発チの申立書テンプレを使う(Instagram提供命令からの接続プロバイダ)

2023.12.07

発チの申立書テンプレをたくさん作ったので、「申立書テンプレを使う」シリーズの記事を書きます。第5回は、Instagramから提供命令で提供された接続プロバイダに対する住所氏名の開示命令申立。

提供された情報を確認する

Instagram(Meta Platforms, Inc.)に対する提供命令が発令されると、1か月程度で接続プロバイダに関する情報提供があります(前記事)。書面のタイトルは「情報提供書」です(弁護士の場合はFAXで届きます)。

確認するのは、この書面に記載されている、「他の開示関係役務提供者」(接続プロバイダ)の氏名等情報です。たとえば、以下のように書かれています。

[氏名又は名称]  KDDI株式会社
[住所] 東京都新宿区西新宿2丁目3番2号
[当該他の開示関係役務提供者が媒介等した通信の種類] 侵害関連通信(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律施行規則5条第1号及び第2号の通信)

このような情報であれば、KDDIに開示命令申立をするとよい、ということが分かります。施行規則5条1号、2号と書かれていますので、アカウント登録時ログインの接続プロバイダ、投稿時ログインの接続プロバイダ、ということになります。

開示命令申立書

開示命令申立書 使用する申立書テンプレは、「接続プロバイダ用」で「先行する提供命令あり」(Instagramに対する提供命令がある)、「ログイン型IPアドレス」(Instagramの口コミはログイン型)の3条件を満たすものということで、書式19-2です。

番号タイトルword/PDF
書式19-2 発信者情報開示命令申立書(接続プロバイダ用、先行する提供命令あり、ログイン型IP)

基本的に、「●」を埋めるだけで申立書ができあがるはずです。

管轄裁判所

提供命令で提供された接続プロバイダに対する開示命令申立は、提供命令の本案事件の管轄と同じになります(法10条7項)。Meta Platforms, Inc.に対する開示命令申立の管轄は東京地裁本庁なので、同社から提供された接続プロバイダに対する開示命令申立の管轄も東京地裁本庁になります。
たとえば、接続プロバイダとしてオプテージ(大阪本社)の氏名等情報が提供されても、大阪地裁になりません。

発信者情報開示命令事件手続規則

申立書テンプレの「手続規則2条に係る事件」には、先行する提供命令の本案事件の事件番号を書きます(発信者情報開示命令事件手続規則2条1号)。具体的には、Meta Platforms, Inc.に対する発信者情報開示命令事件の事件番号です。

(別紙)発信者情報目録

提供命令で接続プロバイダが判明した場合には、申立人はIPアドレスと接続日時を知らないため、発信者情報目録にそれらの情報を記載できません(比較例:書式20-2)。
そこで、「提供命令によってMeta Platforms, Inc.から提供された情報」という趣旨で、以下のように記載しています。提供命令の事件番号、発令日を記入してください。申立書テンプレで「株式会社●」となっているところは、提供命令の相手方を記載するので、今回は「Meta Platforms, Inc.」です。

東京地方裁判所が令和●年●月●日付けでした令和●年(モ)第6●号提供命令申立事件の提供命令主文第2項に基づき、株式会社●から相手方に提供された発信者情報によって特定される契約者に関する以下の情報。
1 氏名または名称
2 住所
3 電話番号
4 メールアドレス

(別紙)投稿記事目録・権利侵害の説明

(別紙)投稿記事目録と、(別紙)権利侵害の説明は、Meta Platforms, Inc.に対する開示命令申立書からコピーするだけです。

(別紙)当事者目録

(別紙)当事者目録で、「申立人」(と代理人)はMeta Platforms, Inc.に対する申立と同じです。「相手方」の部分には、接続プロバイダの情報を記入してください。

甲号証

甲●:(画面)
画面のスクショまたは印刷物を想定しています。「甲1」とでもしてください。
Meta Platforms, Inc.に対する請求と異なり、「アカウントのURLが写ったスクショ(または印刷物)」は必須ではありません。
他方、投稿日時の証明のためのスクショは、接続プロバイダの争い方によっては必要となることもあります。たとえば、「投稿日時が分からないので、このログインが侵害関連通信かどうか分からない」といった反論が想定されます。
そのため、原則としてMeta Platforms, Inc.に対する請求で証拠提出したのと同じものを出しておくとよいです。

甲●:提供命令
Meta Platforms, Inc.に対する提供命令の決定書を証拠にします。発信者情報目録記載の、①提供命令の事件番号、②発令日、③提供命令の相手方、の立証になります。甲2とでもしてください。

甲●:提供情報
Meta Platforms, Inc.に対する提供命令により、同社代理人から送られてきた情報提供書です。接続プロバイダの氏名等情報が提供されたこと、および他の開示関係役務提供者の氏名等情報の証拠になります。甲3とでもしてください。

甲●:(権利侵害の明白性)
投稿内容が違法であることを裏付ける証拠です。甲4とでもしてください。Meta Platforms, Inc.に対する開示命令申立の際に使用したものと同じです。証拠番号も同じにするのであれば、提供命令の決定書と情報提供書の証拠番号をずらします。

甲●:(ログ保存期間)
消去禁止命令の申立てのため、接続プロバイダのログ保存期間が3か月~6か月であることを文献などで証明します。消去禁止命令のための証拠なので、厳密には疎明のための疎明資料です。
Meta Platforms, Inc.に対する開示命令申立の際に使用したのと同じもので問題ありません。甲5とでもしてください。

証拠説明書

東京地裁9部では証拠説明書は必須です。証拠説明書がどんなものか分からない人は、裁判所のサンプルを真似してください。
表の部分は、以下の内容くらい簡単でも良いでしょう

号証標目原・写作成年月日作成者立証趣旨
甲1の1@●・Instagram写真と動画氏名不詳者本件投稿の内容
甲1の2@●・Instagram写真と動画氏名不詳者本件アカウントのURL
甲1の3DevToolsMeta Platforms本件投稿の投稿日時
甲2決定裁判所提供命令発令の事実。
甲3情報提供書Meta Platforms相手方が開示関係役務提供者である事実。
甲4陳述書2023/11/18申立人摘示事実の反真実性、同定可能性
甲5付録32023/9/13神田知宏接続プロバイダのログ保存期間
番号タイトルWord/PDF
書式33-6 証拠説明書サンプル(Instagramから提供命令で提供された接続プロバイダ用)

プロ責法15条1項2号の通知

プロ責法15条1項2号の通知 接続プロバイダに対する申立書を裁判所に出して事件番号が付いたら、Meta Platforms, Inc.に対し、プロ責法15条1項2号の通知をします。宛先は、提供命令の際に情報提供書を送ってきたMeta Platforms, Inc.の代理人あてで構いません。
この通知をしないと、Meta Platforms, Inc.から接続プロバイダあてにIPアドレス・タイムスタンプの情報が行かないので、最悪、接続プロバイダのログ保存期間が過ぎてしまうリスクがあります。危険なので、絶対に忘れないようにしましょう。
書式に決まりはないので、要点が伝わればどのようなものでも構いません。

番号タイトルword/PDF
書式23-1 開示命令申立の通知書(15条1項2号)

この通知のあと、Meta Platforms, Inc.から接続プロバイダに対してIPアドレス・タイムスタンプが伝わり、接続プロバイダがログを調査し、ログが見つかった場合には「保有している」という回答書を裁判所に送ります。同時に、申立人へも送られることがあります。
この回答があったあと、裁判所ではMeta Platforms, Inc.に対する事件を「第1事件」、接続プロバイダに対する事件を「第2事件」として、2つの事件を併合します。

特定できないといわれたとき

上記のように、Meta Platforms, Inc.から接続プロバイダに対して提供命令主文2項の提供(IPアドレス、タイムスタンプの提供)あると、接続プロバイダはログの調査をし、その結果を回答してきます。
「保有している」との回答であれば、そのまま手続が進みますが、「保有していない(通信を特定できない)」と回答されることも珍しくありません。

ソースポート番号が必要

接続プロバイダからの回答が「ソースポート番号が必要」というものであった場合には、接続プロバイダに対する第2事件はそこで手詰まりです(接続プロバイダに対する申立ては取下げになります)。Meta Platforms, Inc.からソースポート番号が開示されたことはありません。

接続先IPアドレスが必要

接続プロバイダからの回答が「接続先IPアドレスが必要」というものであった場合には、まだ見込みはあります。Meta Platforms, Inc.が接続先IPアドレスを開示しないのはソースポート番号の場合と同じですが、接続先IPアドレスは、調べようがあります。
そこで、訂正申立書を作り、接続先IPアドレスの候補を(別紙)発信者情報目録に追記します。表現としては、以下のようになります。

 東京地方裁判所が令和●年●月●日付けでした令和●年(モ)第6●号提供命令申立事件の提供命令主文第2項に基づき、Meta Platforms, Inc.から相手方に提供された接続日時において、同じく相手方に提供されたIPアドレスを使用し、下表の接続先IPアドレスのうちいずれかに接続した契約者に関する以下の情報。
1 氏名または名称
2 住所
3 電話番号
4 メールアドレス

接続先IPアドレスは証拠が必要となりますが、報告書で足るようです。下記報告書を甲号証として追加し、証拠説明書も出します。

番号タイトルword/PDF
書式34-3 訂正申立書(Instagramから提供命令で判明したAP用、接続先IPの追加)
資料06 接続先IPアドレスの報告書(Instagram用)
Word形式は値のみ(申立書へのコピペ用)

経験上、この接続先IPアドレスの追加で投稿者が特定できる可能性は、それなりにあると感じています。「見つからない」と言われたときは手詰まりです(接続プロバイダに対する申立ては取下げになります)。あとは、アカウントに電話番号が登録されていることに期待し、Meta Platforms, Inc.に対する開示命令申立だけ続行します。


2023/12/07 新規作成