10条7項)。Google LLCに対する開示命令申立の管轄は東京地裁本庁なので、Googleから提供された接続プロバイダに対する開示命令申立の管轄も東京地裁本庁になります。
たとえば、接続プロバイダとしてオプテージ(大阪本社)が提供されても、大阪地裁になりません。
発信者情報開示命令事件手続規則
申立書テンプレの「手続規則2条に係る事件」には、先行する提供命令の本案事件の事件番号を書きます(発信者情報開示命令事件手続規則2条1号)。具体的には、Googleに対する発信者情報開示命令事件の事件番号です。
(別紙)発信者情報目録
提供命令で接続プロバイダが判明した場合には、申立人はIPアドレスと接続日時を知らないため、発信者情報目録にそれらの情報を記載できません(比較例:書式20-2)。
そこで、「提供命令によってGoogleから提供された情報」という趣旨で、以下のように記載しています。提供命令の事件番号、発令日を記入してください。申立書テンプレで「株式会社●」となっているところは、提供命令の相手方を記載するので、今回は「Google LLC」です。
1 氏名または名称
2 住所
3 電話番号
4 メールアドレス
(別紙)投稿記事目録・権利侵害の説明
(別紙)投稿記事目録と、(別紙)権利侵害の説明は、Googleに対する開示命令申立書からコピーするだけです。
(別紙)当事者目録
(別紙)当事者目録で、「申立人」(と代理人)はGoogleに対する申立と同じです。「相手方」の部分には、接続プロバイダの情報を記入してください。
甲号証
甲●:(画面)
Googleの口コミのスクショか印刷物を想定しています。Googleに対する開示命令申立の甲号証と同じものです。甲1とでもしてください。
甲●:提供命令
Googleに対する提供命令の決定書を証拠にします。発信者情報目録記載の、①提供命令の事件番号、②発令日、③提供命令の相手方、の立証になります。甲2とでもしてください。
甲●:提供情報
Googleに対する提供命令により、Googleから送られてきた情報提供書です。接続プロバイダの氏名等情報が提供されたこと、および他の開示関係役務提供者の氏名等情報の証拠になります。甲3とでもしてください。
甲●:(権利侵害の明白性)
投稿内容が違法であることを裏付ける証拠です。甲4とでもしてください。Googleに対する開示命令申立の際に使用したものと同じです。証拠番号も同じにするのであれば、提供命令の決定書と情報提供書の証拠番号をずらします。
甲●:(ログ保存期間)
消去禁止命令の申立てのため、接続プロバイダのログ保存期間が3か月~6か月であることを文献などで証明します。消去禁止命令のための証拠なので、厳密には疎明のための疎明資料です。
Googleに対する開示命令申立の際に使用したのと同じもので問題ありません。甲5とでもしてください。
証拠説明書
東京地裁9部では証拠説明書は必須です。証拠説明書がどんなものか分からない人は、裁判所のサンプルを真似してください。
表の部分は、以下の内容くらい簡単でも良いでしょう。
号証 | 標目 | 原・写 | 作成年月日 | 作成者 | 立証趣旨 |
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甲1 | Googleマップ | 写 | 2023/11/1 | 氏名不詳者 | 本件投稿の内容、URL |
甲2 | 決定 | 写 | ● | 裁判所 | 提供命令発令の事実。 |
甲3 | 情報提供書 | 写 | ● | Google LLC | 相手方が開示関係役務提供者である事実。 |
甲4 | 陳述書 | 原 | 2023/11/18 | 申立人 | 摘示事実の反真実性、同定可能性 |
甲5 | 付録3 | 写 | 2023/9/13 | 神田知宏 | 接続プロバイダのログ保存期間 |
番号 | タイトル | Word/PDF |
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書式33-4 | 証拠説明書サンプル(Google Mapsから提供命令で判明した接続プロバイダ用) |
プロ責法15条1項2号の通知
接続プロバイダに対する申立書を裁判所に出して事件番号が付いたら、Google LLCに対し、プロ責法15条1項2号の通知をします。宛先は、提供命令の際に情報提供書を送ってきたGoogle LLCの代理人あてで構いません。
この通知をしないと、Google LLCから接続プロバイダあてにIPアドレス・タイムスタンプの情報が行かないので、最悪、接続プロバイダのログ保存期間が過ぎてしまうリスクがあります。危険なので、絶対に忘れないようにしましょう。
書式に決まりはないので、要点が伝わればどのようなものでも構いません。
番号 | タイトル | word/PDF |
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書式23-1 | 開示命令申立の通知書(15条1項2号) |
この通知のあと、Googleから接続プロバイダに対してIPアドレス・タイムスタンプが伝わり、接続プロバイダがログを調査し、ログが見つかった場合には「保有している」という回答書を裁判所に送ります。同時に、申立人へも送られることがあります。
この回答があったあと、裁判所ではGoogleに対する事件を「第1事件」、接続プロバイダに対する事件を「第2事件」として、2つの事件を併合します。
特定できないといわれたとき
上記のように、Google LLCから接続プロバイダに対して提供命令主文2項の提供(IPアドレス、タイムスタンプの提供)あると、接続プロバイダはログの調査をし、その結果を回答してきます。
「保有している」との回答であれば、そのまま手続が進みますが、「保有していない(通信を特定できない)」と回答されることも珍しくありません。
ソースポート番号が必要
接続プロバイダからの回答が「ソースポート番号が必要」というものであった場合には、接続プロバイダに対する第2事件はそこで手詰まりです(接続プロバイダに対する申立ては取下げになります)。Google LLCからソースポート番号が開示されたことはありません。
接続先IPアドレスが必要
接続プロバイダからの回答が「接続先IPアドレスが必要」というものであった場合には、まだ見込みはあります。Google LLCが接続先IPアドレスを開示しないのはソースポート番号の場合と同じですが、接続先IPアドレスは、調べようがあります。
そこで、訂正申立書を作り、接続先IPアドレスの候補を(別紙)発信者情報目録に追記します。表現としては、以下のようになります。
1 氏名または名称
2 住所
3 電話番号
4 メールアドレス
接続先IPアドレスは証拠が必要となりますが、報告書で足るようです。下記報告書を甲号証として追加し、証拠説明書も出します。
番号 | タイトル | word/PDF |
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書式34-2 | 訂正申立書(Googleから提供命令で判明したAP用、接続先IPの追加) | |
資料04 | 接続先IPアドレスの報告書(Google用) Word形式は値のみ(申立書へのコピペ用) |
経験上、この接続先IPアドレスの追加で投稿者が特定できる割合は、半々といったところと感じています。「見つからない」と言われたときは手詰まりです(接続プロバイダに対する申立ては取下げになります)。あとは、Googleアカウントに電話番号が登録されていることに期待し、Googleに対する開示命令申立だけ続行します。
- 2023/12/05 新規作成
- 2023/12/06 特定できないと言われたとき、を加筆