遺族による削除請求・発信者情報開示請求

2020.05.24

遺族は削除請求できるのか

高齢の相談者からは、「この記事を残したままでは死ねない」と相談されることがあります。本人が生きているうちに削除請求するのは法的に問題ありませんが、では、本人の死後、遺族は削除請求ができるのでしょうか。今後、こういった相談も増えてくると思います。
若くして亡くなった子供や兄弟のために削除請求したいということも、当然あることでしょう。

サイト管理者に対する任意削除請求の方法

まず、サイト管理者に対し、「遺族ですが、削除して欲しいのです」と伝えて削除請求することに、法的な問題はありません。テレコムサービス協会の送信防止措置依頼書を使っても良いでしょうし、メールや削除請求フォームを利用してもよいでしょう。

この依頼に対し、サイト管理者が自分の判断で削除することについても、法的に問題はありません。利用規約に反している、などの理由でサイト管理者は削除することになるのでしょう。

Facebookなどは、死者のアカウントの扱いを利用規約に定めているので、確認してください。

サイト死者のアカウントについて
Facebook亡くなった利用者や、追悼アカウントにする必要があるFacebookのアカウントを報告するにはどうすればよいですか。
Twitter亡くなられた利用者のアカウントについてのご連絡方法

裁判手続で削除請求できるか

削除請求権は、正式名称を「人格権侵害差止請求権」といいます。自分の人格権が侵害されているときに、やめてほしい、と請求する権利です。

では、遺族は削除請求権を相続するでしょうか。これについて明確に述べた裁判例はないと思いますが、「人格権」は本人にしか帰属しないことから、人格権侵害差止請求権もまた、少なくとも帰属上の「一身専属権」、つまり当の本人以外には帰属しない権利と考えられ、相続もできないと考えます。

第八百九十六条 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089#FJ

もっとも、行使上の一身専属権かどうかは、別途考える必要がありそうです。最高裁は、慰謝料請求権については、その「自律的判断に委ねるのが相当」としていますので、生前に削除請求権を行使していた場合は、その意思を尊重して遺族の行使を認める、という考え方ができるかもしれません。

被害者がなおその請求意思を貫くかどうかをその自律的判断に委ねるのが相当であるから、右権利はなお一身専属性を有するものというべき

最一小判昭和58年10月6日(民集 37巻8号1041頁)

遺族自身の削除請求権はあるか

亡くなった人の名誉を傷付ける記事が、同時に遺族の名誉を傷付けることはあるでしょうし、プライバシー侵害や名誉感情侵害についても、同様のことが考えられます。もっとも、そうでないケースの方が圧倒的に多いと思います。

そこでアイデアとして考えられるのが、「敬愛・追慕の情」侵害を理由とする、遺族固有の削除請求権です。

東京高裁(東京高判昭和54年3月14日)は、「故人に対する遺族の敬愛追慕の情も一種の人格的法益としてこれを保護すべきものであるから、これを違法に侵害する行為は不法行為を構成するものといえよう。」として敬愛追慕の情を人格的利益だと判断していますので、これを理由とする削除請求も可能ではないかと思います。

遺族は発信者情報開示請求ができるのか

発信者情報開示請求権は「法定の権利」だと理解されていますので、一身専属権であり、本人以外は行使できないと考えられます(最判平成16年 2月24日判タ 1148号176頁を参考に)。

そうするとやはり、テレコムサービス協会の書式などでサイト管理者の自発的な開示を促すか、遺族自身の権利・利益(敬愛追慕の情)侵害を理由として発信者情報開示請求するしかないと考えます。

遺族は損害賠償請求できるのか

もっとも、投稿者が誰なのか分かっていれば、遺族は投稿者(加害者)に対して慰謝料請求ができます。慰謝料請求権は行使上の一身専属権と理解されており、相続が可能です。

  • 2020/5/24 作成