発チの申立書テンプレを育てる(消去禁止命令)

2022.11.07

今回のテーマは「消去禁止命令」の申立ての趣旨。

消去禁止命令の申立ての趣旨

 提供命令の申立の趣旨と同じく、消去禁止命令の申立ての趣旨についても、「主文目録をペタッと表紙に貼り付けて発令できると便利に違いない」と思い、10月上旬ころは主文目録付きの申立書テンプレを用意していた。
 しかし、提供命令の主文に比べ消去禁止命令の主文は短く、あえて主文目録スタイルにするほどのこともなかった。
 そこで10月中旬ころ、早々に主文目録スタイルは放棄し、ベタ書きスタイルの申立ての趣旨にした。以下がそれ(2022/11/06まで公開していたもの)。

 冒頭部分を「別紙投稿記事目録記載の投稿に係る発信者情報開示命令申立事件」としていたのは、あらゆる事態に備え、ログを保存しておいてもらおうと考えたためだ。別の機会に開示命令申立をすることもあるかもしれず、それが終わるまで保存しておいてもらおう、などと漠然と考えていた。
 ただ、これは16条1項の文理解釈に反する。消去禁止命令は、本案たる開示命令申立事件に付随するものだから、保存の対象となるログは、本案たる開示命令申立事件のログに限定される。ログ保存仮処分とはワケが違うのだ。
 ということで、今回表現変更の憂き目に遭う部分である。

2  消去禁止命令申立事件
 相手方は、別紙投稿記事目録記載の投稿に係る発信者情報開示命令申立事件(当該事件に係る申立てについての決定(当該申立てを不適法として却下する決定を除く。)に対して異議の訴えが提起されたときは、その訴訟)が終了するまでの間、別紙発信者情報目録記載の各情報を消去してはならない。
との裁判を求める。

実際に発令されたもの

 上記、消去禁止命令の「申立ての趣旨」(案文)が裁判所でどのような扱いを受けるのか、長い間(1か月間)、謎だった。というのも、プロバイダは裁判所から「別紙事務連絡書式4」(消去禁止命令申立があると、裁判所からプロバイダに送られる)が届くと、「3 保存期間の終期」に数か月先の日付を記入のうえ、ログを任意保存してしまうためだ。結局、接続プロバイダに対して消去禁止命令を申し立てても、原則として取下げとなり発令に至らない。
 消去禁止命令が発令されるのは、ソフトバンク×Twitterのように「任意では保存しない」と明言されているケースに限られる。

 今回、この条件をみたし、消去禁止命令の実物を入手できたので、ご覧いただこう。

 「発信者情報目録」は、ありふれたものなので検討不要。問題は主文だ。書き出しがNBLに載っていたサンプルとも違う。

 冒頭にある「上記本案事件」の「上記」というのは、本案たる発信者情報開示命令事件の事件番号記載部分であり、「(本案・令和4年(発チ)第●号)」と書かれている部分を指している。

 この冒頭部分は、NBLのサンプルでは「前項の申立てに係る発信者情報開示命令申立事件」と書かれている。しかし、消去禁止命令が単独で発令されることを思うと(実際の決定には「前項」がないので)、決定の主文には「前項の申立てに係る」とは書けない。
 しかし他方で、消去禁止命令申立書の申立ての趣旨を発令例のように「上記本案事件」とすることもできないと思う。消去禁止命令の申立ての趣旨の「上」には本案事件の事件番号がないからだ。「上」にあるのは本案たる開示命令の申立ての趣旨であり、これを「本案事件」と言うのも変だろう。

 ところで、9部公式サイトでは、以下のようなサンプルが公開されている。

相手方は、○○地方裁判所令和○年(発チ)第○○号発信者情報開示命令申立事件(当該事件に係る申立てについての決定(当該申立てを不適法として却下する決定を除く。)に対して異議の訴えが提起されたときは、その訴訟)が終了するまでの間、別紙発信者情報目録記載の各情報を消去してはならない。

 このサンプルは、裁判官が決定を書く場面を想定しているのだろう、「○○地方裁判所令和○年(発チ)第○○号発信者情報開示命令申立事件」と書かれている。申立ての段階では事件番号は付いていないため、申立ての趣旨でもこの表現は使えない。

申立ての趣旨へフィードバック

 さて、どう表現するとよいのか。

 「相手方は『本案事件』が終了するまでの間」のように、「本案事件」だけにするかとも考えたが、しっくりこない。どの事件を指しているのか明確でないためだろう。悩みは尽きないが、ここでいう「本案事件」というのは、法16条1項にある「本案の発信者情報開示命令事件」のことだから、これをそのまま書いてみてはどうだろうか。とりあえず、テンプレにも反映しておいた。

2  消去禁止命令申立事件
 相手方は、本案の発信者情報開示命令事件(当該事件に係る申立てについての決定(当該申立てを不適法として却下する決定を除く。)に対して異議の訴えが提起されたときは、その訴訟)が終了するまでの間、別紙発信者情報目録記載の各情報を消去してはならない。
との裁判を求める。

(つづく)


  • 2022/11/07 初回作成