FAQ|全10項目
掲示板の投稿のうち、2026年1月から8月までの間、特に繰り返し質問された内容をQ&A形式にまとめました。個別の事案により結論は異なりますので、あくまで一般的な考え方の目安としてください。
1. 同定可能性・特定可能性の違いと「感想表現」の限界
Q. 匿名の投稿で、ハンドルネームしか出ていません。それでも名誉毀損として開示請求できますか。
名誉毀損が成立するためには、投稿を見た第三者が「誰のことを書いているのか」を認識できること(同定可能性)が必要です。ハンドルネームと本人とを結びつけて認識できないのであれば、名誉毀損としての開示請求は難しくなります。
これに対して、侮辱や名誉感情侵害は、投稿者自身が「自分のことを書かれている」と認識できれば足り(特定可能性・認識可能性)、第三者から見て誰のことか分かる必要はありません。同じ投稿でも、名誉毀損としては通らなくても、名誉感情侵害としてなら開示・損害賠償が認められる、というケースはよくあります。
Q.「まずそう」「頭が悪そう」「水商売してそう」といった投稿は、名誉感情侵害になりますか。
単なる感想・評価にとどまる表現は、基本的には適法な意見表明として扱われ、名誉毀損はもちろん、名誉感情侵害としても認められにくいのが実情です。認められやすいのは、いわゆる放送禁止用語に類するような強い侮辱表現であり、「水商売」「頭が悪そう」といった表現では、裁判所に違法性を認めてもらうのは難しいでしょう。
2. 慰謝料・示談金の相場
Q. 名誉毀損の慰謝料の相場はいくらくらいですか。
事案の内容によって大きく異なるため一概には言えませんが、目安としては調査費用を含めて40万~50万円程度に落ち着くケースが多いようです。原告が著名人である場合には、慰謝料が高額になっている裁判例が多く見られます。
投稿の数が多いからといって、慰謝料が単純に投稿数倍になるわけではなく、あくまで被害の実質的な大きさをもとに裁判所が判断します。
3. Xアカウント削除・凍結後の開示請求可否とログ保存期間
Q. 相手のXアカウントが削除されてしまいました。もう開示請求はできませんか。
アカウントが削除されると、特定できなくなるケースがとても多いのは事実です。ただし、絶対に不可能と決まっているわけではなく、実際にやってみないと分からない部分があります。
Q. アカウントが凍結された場合はどうですか。
凍結された場合、新しいログインの記録は作られなくなります。そのため、凍結から概ね2か月以内にIPアドレスの開示まで進める必要があるというのが実務上の目安です。なお、アカウント情報(電話番号・メールアドレスなど)は、凍結や削除から時間が経っていても残っている場合と、やはり残っていない場合とがあり、条件ははっきりしません。
4. 意見照会・開示決定に伴う投稿者側への通知範囲
Q. 発信者情報開示請求をすると、請求者である自分の氏名や住所が投稿者に伝わってしまいますか。
意見照会や開示決定の手続を通じて、請求者(開示を求めた側)の氏名住所が投稿者に伝わることは通常ありませんが、プロバイダによっては、申立書記載の情報をマスキングせずに投稿者へ送るケースもあるようです。
Q. Xに対する開示決定が出た場合、投稿者本人にはいつ、どのような形で知らされるのですか。
Xに対する間接強制の手続を経るかどうかにかかわらず、投稿者への通知は、情報が実際に開示されるのとほぼ同じタイミングで届きます。開示請求の途中経過について、裁判所から投稿者に直接連絡がいくことはなく、投稿者に届くとすれば、意見照会や、最終的な開示・訴状送達の場面に限られます。
5. DM・マシュマロ等は「特定電気通信」に該当せず開示請求不可
Q. InstagramやXのDM、マシュマロなどの匿名質問箱サービスで誹謗中傷や脅迫的なメッセージを送られました。開示請求はできますか。
DM(Instagram・X・Discordの1対1のダイレクトメッセージ)や、マシュマロ・Wavebox・mondといった匿名質問箱サービスは、不特定多数への送信を前提とした通信(特定電気通信)には当たらないと考えられています。そのため、日本法上の発信者情報開示請求の対象にはならず、原則として開示を受けることはできません。
これは民事の開示請求だけでなく、刑事の名誉毀損・侮辱罪についても同様で、DMのような1対1のやり取りは「公然性」を欠くため、原則として名誉毀損罪・侮辱罪も成立しません。
6. 上位・下位プロバイダ判明後の追加の提供命令・開示命令手続
Q. アクセスプロバイダ(AP)に開示請求をしたところ、実はそのAPの下にさらに別のプロバイダ(下位プロバイダ)が介在していることが分かりました。どうすればよいですか。
このような場合には、判明した下位プロバイダに対して、改めて発信者情報開示命令(必要に応じて提供命令を付したもの)を申し立てる必要があります。ただし、下位プロバイダが存在することが確実である場合や、その可能性が高い場合でない限り、あらかじめ提供命令を付けることはしません。念のため付けておくと、かえって審理が長引く不利益があるためです。
7. X「開示日-60日/90日/93日」ルールの変遷
Q. Xに対する発信者情報開示請求では、いつ時点のログが開示されますか。
実務上の目安として、「開示決定の日から遡って何日前のログが開示されているか」という視点で考えます。概ね、開示日の60日前のログが開示されていますが、ときどき、90日前のログが開示されています。この数字は今後も変わり得るため、最新の状況を確認する必要があります。
8. 仮処分(IP開示)と発チ(アカウント情報開示)の同時申立ての実務
Q. なぜIPアドレスは仮処分で、アカウント情報は発信者情報開示命令(発チ)でと、手続を分けて申し立てるのですか。
発チ(発信者情報開示命令)は、決定が出てから執行文の付与を受けられるまでに1か月程度かかります。これに対して仮処分は、発令されればすぐに間接強制の手続に進むことができます。そのため、比較的急ぎで進めたいIPアドレスの開示は仮処分で行い、アカウント情報の開示は発チで行うという役割分担が実務上定着しています(東京地方裁判所民事第9部では、このような手続を「同時申立て」と呼んでいます)。
9. YouTube・Googleの提供命令・開示手続の遅延
Q. Google(YouTube)への発信者情報開示請求の進行が遅く、申立てから2~3か月経っても情報が保有されているかどうかの回答すらありません。何かできることはありますか。
Googleは、保有確認の回答だけで2か月程度かかるのが最近の実情です。裁判所に対して進行を促す上申書を提出したり、期日指定を求めたりすることは考えられますが、根本的にこの遅延を解消する決め手は今のところありません。ログの保存期間との兼ね合いもあるため、他のプロバイダに比べて時間的な余裕を持って動く必要があります。
10. 発チ異議の訴え・控訴の実務
Q. 発信者情報開示命令の決定に対する異議の訴えで敗訴しました。控訴する場合、控訴状のひな形はありますか。
控訴状については専用のテンプレートを用意していないため、裁判所のウェブサイト等にある一般的な書式を参考にしてください。なお、異議の訴え・控訴の審理が続いている間は、判決が確定するまで開示は行われないのが原則です。
以上、2026年1月から8月にかけて特にお問い合わせの多かった論点をまとめました。