住所・氏名・電話番号の削除請求

2015.08.17

ネット上に掲載された,住所・氏名・電話番号に関する削除請求の法的な根拠は,プライバシー侵害に基づく削除請求です。人格権に基づく妨害排除請求権としての削除請求権の1類型,と捉えることができます。

 判断基準

比較的新しいところで探しますと,大阪高裁平成13年12月25日判決は,「被控訴人らの個人情報は、明らかに私生活上の事柄を含むものであり、一般通常人の感受性を基準にしても公開を欲しないであろうと考えられる事柄であり、更にはいまだ一般の人に知られていない事柄であるといえる。したがって、上記の情報は、被控訴人らのプライバシーに属する情報であり、それは権利として保護されるべきものである」と判断しています。

この判断によると,プライバシー権侵害の基準は,宴のあと事件判決と同じく,

  1. 私生活上の事柄
  2. 一般通常人の感受性を基準にしても公開を欲しないであろうと考えられる事柄
  3. いまだ一般の人に知られていない事柄

の3要件となります。

 限定的公開情報とプライバシー

では,すでに電話帳や法人登記,訴訟記録として公開されている情報の場合,プライバシー侵害は成立するでしょうか。プライバシー侵害となる,と判断した裁判例を3つ紹介します。
上記の3要件のうち,「いまだ一般の人に知られていない」と言えるのか,という問題と,自ら公開を認めている情報であって,プライバシーは放棄されているのではないか,という問題があり,これらに関する判断となっています。

そういった限定的公開情報,制限的公開情報をネットから削除する必要があるのかどうかという問題は,「図書館等へ行けば分かる情報なのに,なぜネットから消す必要があるのか」という議論と似ています。
人格権侵害に基づく削除請求権が認められるかどうかは,「受忍限度」の判断です。官公庁や図書館へ行けば分かるのは仕方ないとしても,ネットで瞬時に検索できてしまうことは受忍限度ではない,という主張が可能なのではないかと思います。

電話帳記載の住所

東京地裁平成23年8月29日判決(2011WLJPCA08298005)

個人の自宅等の住居の所在地に関する情報(以下「自宅住所情報」という。)をみだりに公表されない利益は,いずれも,原告らにとって,私的な情報であるといえ,かつ,一般的に広く知れ渡っている情報ともいえないから,原告らが,自宅住所情報について,原告らが欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは決して不合理なことではなく,かかる期待は保護されるべきものであり,プライバシーの利益として法的に保護されるべき利益というべきである。

被告は,原告X1の住所は,登記簿や電話帳にも記載されているなどとして,これがプライバシーの利益として保護される情報ではないと主張する。なるほど,証拠(乙11,12)によれば,上記各事実は認められるが,登記簿や電話帳への自宅住所の記載は,いずれも一定の目的の下に限定された媒体ないし方法で公開されるもので,同目的に照らし限定的に利用され,同目的と関係ない目的のために利用される危険は少ないものと考えられ,公開する者もそのように期待して公開に係る自宅住所情報の伝搬を上記範囲に制限しているというべきであるから,上記各事実を理由として,原告X1が自宅住所情報につきプライバシーの利益として保護されることまで放棄していると評価することはできない。被告の上記主張は採用できない。

法人登記記載の代表取締役の住所

東京地裁平成19年6月4日判決(2007WLJPCA06048002)

被告は,原告が株式会社の代表取締役であって,住所は登記事項であること,本件各投稿はパソコンを使用して個人情報を集められる程度の氏名,住所,電話番号といった情報を公開するにとどまっていることを指摘し,プライバシーの侵害はないと主張する。しかしながら,プライバシー権とは,私生活をみだりに公開されない権利であるところ,私的情報につき登記簿その他で探知しうる手段が存在するからといって,これをもってそのような私的情報が一般人に広く知られているとはいえない

訴訟記録の内容

東京地裁平成13年10月5日判決(2001WLJPCA10050002)

別件訴訟が公開の法廷で行われ、訴訟記録の閲覧が制度上認められているからといって、本件記事の内容が当時一般の人々に知られていたとは認められないし、夫婦内部のトラブルにおける一方の言動は、他方にとっても他人に知られたくない私生活上の事実である
よって、被告が本件記事によりこれらの事実を報道したことは、原告のプライバシー(私生活上の事柄をみだりに公表されないという法的利益)を侵害するものである。

注意点

名前だけが掲載されている場合は,プライバシー侵害と言えないケースが多いと考えられます。「一般通常人の感受性を基準にしても公開を欲しないであろうと考えられる事柄」と言えないためです。