「アマゾン」のサイトに購入者が投稿した商品評価(レビュー)の内容を巡って東京地裁で係争中だった名誉毀損訴訟で、被告のアマゾン側が、日本語サイトを運営しているのは日本法人「アマゾンジャパン」だと認めていたことが11日、分かった。
(共同通信 2016/4/11)
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特筆すべき点
Amazonのサイトでは,「当サイトの管理運営会社名および所在地」については,米国の「Amazon.com Int’l Sales, Inc.」(アマゾンドットコムインターナショナルセールスインク)だと書かれています(「Amazon.co.jp 利用規約」)。「日本でのお問い合わせ先」として「アマゾンジャパン株式会社」の名称も書かれていますが,あくまで「気付」であり,宛先としては,「Amazon.com Int’l Sales, Inc.」となっています。つまり,サイト管理者は米国法人であり,日本法人ではない,という表明です。
そのため,アマゾンのレビューについて削除請求したり,レビュー投稿者について発信者情報開示請求する場合,その被告,債務者となるのは,日本法人ではなく米国法人だということになります。
にもかかわらず,本件ニュースでは,日本語サイトを運営しているのは日本法人「アマゾンジャパン」だと「認め」ていたと書かれており,訴訟の被告,仮処分の債務者は日本法人でよいということが分かります。
この点が,本件訴訟の特筆すべき点です。
従前,アマゾンは,日本法人に対して仮処分申立をしても,米国法人に請求し直すよう主張していたそうです。これは,グーグルなどの態度と同じです。日本法人に削除を請求しても,日本法人にはデータ管理権がないので何もできず,削除して欲しければ米国法人に請求せよ,と主張するものです。アマゾンも従前はこの対応だったとのことです。
しかし本件では,日本法人がサイト管理者だと「認めた」とあります。弁論主義により,当事者間に争いのない事実は判決の基礎としなければいけません。この「認めた」というアマゾンの方針が,今後も継続されれば,日本の被害者救済に資するものと思われます。
2段階か1段階か
別のニュースでは,通常の発信者情報開示請求は,1)IPアドレス開示請求,2)住所氏名の開示請求,という2段階であるところ,本件訴訟では1)の請求がないため,「2段階ではなく1段階」であることが画期的,と説明されていました。
しかし,この捉え方は正確ではありません。最近では匿名サイトが多いため,やむなく2段階の手続が要求されているものの,実名登録サイトであれば,本来1段階の手続で投稿者が判明します。過去に裁判例がある類似のものとしては,「ヤフオク」「楽天」があげられます。いずれも実名登録サイトのため,IPアドレスの開示請求をせず,すぐ投稿者の住所氏名の開示請求をすることができます。
同様に,サーバー契約者も同じです。レンタルサーバーの契約者は実名登録が一般的ですから,サーバー会社からIPアドレスを取得する必要は必ずしもなく,すぐに住所氏名の開示請求ができます。
なぜ認めたのか
問題は,なぜアマゾン日本法人が,自らが顧客情報の管理者だと認めたか,ということです。この点については,「Amazon.co.jp プライバシー規約」において「お客様に関する情報をAmazon.com, Inc. 並びに同社によって管理されるAmazon.com Int’l Sales, Inc.、Amazon Services International, Inc. およびアマゾンジャパン株式会社等の子会社間で、前述した利用目的のために共同利用し、下記に記載のとおり共有いたします。」と記載されていることからして,日本法人が顧客情報を管理している事実はもう争わない,ということと想像されます。そうすると,「発信者情報開示請求」ではなく「削除請求」であれば,今後も争う余地はあるのかもしれません。
レビューで注意すべきこと
そもそも商品に対するレビューは,「物」への評価であり,出品者,著者といった「人」に対する評価ではありません。そのため人格攻撃に及んでいない限り,人格権侵害を理由とする削除請求はできません。また,営業権侵害を理由とする発信者情報開示請求にも制限があります。
レビューを理由にして削除請求や発信者情報開示請求,損害賠償請求されないようにするには,①レビューは商品に対する評価にとどめ,出品者等への人格攻撃はしないこと,②レビューは個人の感想にとどめ,証拠のない悪い事実や,推測した事実を書かないこと,③不適切な表現,酷い言葉を使わないこと,の3点が肝要です。