2021年プロバイダ責任制限法改正を受け、発信者情報開示請求の手続きの流れを現行法と改正法で比較します。第2回は、実名登録サイトから住所氏名を開示する類型、SNSから電話番号、メアドを開示する類型です。
現行制度の復習
まず、現行制度の復習です。上図は、拙著「インターネット削除請求・発信者情報開示請求の実務と書式」56講(実名登録サイト)、58講左頁(SNSでアカウント情報の開示)で使ったものです。
実名登録サイト
実名登録サイトには、サイト利用者の住所氏名等が登録されているので、サイト管理者に対し、住所氏名の開示請求訴訟を提起します(上図①)。
サイト管理者は投稿者に意見照会し(上図②~③)、回答を裁判手続に反映させますが、認容判決ならば住所氏名等の情報が開示されます(上図④)。
SNSのアカウント情報
SNSには、通常、サイト利用者のメールアドレスと電話番号(二段階認証用)が登録されているので、サイト管理者に対し、電話番号とメールアドレスの開示訴訟を提起します(上図①)。TwitterなどのSNS事業者はカリフォルニア州法人のため、訴状の送達だけで4~5か月かかります。そのため、第1回期日は半年先に設定され、そこからの審理になるため、判決までに9か月~1年ほどかかります。
SNS事業者は、意見照会(上図②~③)はしていないように見えます。
訴訟の結果、認容判決ならばアカウント情報が開示されます(上図④)。電話番号については、弁護士会の23条照会により住所氏名を照会し、使用者の住所氏名の情報を取得します。
発信者情報開示命令制度
https://kandato.jp/newproseki/
実名登録サイト
実名登録サイトを相手方として、サイトに登録されている住所氏名について、発信者情報開示命令を申し立てます(新法8条、上図①)。
サイト管理者は、会員の「意見(当該開示の請求に応じるべきでない旨の意見である場合には、その理由を含む。)を聴かなければならない」(新法6条1項)とあるので、意見照会します(上図②)。
審問期日(新法11条3項)を経た結果、開示命令が発令されると、会員の住所氏名などが開示されます(上図③)。
開示命令が発令されたときは、「開示の請求に応じるべきでない旨の意見を述べた当該発信者情報開示命令に係る侵害情報の発信者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければならない」とあるので(新法6条2項)、開示に不同意とした投稿者へは、発令されたことを通知する必要があります。
SNSアカウントの登録情報
SNSのアカウント情報(電話番号、メールアドレス)について開示命令申立する場合も、基本的なところは同じと考えられます。
現行制度が訴訟必須なのと比べて変わるのは、海外法人の呼出にかかる期間だと思います。現行制度では第1回口頭弁論期日までに半年以上かかるのに対し、新制度では、仮処分の呼出が2~3週間、借地非訟の呼出が1~1.5か月であることに照らし、第1回審問期日まで1~1.5か月程度と予想されます。
条文では意見照会が必須と書いてありますが(新法6条1項)、SNS事業者は今でも実施していないようなので、新制度でも実施しないのではないでしょうか。
開示命令が発令されると、アカウント情報が開示されます。
考察
電話会社に開示命令の申立ができるか?
SNS事業者から電話番号を開示された後、現行制度では弁護士会23条照会で住所氏名を照会しているわけですが、新制度でも同じなのでしょうか。電話会社を相手方として、開示命令申立はできないのでしょうか?
条文上、できないと思います。
発信者情報開示命令の申立は、新法5条1項、2項による請求と規定されているので(新法8条)、新法5条1項、2項を見ると、1項は特定電気通信役務提供者、2項は関連電気通信役務提供者に対する開示請求となっています。
ということは、侵害情報を流通させた特定電気通信役務提供者でもなく、侵害関連通信を媒介した関連電気通信役務提供者でもない(少なくとも証明・疎明できない)電話会社に対し、発信者情報開示命令の申立はできない、となるはずです。
メールアドレスの開示命令の申立ができるか?
SNS事業者からメールアドレスを開示された場合も同様の問題が生じます。メールアドレスを提供している事業者に対し、メールアドレス登録者の情報を開示命令申立できるか、との問題です。
こちらも条文上、できないと思います。理由は上記と同じです。
メールアドレスを提供している事業者は、特定電気通信役務提供者ではなく、関連電気通信役務提供者でもないためです。
「意見聴取」?
現行制度では、投稿者の意見を「聴く」手続を「意見照会」と呼んでいますが、新法6条2項、附則2条に「意見聴取」なるキーワードが出ていますので、今後は意見聴取に変更かもしれません。
- 2021/04/24 作成