発チの申立書テンプレを育てるプロジェクト(1)

2022.10.14

 発信者情報開示命令の制度が2022年10月1日から始まった。しかし、まだ裁判所では申立書の雛型を公開していない。東京地裁9部の裁判官が書いたNBLの記事(No.1226「発信者情報開示命令事件に関する裁判手続の運用について」)があるだけだ(注:その後、東京地裁9部公式サイトで申立ての趣旨記載例が公開された。)。そのためしばらくの間、申立人手続代理人のほうでの試行錯誤が求められる。
 そこで今回は、「発チの申立書テンプレを育てるプロジェクト」と題し、まずは、特に難しいと感じた提供命令申立書に関する試行錯誤、裁判官・書記官とのやり取りのあれこれを書いてみた。なお、私は「発チ」を「ハッチ」と発音している。ATOKに単語登録もした。裁判官・書記官は「ハツ・チ」だ。(言いにくかろう)と心の中でつぶやいている。

 拙作の申立書テンプレ(育て中)は、以下のページで公開中。

3つの申立ては別々に

 当初、私は以下のような申立ての趣旨を用意していた(実際、これで複数の申立てをした)。

1  相手方は、申立人に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ
2  相手方は、別紙提供命令主文目録記載の各情報を提供せよ。

 しかし、これでは開示命令と提供命令が同時に発令されるような体裁になっているため、9部書記官より、開示命令、提供命令、消去禁止命令の申立ては別々に書き、それぞれに「との裁判を求める」を付けるよう指示された(なお、初期テンプレートでは「との決定を求める」と書いていた)。
 そこで変更したのが、以下のような申立ての趣旨である。

 この方式(主文目録スタイル)は、仮処分でも使われていた「発信者情報目録」のほかに「提供命令主文目録」(独自)を引用している(後述)。

1  発信者情報開示命令申立事件
 相手方は、申立人に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ
との裁判を求める
2  提供命令申立事件
(1)  相手方は、申立人に対し、別紙提供命令主文目録記載1の事項を書面又は電磁的方法により提供せよ。
(2)  相手方は、別紙提供命令主文目録記載2のとおり、各情報を書面又は電磁的方法により提供せよ。
との裁判を求める

提供命令の主文は目録方式かベタ書きか

 次に問題となるのが、提供命令の主文・申立ての趣旨をベタ書きで書くのか、主文目録を引用する方式にするかという点だ。私は主文目録スタイルを推している。理由は、仮処分決定のスタイルを踏襲したいのと、そのほうが裁判所の手間も減って訴訟経済の観点から良いのではないか、申立ての趣旨も主文もすっきりするのではないか、等々と思うことによる。主文目録スタイルを採用すると、裁判所は決定の表紙に主文目録をペタッとくっつけるだけで発令できる。

 ただ、現在のところ、裁判所からはベタ書き方式の主文しか発令されていないように見える。これに従うと、申立ての趣旨のところがとても長くなるため、申立書テンプレも不格好になる、と私は思っている。裁判所は主文目録スタイルを完全に否定しているわけではなさそうだが、日本語がおかしい、などの問題点を指摘されている。

 以下、手持ちの提供命令(発令済み)主文と発信者情報目録を貼っておく。

【ベタ書き方式】(発令済み・非ログイン型)

(※画像はクリックすると大きくなります)

提供命令主文・非ログイン型
提供命令・発信者情報目録

【ベタ書き方式】(発令済み・ログイン型)

提供命令主文・ログイン型
提供命令用発信者情報目録

発信者情報目録は2つに分ける

 発チの事件では、仮処分と異なり、「アカウント情報」と「IPアドレス・タイムスタンプ」を1つの「発信者情報目録」でまとめて開示請求できる。
 ログイン時IPアドレスが開示されるサイト(Twitter、Googleなどログイン型IPのサイト)だけでなく、投稿時IPアドレスが開示されるサイト(ヤフー、YouTube、Amazonなど非ログイン型IPのサイト)でも、会員登録が必要なサイトなら、同じような申立てができる。

 しかし、発令されたものを見ると、上記のとおり「(別紙)提供命令用発信者情報目録」なるものが付いていた。これは、発信者情報目録で「1 アカウント情報」「2 IPアドレス等に関する情報」とまとめていたものを分離し、IPアドレス等に関する部分だけを別の目録にしたものだ。

 裁判所としては、申立ての段階から、発信者情報目録と、提供命令用発信者情報目録を分けて欲しいということなのだろう。たしかにそのほうが、提供命令を迅速に発令できる。

 このようにするのであれば、発信者情報目録では「1 アカウント情報」「2 IPアドレス等に関する情報」をまとめて書き、提供命令用発信者情報目録では、そのうち2だけを独立させることになる。なお、だからといって本案たる開示命令申立における発信者情報目録を「1 アカウント情報」だけにしてはいけない。提供命令の対象について、法15条1項1号イに「当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。」との限定があるためだ。「2 IPアドレス等に関する情報」は、本案たる開示命令申立書の発信者情報目録にも書いておく必要がある。

 もちろん、アカウント情報のないサイトであれば、IPアドレス等に関する情報しか開示請求しないわけだから、発信者情報目録と提供命令用発信者情報目録(のうち、15条1項1号イに関する部分)は同じ内容になる。

提供命令の1項1号イ号、ロ号における「発信者情報目録」

 最も条文の難しかったのが、提供命令のイ号、ロ号(法15条1項1号イ、ロ)において引用すべき「発信者情報目録」が何なのか?という問題だった。この部分で裁判官から数度の指摘を受け、いくつも訂正申立書を出した。

 まずイ号から見ると、条文は「当該開示関係役務提供者がその保有する発信者情報(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。以下この項において同じ。)により当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者(当該侵害情報の発信者であると認めるものを除く。ロにおいて同じ。)の氏名又は名称及び住所(以下この項及び第三項において『他の開示関係役務提供者の氏名等情報』という。)の特定をすることができる場合」となっている。

 サイト管理者の保有する発信者情報により、接続プロバイダが特定できるときというのが条文の意味だから、ここで引用すべき発信者情報目録は、IPアドレス、タイムスタンプを列挙したものになる(たとえば、日本ネットワークイネイブラーであれば、タイムスタンプがなければ次のプロバイダが分からないケースがあるため、タイムスタンプも必要な情報となる)。
 結論として、イ号で引用する発信者情報目録は、本案たる開示命令申立に付ける発信者情報目録から「1 アカウント情報」を除いたものになる。アカウント情報のないサイトであれば、本案たる開示命令申立書の発信者情報目録をそのまま引用すれば足る。

 問題はロ号のほうだ。条文は、「当該開示関係役務提供者が当該侵害情報に係る他の開示関係役務提供者を特定するために用いることができる発信者情報として総務省令で定めるものを保有していない場合又は当該開示関係役務提供者がその保有する当該発信者情報によりイに規定する特定をすることができない場合」となっている。「発信者情報」という言葉が2つあるが、後者には「当該」とあるので、どちらも同じものを指している。そのため、ロ号で引用すべき発信者情報目録は1種類ということになる。だが、この先が難しい。イ号で引用する発信者情報目録と同じものではなく、総務省令、つまり施行規則7条に列挙された発信者情報でなければならない。さらに、イ号に「(当該発信者情報開示命令の申立てに係るものに限る。以下この項において同じ。)」とあることから、ロ号で引用すべき発信者情報目録は、本案たる開示命令申立に付けた発信者情報目録の一部でなければならない。

 つまり、発信者情報目録と、施行規則7条の重なり部分が、ロ号で引用すべき発信者情報目録となる。答えを書いてしまうと、(1)サイト管理者に対するものであれば、「発信者情報目録からタイムスタンプを除いたもの」がこれに当たる。(2)接続プロバイダに対するものであれば、もともと接続プロバイダに対してはタイムスタンプを開示請求しないため、発信者情報目録から契約者情報を除いたものになる(施行規則7条2号3号)。

ロ号の発信者情報

 (1)の内容を「発信者情報目録」とは別の名前の目録にするのか、または、「発信者情報目録からタイムスタンプを除いたもの」とするか等は工夫次第である。裁判所の発令したものでは、次のように表現されている。

「別紙発信者情報目録記載1及び3の各情報」、「当該各情報」

「別紙提供命令用発信者情報目録記載1ないし3の各情報」、「当該各情報」

 ただ、こういう書き方にすると、事案ごとに主文が変わってしまって美しくない。目指したいのは、最低限の変更だけで申立書セットの作れる申立書テンプレなのだ。

提供命令の1項2号における「発信者情報目録」

10/14に書いたものを読み返してみると、1つ忘れている項目があった。1項2号における「発信者情報目録」だ。

条文は「当該他の開示関係役務提供者に対し、当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報を書面又は電磁的方法により提供すること」となっている。趣旨としては、サイト管理者から接続プロバイダに対し、保有する発信者情報を提供して、投稿者を特定してもらうところにある。

そのため、従前の発信者情報開示請求訴訟と同じで、IPアドレス、タイムスタンプ、接続先IPアドレス(あれば)、を渡してもらわねばならない。
このことから、2号で引用すべき発信者情報目録は、1号イで引用する発信者情報目録と同じになる。

結局、発信者情報目録は何個いるのか?

まとめると、発信者情報目録は以下の最大3種類が必要になる。

  1. 本案たる発信者情報開示命令申立書に付ける「発信者情報目録」(アカウント情報も開示請求する場合は、アカウント情報と、IPアドレスに関する情報を記載する。アカウント情報がない場合は、IPアドレスに関する情報を記載する)
  2. 提供命令申立書で、15条1項1号イ、同項2号で引用する「(提供命令用)発信者情報目録」(上記1の発信者情報目録のうち、IPアドレスに関する部分を抜粋したもの。アカウント情報のないサイトであれば、1の発信者情報目録と、2の(提供命令用)発信者情報目録は同じものになる)
  3. 提供命令申立書で、15条1項1号ロ、で引用する「(提供命令用)発信者情報目録」の一部(上記2の発信者情報目録のうち、タイムスタンプに関する項目を除いたもの。2にタイムスタンプの情報がなければ、2と同じものになる)これを目録形式にするか、「2のうちタイムスタンプをのぞくもの」と書くかはお好みによる。

(2022/11/04に公開した暫定FIX版では、この3つを統合し1つの「発信者情報目録」としている。詳しくは発チの申立書テンプレを育てるプロジェクト(3)

(つづく)


  • 2022/10/14 初回作成
  • 2022/10/21 15条1項2号を追記
  • 2022/11/07 微調整
  • 2022/11/08 他の記事と表現を統一