発チの申立書テンプレをたくさん作ったので、次は「申立書テンプレを使う」シリーズの記事です。第5回は「Instagram」。写真が肖像権侵害になったり、コメントが名誉権侵害になったり、といったケースを想定しています。
相手方は誰?
Instagramの運営会社は米国のMeta Platforms, Inc.です。日本に外国会社の登記(会社法818条)があるので、日本法人を相手にするのと同じようにして手続ができます。当事者目録には以下のように書き、Meta Platforms, Inc.の外国会社の登記(法務局で買えます)と、ビーコンサービス株式会社の登記を用意します。
相手方 Meta Platforms, Inc.
上記代表者(日本における代表者) ビーコンサービス株式会社
上記代表者代表取締役 マリア-ベゴーニャ・ディアドラ・ファロン・ファルージャ
(送付先)
〒100-0005東京都千代田区丸の内一丁目8番3号丸の内トラストタワー本館26階
手続は何を選ぶか?
まず、どの手続きにより開示請求するか?を考えねばなりません。法改正前は、「IPアドレスの開示仮処分」しか選択肢がなかったのですが、現在は、①「IPアドレスの開示仮処分」のほかにも、②「IPアドレスの開示命令申立」、③「IPアドレスとアカウント情報(メアド・電話番号)の開示命令申立」、④「IPアドレスの開示仮処分」と「アカウント情報の開示命令申立」の組み合わせ、⑤「IPアドレスとアカウント情報(メアド・電話番号)の開示命令申立+提供命令申立」の5パターンが考えられます。
IPアドレスの開示仮処分に削除仮処分をつけて、IPアドレス開示兼削除仮処分とする亜種もあります。このあたりは他のSNS、Googleの口コミなどと考え方が同じです。
上記の①~⑤は、いずれも一長一短があり、まだ「これしかない!」と言えるような方法はないのですが、私が比較的多く使っているのは④と⑤です。Meta Platformsは、アカウント情報(メールアドレス)を開示請求すると意見照会を経るため、認容の心証が開示されていても、意見照会の分、開示が遅れます。したがって、ログ保存期間に余裕がないと考えられるときは、④の「IPアドレス開示仮処分」と「アカウント情報の開示命令申立」の組み合わせを選択し、ログ保存期間に余裕があると思われるときは、⑤の提供命令付き開示命令申立ての手続にしています。
もっとも、④を選択しても、IPアドレス開示仮処分とアカウント情報の開示命令を同時に申し立てると、同じ裁判官の担当になり、「意見照会の結果が分かるまでIPアドレス開示仮処分の決定も出さない」と言われたことがあります。そのため、④を選択するのであれば、担当裁判官が別になるよう、申立てのタイミングはずらしたほうがよいのかもしれません。
この記事では、⑤の手続を選択した場合の申立書テンプレ使用法を説明します。
番号 | タイトル | Word/PDF |
---|---|---|
書式18-4 | 発信者情報開示+提供命令申立書(Instagram用) |
なお、④の手続を選択した場合の申立書テンプレは以下です。
番号 | タイトル | Word/PDF |
---|---|---|
書式7-Instagram | 発信者情報(IPアドレス)開示仮処分命令申立書(Instagram用) | |
書式17-3 Instagram | 発信者情報開示命令申立書(Instagram用、アカウント情報) |
申立書作成
申立書テンプレは、「●」に文字を埋めるだけで申立書が完成する作りになっています。最近作っているテンプレでは、申立日付はWordの「日付選択コンテンツコントロール」、裁判所の宛先については「コンボボックスコンテンツコントロール」でお手軽入力できるようにしてあります。 なお、コンボボックスコンテンツコントロールでは大阪地裁も選択肢に入れてありますが、Meta Platforms, Inc.の外国会社の登記は東京にあるため、開示命令申立の管轄は東京地裁しか選べません(プロ責法10条)。
(別紙)発信者情報目録
申立書テンプレートの「(別紙)発信者情報目録」記載1の各情報は、アカウント情報を開示請求する部分です。電話番号と電子メールアドレスを開示請求しています。
別紙投稿記事目録記載のアカウントに登録されている以下の各情報。ただし、当該情報が合理的に入手可能であるものに限る。
(1) 電話番号
(2) 電子メールアドレス
申立書テンプレートの「(別紙)発信者情報目録」記載2の各情報は、(1)がアカウント作成時IPアドレス・タイムスタンプ、(2)がログイン時IPアドレス・タイムスタンプを開示請求する部分です。
別紙投稿記事目録記載のアカウントに関する以下の各情報。ただし、当該情報が合理的に入手可能であるものに限る。
(1) アカウントの登録に使用されたIPアドレス及びアカウント登録日時。
(2) アカウントについて、●年●月●日以降のログインに使用されたIPアドレス及びログイン日時であって、別紙投稿記事目録記載の各投稿日時以前で最も時間的に近接するもの。
施行規則5条からすると、①「アカウント作成時IPアドレス」、②「ログイン時IPアドレス」、③「ログアウト時IPアドレス」、④「アカウント削除時IPアドレス」を開示請求できますが、Instagramはログアウト時IPアドレスの記録がないので、➂は除外されます。また、調査の難度の観点から➁のログイン時IPアドレスは、侵害情報の投稿「前」のものに限定されています(法律上は「後」のログインも対象ですが)。➀のアカウント作成時IPアドレスは開示できるようですが、接続プロバイダのログ保存期間に間に合わない例が多いため、申立てから除外してもよいと思います。
「●年●月●日以降」の部分は、余裕をもって10日程度前の日(投稿日マイナス10日程度の日)を記載しておきます。この日付がないと、Meta Platforms, Inc.は調査に困るようです。
(別紙)投稿記事目録
Instagramの投稿記事目録では、「アカウントのURL」と「投稿日時」が重要です。
アカウントのURLは、「https://www.instagram.com/(ユーザーネーム)」の形式で指定します。コメントの違法性を主張する場合でも、開示請求したいアカウントについて、アカウントのURLが必須です。
投稿日時はHTMLソースで確認できます。方法は、こちらの記事を参照してください。
投稿日時の指定がない場合、どのログインが「相当の関連性」(施行規則5条柱書)のあるログイン(最も時間的に近接したログイン)なのか判断できないため、(別紙)発信者情報目録の表現が変わるとともに、開示されるIPアドレスの範囲も変わるそうです。
どれが投稿と最も時間的に近接したログインなのかが判明しないと、接続プロバイダに対する開示命令申立てでも争点になるでしょうから、アカウントが削除されていて投稿日時を確認できないといったケースでもなければ、投稿日時を投稿記事目録に記載しておきましょう。
甲号証
甲●:(画面)
画面のスクショまたは印刷物を想定しています。「甲1」とでもしてください。
発信者情報目録に「アカウントのURL」を記載する関係で、記事のスクショ以外に、アカウントのURLが写ったスクショ(または印刷物)が必要です。
また、投稿日時の証明のためのスクショも必要になります。
それぞれ、甲1の1、甲1の2、甲1の3、とでもしておくと良いです。
甲●:利用規約
Instagramの運営者がMeta Platforms, Inc.であることを利用規約の以下の記載で証明します。「甲2」とでもしてください。
甲●(権利侵害の明白性)
投稿内容が違法であることを裏付ける証拠です。甲3とでもしてください。複数あるときは、私は甲3の1、甲3の2、などとしています。
甲●:補充性の報告書
以下のPDFを想定しています。「甲4」とでもしてください。
番号 | タイトル | Word/PDF |
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資料03 | 特定発信者情報の補充性に関する報告書(Instagram用) |
甲●:ログ保存期間
ログ保存期間が3~6か月程度であることを示す文献のコピーを想定しています。
当サイトのログ保存期間の記事を疎明資料にしている弁護士も多いようです。
拙著の「付録3」のコピーでも構いません。「甲5」とでもしてください。
証拠説明書
東京地裁9部では証拠説明書は必須です。証拠説明書がどんなものか分からない人は、裁判所のサンプルを真似してください。
表の部分は、以下の内容くらい簡単でも良いでしょう。
号証 | 標目 | 原・写 | 作成年月日 | 作成者 | 立証趣旨 |
---|---|---|---|---|---|
甲1の1 | @●・Instagram写真と動画 | 写 | ● | 氏名不詳者 | 本件投稿の内容 |
甲1の2 | @●・Instagram写真と動画 | 写 | ● | 氏名不詳者 | 本件アカウントのURL |
甲1の3 | DevTools | 写 | ● | 相手方 | 本件投稿の投稿日時 |
甲2 | 利用規約 | 写 | ●印刷 | 相手方 | Instagramのサイト管理者が相手方である事実。開示関係役務提供者性。 |
甲3 | 陳述書 | 原 | 2023/11/18 | 申立人 | 摘示事実の反真実性、同定可能性 |
甲4 | 報告書 | 写 | 2022/12/1 | 神田知宏 | 特定発信者情報の補充性 |
甲5 | 付録3 | 写 | 2023/9/13 | 神田知宏 | 接続プロバイダのログ保存期間 |
番号 | タイトル | Word/PDF |
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書式33-5 | 証拠説明書サンプル(Instagram用) |
提出方法
本人訴訟の人であれば、申立書2通、証拠説明書1通、甲1~甲5を1通、Meta Platforms, Inc.の外国会社の登記とビーコンサービス株式会社の登記(法務局かネットで買えます)を各1通(合計2通)、印紙2000円(開示命令の分と提供命令の分、各1000円の合計)、を東京地裁民事第9部に郵送してくください。あとレターパックが要ります(裁判所に電話で聞いて下さい)。
住所 | 〒100-8920 東京都千代田区霞が関1-1-4 東京地方裁判所(民事第9部) |
電話番号 | 発令係 03-3581-3402 03-3581-3404 03-3581-3406 |
FAX番号 | 03-3595-2259 |
提供命令申立
提供命令の申立ては、本案の発信者情報開示命令申立書と分けることもできますが、2通出すより1通でまとめて出したほうが楽なので、申立書テンプレ群も、基本的に提供命令申立は、開示命令申立書の中に書いています。
そのため、書式28-2は使いません。
申立ての趣旨
提供命令申立ての申立ての趣旨は「別紙主文目録記載の裁判を求める」だけです。具体的に求める決定の内容は、「(別紙)主文目録」に書かれています。
イ 相手方が、別紙発信者情報目録記載2の各情報のうち、相手方が保有するものにより、別紙投稿記事目録記載の情報に係る他の開示関係役務提供者(当該情報の発信者であると認められるものを除く。以下同じ。)の氏名又は名称及び住所(以下「他の開示関係役務提供者の氏名等情報」という。)の特定をすることができる場合
当該他の開示関係役務提供者の氏名等情報
ロ 相手方が、別紙発信者情報目録記載2(アカウント登録日時及びログイン日時を除く)の各情報を保有していない場合又は保有する当該各情報により上記イに規定する特定をすることができない場合
その旨
2 相手方が、前項の命令により他の開示関係役務提供者の氏名等情報の提供を受けた申立人から、申立人が当該他の開示関係役務提供者に対して別紙投稿記事目録記載の情報についての発信者情報開示命令の申立てをした旨の書面又は電磁的方法による通知を受けたときは、相手方は、当該他の開示関係役務提供者に対し、別紙発信者情報目録記載2の各情報のうち相手方が保有するものを書面又は電磁的方法により提供せよ。
主文目録第1項は、法15条1項1号に対応し、主文目録第2項は、法15条1項2号に対応しています。主文目録のイ・ロは、それぞれ法15条1項1号イ、同ロに対応しています。
この目録の中で、変更する可能性があるのは太字にした部分です。「別紙発信者情報目録記載2」は、アカウント登録時IPアドレス及びログイン時IPアドレスを開示請求している部分です。アカウント情報を開示請求しない場合、発信者情報目録に「1」がなくなり、「2」が「1」に繰り上がるため、主文目録での表現は「別紙投稿記事目録記載2」ではなく「別紙発信者情報目録記載1」または「別紙発信者情報目録記載」になります。
太字にした「(アカウント登録日時及びログイン日時を除く)」の部分は、いわゆる「タイムスタンプ」を除外する表現です。法15条1項1号ロが参照している施行規則7条ではタイムスタンプが除外されているため、主文目録の「ロ」でもタイムスタンプを除外する必要があります。
申立書テンプレの別紙発信者情報目録では、アカウント登録日時とログイン日時がタイムスタンプですが、たとえば発信者情報目録からアカウント登録時IPアドレス・アカウント登録日時を除外する場合には、提供命令の主文目録は「(ログイン日時を除く)」に変更します。
申立後どうなるか
申立後には、事件番号などのお知らせがきます。
次に、1週間くらいで「提供命令発令」のお知らせがきます。裁判所から「本案の申立書(提供命令申立書を含む)」と提供命令の決定書がMeta Platforms, Inc.へ送られるのにあわせて、申立人からは証拠説明書と甲号証をMeta Platforms, Inc.(当事者目録の「送付先」あて)に送ります。
提供命令の履行及びその後
提供命令がMeta Platforms, Inc.に到着すると、最終的に同社の代理人(日本の弁護士)から、1か月程度で「投稿者の使った接続プロバイダはここですよ」という趣旨の情報提供書が届きます。
これが届いたら、次は接続プロバイダに対する開示命令申立てです。
それは別の記事に書くことにして、ここでは、使用する申立書テンプレだけ書いておきます。
番号 | タイトル | word/PDF |
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書式19-2 | 発信者情報開示命令申立書(接続プロバイダ用、先行する提供命令あり、ログイン型IP) |
- 2023/12/06 新規作成